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第一章:運命の婚約
十歳と十四歳の記憶
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エドワールは月に一度、必ず屋敷を訪ねてきてくれた。
いつも手には小さな箱や包みを持っていて、私への土産だと言って手渡してくれた。宝石のような飴細工、絹のリボン、外国の珍しい絵本。一つ一つが私の宝物になった。部屋の棚には、エドワールからの贈り物が並んでいる。眺めるたびに、胸が温かくなった。
「今日はどんなお話を聞かせてくれるの?」
私は目を輝かせて尋ねた。エドワールはいつも、旅先の話や珍しい出来事を語ってくれた。遠い国の風景、見たこともない動物、不思議な習慣。私は夢中になって聞き入った。
「レティシアは賢いね。物覚えがいい」
エドワールが微笑んだ。褒められるたびに、嬉しくて顔が熱くなった。もっと褒めてほしくて、一生懸命勉強した。刺繍も、ピアノも、ダンスも、全部エドワールに見せたくて頑張った。
十歳の誕生日。彼の月一での訪問日と重なった。嬉しくてエドワールに駆け寄ろうとしたら庭で転んで膝を擦りむいた。痛みに涙が溢れ、立ち上がれなかった。
「レティシア!」
エドワールが走ってきてくれる。膝をついて私の傷を見つめ、眉を寄せた。
「痛いか?」
「う、うん……」
涙声で答えた。エドワールが私を抱き上げた。腕の中で身体が宙に浮き、思わずエドワールの首に腕を回す。
(胸がドキドキする)
「すぐに手当てをしよう」
優しい声が耳元で響いた。抱かれたまま屋敷へ運ばれ、医師に手当てをしてもらった。エドワールはずっと傍にいてくれた。手を握ってくれて、大丈夫だと言って私を安心させてくれる。
十四歳の冬、社交界にデビューした。初めての舞踏会。緊張で足が震え、階段を降りるのが怖かった。
「手を」
エドワールが手を差し出してくれた。大きな手に支えられ、階段を降りた。ダンスの時間、エドワールが私をエスコートしてくれた。失敗しても笑わなかった。
「上手だよ、レティシア。綺麗だ」
囁きに、胸が熱くなった。
彼の婚約者として、立派なレディにならなくちゃ――そう思った。
(私はエドワール様が好き)
一人の男性として。彼の声を聞くと心臓が跳ね、触れられると頬が熱くなった。会えない日々は寂しく、会える日を指折り数えて待った。
エドワールは優しかった。いつも気遣ってくれて、守ってくれた。
それは婚約者として当たり前の対応であって、私を女性として見ているわけじゃなかった。触れ方は丁寧で、距離は常に保たれていた。
キスをされたことは一度もなく、抱きしめられることもなかった。私はいつまで経っても子どものまま。愛は一方通行で、届かない想いだけが胸に積もっていった。
いつも手には小さな箱や包みを持っていて、私への土産だと言って手渡してくれた。宝石のような飴細工、絹のリボン、外国の珍しい絵本。一つ一つが私の宝物になった。部屋の棚には、エドワールからの贈り物が並んでいる。眺めるたびに、胸が温かくなった。
「今日はどんなお話を聞かせてくれるの?」
私は目を輝かせて尋ねた。エドワールはいつも、旅先の話や珍しい出来事を語ってくれた。遠い国の風景、見たこともない動物、不思議な習慣。私は夢中になって聞き入った。
「レティシアは賢いね。物覚えがいい」
エドワールが微笑んだ。褒められるたびに、嬉しくて顔が熱くなった。もっと褒めてほしくて、一生懸命勉強した。刺繍も、ピアノも、ダンスも、全部エドワールに見せたくて頑張った。
十歳の誕生日。彼の月一での訪問日と重なった。嬉しくてエドワールに駆け寄ろうとしたら庭で転んで膝を擦りむいた。痛みに涙が溢れ、立ち上がれなかった。
「レティシア!」
エドワールが走ってきてくれる。膝をついて私の傷を見つめ、眉を寄せた。
「痛いか?」
「う、うん……」
涙声で答えた。エドワールが私を抱き上げた。腕の中で身体が宙に浮き、思わずエドワールの首に腕を回す。
(胸がドキドキする)
「すぐに手当てをしよう」
優しい声が耳元で響いた。抱かれたまま屋敷へ運ばれ、医師に手当てをしてもらった。エドワールはずっと傍にいてくれた。手を握ってくれて、大丈夫だと言って私を安心させてくれる。
十四歳の冬、社交界にデビューした。初めての舞踏会。緊張で足が震え、階段を降りるのが怖かった。
「手を」
エドワールが手を差し出してくれた。大きな手に支えられ、階段を降りた。ダンスの時間、エドワールが私をエスコートしてくれた。失敗しても笑わなかった。
「上手だよ、レティシア。綺麗だ」
囁きに、胸が熱くなった。
彼の婚約者として、立派なレディにならなくちゃ――そう思った。
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一人の男性として。彼の声を聞くと心臓が跳ね、触れられると頬が熱くなった。会えない日々は寂しく、会える日を指折り数えて待った。
エドワールは優しかった。いつも気遣ってくれて、守ってくれた。
それは婚約者として当たり前の対応であって、私を女性として見ているわけじゃなかった。触れ方は丁寧で、距離は常に保たれていた。
キスをされたことは一度もなく、抱きしめられることもなかった。私はいつまで経っても子どものまま。愛は一方通行で、届かない想いだけが胸に積もっていった。
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