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25 小さな紳士
幸いにも、その日の午後の仕事はあまり多くなく、ある程度片付いた時点でマリリンさんからお許しが出たので、調剤に取り掛かる事にした。
薬草同士の相性も考慮しながら複数の材料を選び出して、秤にかける。
ほんの少し配合の割合が変わるだけで薬効に差が出てしまう事もあるので、この作業は慎重に丁寧に。
「この薬草は根っ子の方を使うの?」
マリリンさんが私の作業を覗き込んで首を傾げる。
「はい。草の方は即効性があるので傷を負った直後に使うのに効果的ですが、根の方は緩やかにですが強い効果を発揮するので、古傷には根の方が良いのです」
「知らなかったわ。その花を入れるのはどうして?」
「無くても良いのですが、成分を安定させる効果があります」
「フェリシアちゃんの配合は独特ね」
「学校などでは習わないかもしれませんね。
バッセル家に代々伝わる知識です」
ブレンドした薬草を乳鉢に入れて、滑らかになるまで擦り潰す。
そこに馬の脂を精製した物を加えて───。
「ふふっ」
笑い声に顔を上げると、マリリンさんが微笑ましそうに私を見ていた。
「フェリシアちゃんって、集中すると鼻歌が出るんだね。
しかも真顔のままで(笑)」
どうやら無意識の内に調子っぱずれの鼻歌を歌っていたらしく、私は羞恥で身悶える事になった。
その後は鼻歌を封印しつつ作業を続けて、淡黄色の半透明の軟膏が完成した。
清潔な瓶に詰めて、蓋を閉める。
(喜んで貰えるといいなぁ……)
出来ればあの厳めしいお顔に笑みが浮かぶ所を見たいのだけど、それは贅沢な望みだろうか。
就業時間が終わり、帰りの支度をしていた所で、救護室の扉がノックされた。
「はーい。どうぞ」
マリリンさんが入室を促すと、扉が開いて入って来たのはコールドウェル様と、彼に肩車された男の子だった。
「母上ー!お仕事終わりましたか?」
肩から下ろされた男の子は、嬉しそうにマリリンさんに駆け寄った。
きっと、この子が噂のマリリンさんのお子さんなのだろう。
「アダム、良い子にしてた?
ウィルフレッド様、わざわざ連れて来て頂いて済みません」
「いや、フェリシアを迎えに来るついでに託児所に寄って来ただけだから」
「ありがとうございます」
「オネェさん、誰ですか?」
マリリンさんの隣に佇む私に気付いたアダム君が、不思議そうに首を傾げた。
「初めまして、フェリシア・バッセルと申します。
今日からこちらで働かせて頂きます」
屈んで目線の高さを合わせ自己紹介をすると、マリリンさん譲りの美貌を備えた少年が、麗しい微笑みを見せた。
「初めまして。
僕はアダム・ランドルフです。
美しいフェリシアにお会いできて光栄です」
そう言って恭しく私の手を取った。
こんな私にお世辞まで言ってくれるなんて、アダム君は小さくても立派な紳士ね。
将来沢山のご令嬢を泣かせそうで、お姉さん心配になっちゃう。
とっても可愛らしいアダム君に、ほっこりした気持ちになり、思わず笑みが零れてしまった。
その途端、すぐに目の前にいたはずのアダム君が、一瞬で消えた。
コールドウェル様が彼の両脇を持ち上げて、ヒョイっと連れ去ったからだ。
「こらっ!フェリシアは俺の婚約者だ。
勝手に呼び捨てで呼ぶんじゃない!
全く……俺だってまだあんな至近距離で微笑んで貰った事ないのに……」
後半のブツブツ言ってる声は私には聞こえなかったけど、なんだかちょっとだけ不機嫌そう。
「僕みたいな子供にしっとするなんて、ウィルフレッド様、意外と大人げないですね」
「なんだと~?
うりゃっっ!!
生意気なガキは、こうしてやるっっ!」
そう言ったコールドウェル様は、アダム君を持ち上げたまま、その場でグルグルとターンした。
振り回されるているアダム君はキャッキャ笑って、とっても楽しそう。
どうやらコールドウェル様は子供の扱いが上手いらしい。
はしゃぐアダム君に、目を細める彼の表情はいつもより柔らかくて、意外な一面にドキッとする。
───ん?『ドキッ』って何だ!?
