【完結】どうか私を思い出さないで

miniko

文字の大きさ
8 / 23

8 満たされない心

《side:アルバート》


 何かが欠けている。

 少し前から、ずっとその思いが消えない。

 でも、何が欠けているのか、自分でも分からないんだ。



 大事な家族がいて、学園では友人も多い方だし、勉強も剣術も結構好きだ。
 女性にだって、そこそこモテる。
 まあ、今の所、特別に興味を惹かれるような相手は居ないけれど。

 そんな風に充実した毎日のはずなのに、何故か満たされない。
 心の中にポッカリと大きな穴が空いた様な感覚。
 でも、その原因が分からない。


「あーあ、こんな時、コーデリア嬢が居れば分かりやすく教えてくれるのに……」

「おいっっ!」

「あ、ヤベっ」

 大陸共通語の授業を受けている時、隣に座っていた友人がポツリと呟いたのを、別の友人が慌てた様子で制止する。

(コーデリア? 誰だっけ?)

 心当たりは無い。
 知らない名前のはずなのに、なんだか胸がザワザワする。

(なんか気になるなぁ。
 授業が終わったら、誰の事なのか聞いてみよう)

 そう思っていたのに…、結局授業が終わる頃には、その名前さえも、どうしても思い出せなくなっていた。

「なあ、さっきお前が授業中に言っていた女性の名前、何だっけ?」

 そう聞いても友人は、

「さあ?何の事だ?」

 と、まるで何も言わなかったみたいな反応。
 なんだか不自然な感じがして、気持ち悪い。
 だけど暫くすると、僕はそんな出来事があった事さえすっかり忘れてしまっていた。



 頭の一部に靄がかかったみたいにスッキリしないまま、最後の学園生活を過ごし、僕はなかなかの高成績で卒業した。

(ああ、やっとだ。待ちに待った卒業だ。
 ……あれ?なんで卒業をそんなに楽しみにしていたんだっけ?)


 卒業後の進路には悩んだけど、王宮騎士団の入団試験を受けた。
 婿養子に来て欲しいという縁談も、幾つかあったみたいだが、なんだかその気になれなかったので、騎士爵を目指そうと思ったのだ。
 両親は僕の結婚を政略に使う気はないから好きにしろって言ってくれたし、好きにさせてもらう事にした。

 入団試験には、何とか合格したのだが、この国の王宮騎士団の新人は、二年間、研修と称して様々な場所へ派遣される。
 国内の各地を巡って魔獣の討伐をする魔獣対策騎士団や、国境付近の警備や、出入国審査とか輸出入の検問をする港町などが主な赴任地だ。
 僕は、とある港街に派遣された。


 その街で、僕は運命の出会いを果たす事になる。


 仕事の休み時間に昼食を取るため、商店街を歩いていた僕の隣を焦茶色の髪の女性が走り抜けて行った。
 少し離れた場所で目当ての人物に追い付いたらしい彼女は、はぁはぁと肩で息をしながら、捕まえた男に金色の懐中時計を差し出す。
 声は聞こえなかったが何か一言二言、言葉を交わすと、手を振り合って二人は別れた。

 女性が来た道を戻ろうと振り返った時、マロンブラウンの瞳と目が合う。
 その瞬間、えも言われぬような多幸感が、僕の胸の中に湧き上がった。

 初対面のはずなのに、まるでずっと探していた物がやっと見つかったみたいな、そんな不思議な感覚。
 灰色だった世界が、一気に色付いた様な気がした。


 彼女は僕の顔を見て、少し驚いた様に目を見開き、直ぐに視線を逸らして何事も無かったかの様に歩き出した。

「あのっ、」

「……何でしょうか?」

「いや、………あの……」

 何か言わなきゃと焦って思わず呼び止めたけど、何を言えば良いのか分からない。
 彼女は困った様に眉を下げた。

「私、仕事中で忙しいので、用がないなら失礼しますね」

 そう言い残してそそくさと去って行った彼女は、『黒猫亭』と看板が掲げられた食堂に入って行った。

「あそこが、彼女の職場なのか?」
感想 16

あなたにおすすめの小説

【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜

桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」 私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。 私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。 王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした… そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。 平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか? なので離縁させていただけませんか? 旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。 *小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

私はあなたの前から消えますので、お似合いのお二人で幸せにどうぞ。

ゆのま𖠚˖°
恋愛
私には10歳の頃から婚約者がいる。お互いの両親が仲が良く、婚約させられた。 いつも一緒に遊んでいたからこそわかる。私はカルロには相応しくない相手だ。いつも勉強ばかりしている彼は色んなことを知っていて、知ろうとする努力が凄まじい。そんな彼とよく一緒に図書館で楽しそうに会話をしている女の人がいる。その人といる時の笑顔は私に向けられたことはない。 そんな時、カルロと仲良くしている女の人の婚約者とばったり会ってしまった…

婚約者が一目惚れをしたそうです

クロユキ
恋愛
親同士が親友で幼い頃から一緒にいたアリスとルイスは同じ学園に通い婚約者でもあった。 学園を卒業後に式を挙げる約束をしていた。 第一王子の誕生日と婚約披露宴に行く事になり、迎えに来たルイスの馬車に知らない女性を乗せてからアリスの運命は変わった… 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 よろしくお願いします。

記憶喪失になった婚約者から婚約破棄を提案された

夢呼
恋愛
記憶喪失になったキャロラインは、婚約者の為を思い、婚約破棄を申し出る。 それは婚約者のアーノルドに嫌われてる上に、彼には他に好きな人がいると知ったから。 ただでさえ記憶を失ってしまったというのに、お荷物にはなりたくない。彼女のそんな健気な思いを知ったアーノルドの反応は。 設定ゆるゆる全3話のショートです。