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9 初恋の君
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《side:テオフィル》
僕が病弱だと言われ始めたのは、弟である第二王子を側妃が産んだ頃からだった。
僕は、この国の国王と、その正妃である王妃との間に生まれた。
長男である僕は、一応、王位継承権第一位である。
父は、母とは別の令嬢と学生時代から恋仲であった。
男としては誠実さに欠ける父であったが、王族としての責務は理解している人物だった。
だから長年の恋人を側妃として迎えるのを、母が男児を産むまでは待ったのだ。
母の実家である公爵家を立て、側妃の子が王妃の子よりも強い権限を持つ事を防ぐ為だった。
側妃は子爵家出身で、後ろ盾も小さい。
寵妃ではあるが、第一王子を産ませなければ然程権力のバランスは崩れないだろうと計算した。
だが、側妃はなかなかに強かで、権力欲の強い女であった。
国王の寵愛を一身に受けている事に絶対の自信を持っている彼女は、自分が産んだ第二王子が立太子する物と信じて疑わなかった。
だから、それが間違いであると気付いた時のショックは、相当な物だったのだろう。
そして、その頃から僕の食事に毒物が混入される頻度が格段に上がったのだ。
周囲が様々な対策を取ってくれたお陰で、毒物の混入は少しづつ無くなっていったが、漸く事態が落ち着いた頃には、僕は食事をするのが怖くなってしまっていた。
まともな食事を取らない僕の体はどんどん弱くなっていく。
このままでは死んでしまうと、僕の身を案じた母は、側妃の手が届かない場所へ僕を一時的に避難させようとした。
学生時代の親友だったグルーバー辺境伯夫人に託す事にしたのだ。
辺境にあるグルーバー家の領地はとても広く、自然が豊かで、空気が美味しい場所だった。
辺境伯には三人の子供達がいた。
体が弱くて同年代の子供達との交流の機会が少なかった僕は、彼等と遊ぶのを楽しみにしていた。
長男のユルゲンは、辺境伯にそっくりな筋肉ムキムキの男の子。
次男のデニスは、夫人に似て、線の細い美しい顔立ちの男の子だったが、彼も騎士を目指していると言う。
そして、末っ子のエルザは、一見可憐な美少女なのに、剣術が得意で自由な発想を持つ珍しいご令嬢だった。
「テオ、好き嫌いが多いと、素敵な男性にはなれませんよ?」
彼女にそう言われた時、自分の弱さを指摘されたみたいで悔しかった。
同時に、『何度も毒殺されかけた僕の気持ちなんて、誰にも分からない』と、拗ねた様な気持ちになった。
それで、子供っぽい返事をしてしまったのだが・・・。
いつの間にか言いくるめられて、エルザが作った料理を食べると約束させられてしまった。
彼女が作ってくれたのは、オムレツとトマトベースのスープだった。
少しだけ形は歪だが、焦げも無く綺麗に焼かれたオムレツは、とても貴族の子供が作ったとは思えない。
「・・・・・・コレ、本当に作ったの?」
「そうですよ」
信じられなくて何度も確認するが、周囲で微笑ましそうに見守る使用人達も、コクコク頷いている。
オムレツを食べてみると、いつも料理人が作るものよりサッパリしていたが、優しい味がした。
「スープは熱いと思うので、気を付けて下さいね」
実は、以前、鳥のグリルに掛けられていたトマトソースに毒が入っていた事から、僕はトマトが苦手だった。
でも、食べるって約束したし、目の前でエルザが毒見までしてくれたのだから・・・・・・。
「・・・熱っっ!!」
「今、気を付けてって言いましたよね!?」
目を瞑って、エイヤッと勢いを付けて口に入れたスープは、火傷しそうな程熱かったが、とても美味しく感じられた。
今迄は、生きる為に仕方なく食事をしていた。
こんな風に美味しいとか、楽しいとか思ったのは、初めてだった。
だから、僕がエルザに恋をしてしまったのは、当たり前だと思うんだ。
一年程の療養生活を経て、体力が回復した僕は、王都へ戻る事になった。
ずっと辺境に居たかったけど、そうも言っていられない。
側妃の思惑通りにさせる訳にはいかないのだ。
王都に戻った僕は、母の縁戚でもある騎士団長に師事して、本格的に剣術を習い始めた。
自分の身も守れない僕が、エルザを守れる筈がない。
辺境伯一家は、一人娘のエルザを溺愛しているので、弱い男には絶対に渡さないだろう。
厳しい鍛錬に必死で食らい付き、少しだけ自信が持てた頃、デニスからの手紙が届いた。
その内容を確認して、僕は慌てた。
エルザが婚約して隣国へ行ってしまうかもしれない。
もっと時間を掛けて口説くつもりだったのに・・・・・・。
直ぐに手紙を書くと、早馬に託して辺境へと向かわせた。
同時に父上に謁見を申し出て、エルザとの婚約の許可を取る。
馬車に飛び乗りエルザの元へ向かう途中、戻って来た早馬と合流して、辺境伯からも許可が降りた事を確認した。
そして、婚約者候補という形ではあったが、なんとか本人の説得にも成功した。