いや、ちょっとギャップに驚いただけだろう。
深い意味なんて無い。
絶対に無い。
心の中で、うんうんと頷いて、それ以上は考えない様にした。
薬草同士の相性も考慮しながら複数の材料を選び出して、秤にかける。
ほんの少し配合の割合が変わるだけで薬効に差が出てしまう事もあるので、この作業は慎重に丁寧に。
「この薬草は根っ子の方を使うの?」
マリリンさんが私の作業を覗き込んで首を傾げる。
「はい。草の方は即効性があるので傷を負った直後に使うのに効果的ですが、根の方は緩やかにですが強い効果を発揮するので、古傷には根の方が良いのです」
「知らなかったわ。その花を入れるのはどうして?」
「無くても良いのですが、成分を安定させる効果があります」
「フェリシアちゃんの配合は独特ね」
「学校などでは習わないかもしれませんね。
バッセル家に代々伝わる知識です」
ブレンドした薬草を乳鉢に入れて、滑らかになるまで擦り潰す。
そこに馬の脂を精製した物を加えて───。
「ふふっ」
笑い声に顔を上げると、マリリンさんが微笑ましそうに私を見ていた。
「フェリシアちゃんって、集中すると鼻歌が出るんだね。
しかも真顔のままで(笑)」
どうやら無意識の内に調子っぱずれの鼻歌を歌っていたらしく、私は羞恥で身悶える事になった。
その後は鼻歌を封印しつつ作業を続けて、淡黄色の半透明の軟膏が完成した。
清潔な瓶に詰めて、蓋を閉める。
(喜んで貰えるといいなぁ……)
出来ればあの厳めしいお顔に笑みが浮かぶ所を見たいのだけど、それは贅沢な望みだろうか。
就業時間が終わり、帰りの支度をしていた所で、救護室の扉がノックされた。
「はーい。どうぞ」
マリリンさんが入室を促すと、扉が開いて入って来たのはコールドウェル様と、彼に肩車された男の子だった。
「母上ー!お仕事終わりましたか?」
肩から下ろされた男の子は、嬉しそうにマリリンさんに駆け寄った。
きっと、この子が噂のマリリンさんのお子さんなのだろう。
「アダム、良い子にしてた?
ウィルフレッド様、わざわざ連れて来て頂いて済みません」
「いや、フェリシアを迎えに来るついでに託児所に寄って来ただけだから」
「ありがとうございます」
「オネェさん、誰ですか?」
マリリンさんの隣に佇む私に気付いたアダム君が、不思議そうに首を傾げた。
「初めまして、フェリシア・バッセルと申します。
今日からこちらで働かせて頂きます」
屈んで目線の高さを合わせ自己紹介をすると、マリリンさん譲りの美貌を備えた少年が、麗しい微笑みを見せた。
「初めまして。
僕はアダム・ランドルフです。
美しいフェリシアにお会いできて光栄です」
そう言って恭しく私の手を取った。
こんな私にお世辞まで言ってくれるなんて、アダム君は小さくても立派な紳士ね。
将来沢山のご令嬢を泣かせそうで、お姉さん心配になっちゃう。
とっても可愛らしいアダム君に、ほっこりした気持ちになり、思わず笑みが零れてしまった。
その途端、すぐに目の前にいたはずのアダム君が、一瞬で消えた。
コールドウェル様が彼の両脇を持ち上げて、ヒョイっと連れ去ったからだ。
「こらっ!フェリシアは俺の婚約者だ。
勝手に呼び捨てで呼ぶんじゃない!
全く……俺だってまだあんな至近距離で微笑んで貰った事ないのに……」
後半のブツブツ言ってる声は私には聞こえなかったけど、なんだかちょっとだけ不機嫌そう。
「僕みたいな子供にしっとするなんて、ウィルフレッド様、意外と大人げないですね」
「なんだと~?
うりゃっっ!!
生意気なガキは、こうしてやるっっ!」
そう言ったコールドウェル様は、アダム君を持ち上げたまま、その場でグルグルとターンした。
振り回されるているアダム君はキャッキャ笑って、とっても楽しそう。
どうやらコールドウェル様は子供の扱いが上手いらしい。
はしゃぐアダム君に、目を細める彼の表情はいつもより柔らかくて、意外な一面にドキッとする。
───ん?『ドキッ』って何だ!?
いや、ちょっとギャップに驚いただけだろう。
深い意味なんて無い。
絶対に無い。
心の中で、うんうんと頷いて、それ以上は考えない様にした。
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