四度目の結婚 ~不完全なオメガと冷徹な夫の甘い運命~

ひなた翠

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第三章:初めての夜

レオニードの誤解

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 いつもの夜が訪れる。仕事を終えて、寝る準備を整えると夫婦の寝室へと向かう。

 エミールはベッドに座っていて、膝を抱えている。いつもなら俺が部屋に足を踏み入れた時点で、服を脱ぎ始めるのに、今夜は全く動かなかった。

 月明かりが窓から差し込み、エミールの横顔を照らしている。

「エミール」

 名前を呼ぶと、エミールは顔を上げた。琥珀色の瞳が俺を見つめ、何か決意したような表情を浮かべていた。

「今夜は……」
 エミールは小さく息を吸い込み、静かに告げた。

「無理しなくていいです。指がほしいわけじゃないので」
 その言葉に、俺の身体が硬直した。拒否された。

「何を言っている」
 声が低くなった。エミールは俯き、膝を抱える腕に力を込めている。

「もう、来なくていいです」
「お前、何を……」

 苛立ちが込み上げてきた。今まで毎回受け入れていたのに、突然拒否するとはどういうつもりだ。

(あの仮面パーティのような場所に、また行くつもりなのか)

「何なんだ! お前は――」
 声を荒げると、エミールの身体が震えた。顔を上げ、涙で濡れた瞳が俺を見つめる。

「僕は……」
 声が震えている。意を決したように目に力が入ると、俺を真っ直ぐに見つめてきた。

「僕は子どもがほしいだけなんだ!」
 その言葉に、俺の思考が止まった。

(――子ども?)

「ただ……ただ自分の子を抱きたいだけなのに!」
 エミールの声が部屋に響き渡り、涙が頬を伝った。

「もう二十五歳で、身体は枯れる一方だ!」
 感情が溢れ出し、エミールは声を震わせながら続ける。

「歴史的にみても、初産での最高齢は二十八歳だ! もうあとがない! あと三年しかないのに、あなたは指だけで終わらせる!」

 顔を覆って泣き始めた。嗚咽が漏れ、肩が震えている。

「離婚してくれない……抱いてくれない……だから外で作るしかないのに……僕は外に出るのを禁止されてる」
 言葉が途切れ途切れになり、涙が止まらなくなっている。

(子どもが、欲しかっただけ)

 今まで「したい」と言っていたのは、オメガの本能に忠実だからだと思っていた。性に奔放で、抱かれることを求めているのだと。

 違った。エミールが欲しかったのは、子どもだった。自分の子を抱きたい。育てたい。ただそれだけの、純粋な願いからの行動だった。

「僕を憎んでいるのは知ってる……」
 エミールは顔を覆ったまま、震える声で続けた。

「父があなたの家を陥れたから……復讐のために結婚したんでしょう? 嫌いならさっさと開放してください――」

 エミールの小さな背中が震え続け、泣き声が部屋に響いていた。
 エミールの言葉が、胸に突き刺さる。

(俺は、今まで何をしていたんだ)

 今までのエミールの奇行の意味が、ようやく理解できた。毎晩透ける夜着を纏って訪ねてきたのも、ヒートの時に必死に懇願したのも、外の男を探しに行ったのも。全ては子どもを妊娠するためだった。

 子どもがほしいから、恥ずかしいことも厭わずにやってきた。使用人に嘲笑されても、拒絶されても、諦めなかった。どんなに辛くても、どんなに惨めでも、子どもを授かるために必死だった。

(俺は、ずっと……エミールの望みを、打ち砕いていた)

 指だけで終わらせ、妊娠の可能性を与えなかった。離婚も認めず、抱くこともせず、ただエミールを縛り付けていた。

 夫に抱かれないなら、外で子作りをするしかない。時間がないのだから、他の方法を探すしかない。だからあの仮面舞踏会のような場所に出かけた。

(俺が、間違っていた)
 全て、俺が悪い。自分の臆病さで、エミールの願いを踏みにじっていた。

「離婚は、できない」
 俺は静かに告げた。エミールが顔を上げ、涙で濡れた瞳が俺を見つめる。

「どうして……」
「お前は、俺の妻だ」

 エミールに近づき、その身体を抱きしめた。軽い身体が腕の中に収まり、エミールは驚いて俺にしがみついた。

「あの……」
「黙ってろ」

(エミールが望むなら、俺は何度も子種を注いでやる)

 過去の夫たちにはできなかった妊娠を、俺がさせてやる。エミールの望みを叶える。子どもを授ける。

「今夜は……」
 エミールの頬に手を添え、顔を近づけた。

「最後まで」
 唇を重ねた。今までとは違う、甘く濃厚なキス。

 舌を差し入れ、口内を探る。エミールの舌と絡み合い、甘い吐息が漏れた。深く、長く、愛情を込めてキスをする。エミールの手が俺の肩に回り、しがみついてきた。

 キスを離すと、エミールは息を荒げていた。頬が紅潮し、瞳が潤んでいる。

「レオニード……」
 名前を呼ぶエミールの声は、震えていた。

 俺はシャツのボタンを外し始めた。エミールは俺を見つめ、信じられないという表情を浮かべている。

「本当に……?」
「ああ」

 シャツを脱ぎ捨て、ズボンのベルトを外した。エミールも自分で寝衣を脱ぎ、白い肌が露わになっていく。
 月明かりが二人を照らし、影が壁に映る。
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