後は、いつか『候補』が外れる様に頑張るだけだ。
まぁ、それが一番難しいんだけどね。
僕が病弱だと言われ始めたのは、弟である第二王子を側妃が産んだ頃からだった。
僕は、この国の国王と、その正妃である王妃との間に生まれた。
長男である僕は、一応、王位継承権第一位である。
父は、母とは別の令嬢と学生時代から恋仲であった。
男としては誠実さに欠ける父であったが、王族としての責務は理解している人物だった。
だから長年の恋人を側妃として迎えるのを、母が男児を産むまでは待ったのだ。
母の実家である公爵家を立て、側妃の子が王妃の子よりも強い権限を持つ事を防ぐ為だった。
側妃は子爵家出身で、後ろ盾も小さい。
寵妃ではあるが、第一王子を産ませなければ然程権力のバランスは崩れないだろうと計算した。
だが、側妃はなかなかに強かで、権力欲の強い女であった。
国王の寵愛を一身に受けている事に絶対の自信を持っている彼女は、自分が産んだ第二王子が立太子する物と信じて疑わなかった。
だから、それが間違いであると気付いた時のショックは、相当な物だったのだろう。
そして、その頃から僕の食事に毒物が混入される頻度が格段に上がったのだ。
周囲が様々な対策を取ってくれたお陰で、毒物の混入は少しづつ無くなっていったが、漸く事態が落ち着いた頃には、僕は食事をするのが怖くなってしまっていた。
まともな食事を取らない僕の体はどんどん弱くなっていく。
このままでは死んでしまうと、僕の身を案じた母は、側妃の手が届かない場所へ僕を一時的に避難させようとした。
学生時代の親友だったグルーバー辺境伯夫人に託す事にしたのだ。
辺境にあるグルーバー家の領地はとても広く、自然が豊かで、空気が美味しい場所だった。
辺境伯には三人の子供達がいた。
体が弱くて同年代の子供達との交流の機会が少なかった僕は、彼等と遊ぶのを楽しみにしていた。
長男のユルゲンは、辺境伯にそっくりな筋肉ムキムキの男の子。
次男のデニスは、夫人に似て、線の細い美しい顔立ちの男の子だったが、彼も騎士を目指していると言う。
そして、末っ子のエルザは、一見可憐な美少女なのに、剣術が得意で自由な発想を持つ珍しいご令嬢だった。
「テオ、好き嫌いが多いと、素敵な男性にはなれませんよ?」
彼女にそう言われた時、自分の弱さを指摘されたみたいで悔しかった。
同時に、『何度も毒殺されかけた僕の気持ちなんて、誰にも分からない』と、拗ねた様な気持ちになった。
それで、子供っぽい返事をしてしまったのだが・・・。
いつの間にか言いくるめられて、エルザが作った料理を食べると約束させられてしまった。
彼女が作ってくれたのは、オムレツとトマトベースのスープだった。
少しだけ形は歪だが、焦げも無く綺麗に焼かれたオムレツは、とても貴族の子供が作ったとは思えない。
「・・・・・・コレ、本当に作ったの?」
「そうですよ」
信じられなくて何度も確認するが、周囲で微笑ましそうに見守る使用人達も、コクコク頷いている。
オムレツを食べてみると、いつも料理人が作るものよりサッパリしていたが、優しい味がした。
「スープは熱いと思うので、気を付けて下さいね」
実は、以前、鳥のグリルに掛けられていたトマトソースに毒が入っていた事から、僕はトマトが苦手だった。
でも、食べるって約束したし、目の前でエルザが毒見までしてくれたのだから・・・・・・。
「・・・熱っっ!!」
「今、気を付けてって言いましたよね!?」
目を瞑って、エイヤッと勢いを付けて口に入れたスープは、火傷しそうな程熱かったが、とても美味しく感じられた。
今迄は、生きる為に仕方なく食事をしていた。
こんな風に美味しいとか、楽しいとか思ったのは、初めてだった。
だから、僕がエルザに恋をしてしまったのは、当たり前だと思うんだ。
一年程の療養生活を経て、体力が回復した僕は、王都へ戻る事になった。
ずっと辺境に居たかったけど、そうも言っていられない。
側妃の思惑通りにさせる訳にはいかないのだ。
王都に戻った僕は、母の縁戚でもある騎士団長に師事して、本格的に剣術を習い始めた。
自分の身も守れない僕が、エルザを守れる筈がない。
辺境伯一家は、一人娘のエルザを溺愛しているので、弱い男には絶対に渡さないだろう。
厳しい鍛錬に必死で食らい付き、少しだけ自信が持てた頃、デニスからの手紙が届いた。
その内容を確認して、僕は慌てた。
エルザが婚約して隣国へ行ってしまうかもしれない。
もっと時間を掛けて口説くつもりだったのに・・・・・・。
直ぐに手紙を書くと、早馬に託して辺境へと向かわせた。
同時に父上に謁見を申し出て、エルザとの婚約の許可を取る。
馬車に飛び乗りエルザの元へ向かう途中、戻って来た早馬と合流して、辺境伯からも許可が降りた事を確認した。
そして、婚約者候補という形ではあったが、なんとか本人の説得にも成功した。
後は、いつか『候補』が外れる様に頑張るだけだ。
まぁ、それが一番難しいんだけどね。
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