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23 第二王子

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学園内でも護衛の帯同が出来るように、王家が学園長に交渉してくれたらしく、私の斜め後ろにはマーカスが常に控えている様になった。

その日、一緒にランチを食べたユリアが、教師に呼ばれているからと先に席を立ち、私は一人で教室に戻ろうとしていた。



「また会ったね」

廊下でオリヴァー殿下に声を掛けられたのは、そんな時だった。
彼は親し気な笑みを浮かべているが、それが余計に胡散臭い。
何を企んでいるのだろうかと、つい考えてしまう。

「何か御用でしょうか?」

「少し話したいんだ。二人だけで」

オリヴァー殿下の視線が、チラリとマーカスへ向けられた。

「テオフィル殿下から、オリヴァー殿下には気をつける様にと言われております。
お側を離れる訳には参りません」

マーカスは私にだけ聞こえる様に、耳打ちした。
だが、オリヴァー殿下の話とは、きっと転生に関することだろう。
まだテオにも打ち明けていない事をマーカスに先に知られるのも、色々と面倒な気がする。

「マーカス、会話が聞こえない程度に離れて見守ってくれる?
学園内ですもの、堂々と私を襲ったりはしないでしょうし」

マーカスは少し逡巡する様子を見せたが、最終的には頷いてくれた。

人気の少ない裏庭に移動し、マーカスとは少しだけ距離を取る。
振り返ると彼が軽く片手を上げたので、私も小さく手を振った。
何か合図をすれば、すぐに助けてもらえる様な位置だ。

ベンチに座る様に促されたが、長話をするつもりは無いのでそれは拒否した。

「どの様なお話でしょうか?」

「随分と他人行儀だね」

「オリヴァー殿下とお会いするのは、まだ二度目ですし、ご挨拶程度のお話ししかしておりませんので」

無表情を保ってそう言うと、オリヴァー殿下の顔が寂しそうに歪んだ。

「冷たいじゃないか。
君は、美亜なんだろう?」

震える声でそう問われて、溜息が出そうになる。

「それを確かめてどうするのですか?」

「ずっと君に謝りたかった。
俺は・・・・・・」

「オリヴァー殿下に謝罪していただく理由などございません」

王子の発言を遮るのは不敬だが、黙って聴いていられなかった。

(謝る?今更?)

「美亜・・・」

「私はエルザです。
何を企んでいるのか知りませんが、今更謝って頂いても何も変わりません。
美亜はもうとっくに死にました。
貴方が謝罪したとしても生き返らない」

「・・・・・・そうだね、君の言う通りだ。
君はもうエルザで、美亜じゃないのか・・・」

オリヴァー殿下は暗い顔で俯いた。

「そうです。
ご理解頂けたのなら、今後の接触は出来るだけご遠慮願いたいです。
それから、側妃殿下と結託してテオに何かしたら、命は無い物と思って下さい」

その時はグルーバー家の総力を持って、地獄の果てまで追い掛ける所存である。

私の宣戦布告にオリヴァー殿下は困った様な、傷付いた様な顔で、微かに笑った。

「君は、兄上の事が好きなんだね。
そんなに心配しないで。
俺は兄上を害するつもりはないから」

その言葉をどの程度信用して良いのか、判断が難しい。
私は彼に騙されていた過去があるから。


「エルザ」

低く冷たい声で急に名を呼ばれて、声がした方に視線を向けると、不機嫌そうなオーラを纏ったテオがそこに居た。

「マーカスと離れてはダメじゃ無いか」

咎める様にそう言いながら、グッと私の腰を抱き寄せる。

「ごめんなさい。
でも、直ぐに呼べる位置に居るわ」

「それでも、他の男と二人で話したりしちゃダメ」

確かに、私は婚約者候補なのだから、不貞を疑われる様な行動は避けるべきではあるけれど・・・。

「オリヴァー。
エルザに話があるなら、今後は僕を通しなさい」

「兄上は、意外と嫉妬深いんだな。
エルザ嬢には、兄上に何かしたら許さないって言われてただけですよ」

「・・・っオリヴァー殿下!!」

彼が言ってる事は間違ってないけど、それをテオ本人に告げられるのは、かなり恥ずかしい。

テオに殺気を向けられても、私が抗議の声をあげても、オリヴァー殿下は飄々としている。

「エルザ、本当?」

私をジッと見詰めるテオの瞳の奥には、火傷しそうな程の熱が篭っている。
私は上手く声が出せなくて、ただ小さく頷いた。

「イチャつくのは二人きりの時にして下さい。
もう、不用意にエルザ嬢には近寄らないと誓います」

オリヴァー殿下は呆れた様にそう言って背を向けると、軽く片手を振って去って行った。


本当に謝りたかっただけなのかしら?
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