17 / 32
17 デビュタント
しおりを挟む
一度目の人生を踏まえても初めての夜会は、想像以上に煌びやかな世界だった。
生演奏の楽器の音と、シャンデリアの光の洪水に、クラクラと目眩がする。
「ディア、大丈夫か?」
フィルが優しく背中を撫でながら、私の顔を覗き込んだ。
「済みません・・・、ちょっと雰囲気に呑まれてしまったみたいです。
少し慣れれば大丈夫だと思うのですが・・・」
「じゃあ、少し座ろうか」
彼は私を丁寧にエスコートして、会場の隅に設置されているソファーに座らせると、給仕係に声を掛けて飲み物を注文した。
「このドリンク、ディアみたいな色で綺麗だね。
アルコールは入ってないから、安心して」
差し出されたシャンパングラスには、淡いピンク色の炭酸水に、ブルーベリーとラズベリーが沈んでいた。
口を付けると、フルーティーで微かにミントの香りもする。
スッキリと爽やかな味わいだ。
「サッパリして美味しいですね。
なんだか落ち着いてきました」
「少し休んだら陛下に挨拶をして、一曲だけ踊ろう。
その後は、気分が悪ければ、無理しないでも良いから、早めに帰ろう」
デビュタントの夜会では、位の高い順に国王陛下のお言葉を頂く。
私は子爵令嬢なので、後半の方だ。
エスコート役と最低一曲はダンスを踊るのもマナーである。
「でも、フィルは挨拶をしなければいけない方が多いのでは無いですか?」
「今日は大丈夫。
ディアの方が大事だから」
甘やかな微笑みに、思わず頬に熱が上がる。
仮初の婚約者を大事にし過ぎじゃないだろうか?
(本当の婚約者になれる女性が羨ましいなぁ)
なんて・・・、つい思ってしまう。
「それに、美しく着飾った君を他の男がジロジロ見ているから、少し妬けてしまう」
そんな風に耳元で囁かれて、益々顔が熱くなった。
彼の言動に、一々大きく心が揺れ動く。
フィルはそんな私の頬を人差し指でつついて、ニヤリと満足そうに笑った。
揶揄われているのだろうか?
本当に困った人ね。
人の気も知らないで。
「顔色も良くなってきたし、そろそろ行ける?」
「はい」
休んでいる内に、いつの間にか子爵家の挨拶が始まっていた。
列に並んで順番を待っていると、少しづつ緊張感が高まってくる。
子爵令嬢が王族の皆様のお姿をこんなに近い距離で拝見するなんて、滅多に無い機会なのだ。
「ディアナ・エイヴォリーと申します。
お目もじ叶いまして光栄です」
「ん?あら、フィルじゃ無いの、久し振りねぇ。
全く、貴方ときたら、全然王宮に遊びに来ないのだもの。
たまには顔を見せにいらっしゃいな。
・・・と言う事は、そちらの可愛らしいご令嬢・・・えーと、ディアナちゃんが貴方の愛する婚約者なのね?
朴念仁かと思ったら、なかなかやるじゃないのぉ!」
順番がやってきて、正式な礼から顔を上げた途端に、王妃殿下のマシンガントークが炸裂した。
「やめて下さい、伯母上。
僕の可愛いディアナが驚いているじゃないですか」
ああっっ!!
そう言えばそうだった!
クラックソン公爵家と言えば、今の王妃殿下のご実家である。
と、言う事は・・・、
国王夫妻にとって、フィルは甥っ子では無いか!
しかも、公爵家の長い歴史を紐解けば、王女殿下が嫁いで来た事も複数回ある、由緒正しいお家柄である。
何故今まで気付かなかったのか?
私の馬鹿っっ!!
どどどどどうしよう。
仮とは言え、そんな高貴な方の婚約者が私だなんて・・・・・・。
ヤバい。
胃が痛い。
「だって、これまでずっと、どんなに美しいご令嬢にも毛ほどの興味も示さなかった貴方が、可愛いお嬢さんと婚約したいって自分から言い出したって聞いたのだから、気になるじゃ無いの!」
この国で一番高貴な女性の口から『毛ほどの』って言葉が出るなんて、誰が想像するだろうか。
「そうやって興味本位で詮索するから、会わせたくなかったのですよ」
眉根を寄せて不機嫌そうに呟くフィル。
親戚ともなると、国母に対しても気安い遣り取りなのね。
普通の貴族が言ったら不敬罪だわ。
国王陛下は暴走気味の王妃殿下に苦笑いをしながら、私にデビュタントの祝いの言葉を贈ってくれた。
そして───、
「甥っ子の事を、宜しく頼む」
最後に言われた言葉が、私の胸にズッシリと響く。
私の様な下位貴族の令嬢を、大事な甥御さんの婚約者として、好意的に受け入れてくれた事は有り難い。
だが、罪悪感も大きいのだ。
だって、そのお言葉を受け取るべきなのは、本来私では無いのだから。
生演奏の楽器の音と、シャンデリアの光の洪水に、クラクラと目眩がする。
「ディア、大丈夫か?」
フィルが優しく背中を撫でながら、私の顔を覗き込んだ。
「済みません・・・、ちょっと雰囲気に呑まれてしまったみたいです。
少し慣れれば大丈夫だと思うのですが・・・」
「じゃあ、少し座ろうか」
彼は私を丁寧にエスコートして、会場の隅に設置されているソファーに座らせると、給仕係に声を掛けて飲み物を注文した。
「このドリンク、ディアみたいな色で綺麗だね。
アルコールは入ってないから、安心して」
差し出されたシャンパングラスには、淡いピンク色の炭酸水に、ブルーベリーとラズベリーが沈んでいた。
口を付けると、フルーティーで微かにミントの香りもする。
スッキリと爽やかな味わいだ。
「サッパリして美味しいですね。
なんだか落ち着いてきました」
「少し休んだら陛下に挨拶をして、一曲だけ踊ろう。
その後は、気分が悪ければ、無理しないでも良いから、早めに帰ろう」
デビュタントの夜会では、位の高い順に国王陛下のお言葉を頂く。
私は子爵令嬢なので、後半の方だ。
エスコート役と最低一曲はダンスを踊るのもマナーである。
「でも、フィルは挨拶をしなければいけない方が多いのでは無いですか?」
「今日は大丈夫。
ディアの方が大事だから」
甘やかな微笑みに、思わず頬に熱が上がる。
仮初の婚約者を大事にし過ぎじゃないだろうか?
(本当の婚約者になれる女性が羨ましいなぁ)
なんて・・・、つい思ってしまう。
「それに、美しく着飾った君を他の男がジロジロ見ているから、少し妬けてしまう」
そんな風に耳元で囁かれて、益々顔が熱くなった。
彼の言動に、一々大きく心が揺れ動く。
フィルはそんな私の頬を人差し指でつついて、ニヤリと満足そうに笑った。
揶揄われているのだろうか?
本当に困った人ね。
人の気も知らないで。
「顔色も良くなってきたし、そろそろ行ける?」
「はい」
休んでいる内に、いつの間にか子爵家の挨拶が始まっていた。
列に並んで順番を待っていると、少しづつ緊張感が高まってくる。
子爵令嬢が王族の皆様のお姿をこんなに近い距離で拝見するなんて、滅多に無い機会なのだ。
「ディアナ・エイヴォリーと申します。
お目もじ叶いまして光栄です」
「ん?あら、フィルじゃ無いの、久し振りねぇ。
全く、貴方ときたら、全然王宮に遊びに来ないのだもの。
たまには顔を見せにいらっしゃいな。
・・・と言う事は、そちらの可愛らしいご令嬢・・・えーと、ディアナちゃんが貴方の愛する婚約者なのね?
朴念仁かと思ったら、なかなかやるじゃないのぉ!」
順番がやってきて、正式な礼から顔を上げた途端に、王妃殿下のマシンガントークが炸裂した。
「やめて下さい、伯母上。
僕の可愛いディアナが驚いているじゃないですか」
ああっっ!!
そう言えばそうだった!
クラックソン公爵家と言えば、今の王妃殿下のご実家である。
と、言う事は・・・、
国王夫妻にとって、フィルは甥っ子では無いか!
しかも、公爵家の長い歴史を紐解けば、王女殿下が嫁いで来た事も複数回ある、由緒正しいお家柄である。
何故今まで気付かなかったのか?
私の馬鹿っっ!!
どどどどどうしよう。
仮とは言え、そんな高貴な方の婚約者が私だなんて・・・・・・。
ヤバい。
胃が痛い。
「だって、これまでずっと、どんなに美しいご令嬢にも毛ほどの興味も示さなかった貴方が、可愛いお嬢さんと婚約したいって自分から言い出したって聞いたのだから、気になるじゃ無いの!」
この国で一番高貴な女性の口から『毛ほどの』って言葉が出るなんて、誰が想像するだろうか。
「そうやって興味本位で詮索するから、会わせたくなかったのですよ」
眉根を寄せて不機嫌そうに呟くフィル。
親戚ともなると、国母に対しても気安い遣り取りなのね。
普通の貴族が言ったら不敬罪だわ。
国王陛下は暴走気味の王妃殿下に苦笑いをしながら、私にデビュタントの祝いの言葉を贈ってくれた。
そして───、
「甥っ子の事を、宜しく頼む」
最後に言われた言葉が、私の胸にズッシリと響く。
私の様な下位貴族の令嬢を、大事な甥御さんの婚約者として、好意的に受け入れてくれた事は有り難い。
だが、罪悪感も大きいのだ。
だって、そのお言葉を受け取るべきなのは、本来私では無いのだから。
392
あなたにおすすめの小説
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
【完結】婚約解消後に婚約者が訪ねてくるのですが
ゆらゆらぎ
恋愛
ミティルニアとディアルガの婚約は解消された。
父とのある取引のために動くミティルニアの予想とは裏腹に、ディアルガは何度もミティルニアの元を訪れる…
【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
完結 女性に興味が無い侯爵様、私は自由に生きます
ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ!
そんな私に好都合な相手が。
女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく付いてきました。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる