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31 婚礼の儀
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雲一つない青空が広がり、暑くも無く寒くも無い、麗かな春の日。
本日はお日柄も良く・・・・・・と表現されるのは、きっとこんな日なのだろう。
そんな、お日柄の良い今日、私はテオと結婚する。
悪役令嬢と側妃という脅威が去って、平和過ぎる学園生活を送っていた私は、先日ついに卒業した。
そして、テオが婚姻を急ぎたいと希望していた為、私の卒業と同時に結婚する事になっている。
教会で行われる婚礼の儀式には、国の要人達と、私達に近しい人物のみが参加する。
その後、国民に向けたパレードが行われて、夜には王宮で貴族達へのお披露目の為に、大規模な夜会がある。
王太子に嫁ぐのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、仰々しい内容に目眩がしそうだ。
パレードってなんだよ。怖い。
王太子妃教育はとっくに終了しているが、まだまだ私は王族の一員になる覚悟が足りていないらしい。
自分に沢山の視線が集まる状況には、なかなか慣れずにいる。
「エルザ様、もうちょっとお顔を上げて下さい」
「ん?ああ、ごめんね」
この後のスケジュールを考えて気が重くなっていた私は、いつの間にか俯いてしまっていたらしく、侍女に叱られて顎を上げた。
今、私は教会の控室で、王宮の侍女達に囲まれて化粧をされている。
鏡の中の自分の顔が、見る見る内に作り替えられていくのを見るのは面白い。
「何度見ても凄いわ。
あっという間に別人みたいになるんだもの」
感心して呟く私に、彼女達は得意気に胸を張った。
「エルザ様の魅力を引き出す事に命をかけておりますので!」
「大袈裟だなぁ」
よく物語の中で、『冴えない女の子が化粧をした途端に美女になる』みたいなテンプレ展開があるけど、あれって現実にも有り得るのね。
ただの御伽噺だと思っていたのに。
そんなこんなで、無事に美女に変身させて貰えた私は、純白のドレスを着て姿見の前に立った。
「素敵ですねぇ・・・。
ため息が出るほどです」
うっとりと呟く侍女に、感謝を込めた微笑みを返す。
その時、控室の扉をノックする音が響いた。
「エルザ~?もうお支度出来たかしら?」
扉の向こうから聞こえたのはお母様の声。
入室を許可する意を込めて、扉の近くに立つ侍女に軽く頷いて見せる。
侍女が扉を開くと、テオと私の家族達がドヤドヤと室内に入って来た。
「今、丁度終わった所です」
一番最初に入室したテオは、私を見つめながらゆっくりと歩み寄り、その存在を確かめる様に、震える指先で頬にそっと触れた。
「ああ、エルザ、夢みたいだ・・・」
うっとりと呟き、瞳を潤ませる。
長く想い続けてくれていたので、感動も一入なのかもしれない。
恥ずかしさと嬉しさで、私の頬がジワジワと熱くなってくる。
「はいはい、家族のまえでイチャつくのは、そのくらいにしておいてね。
お父様が屍になりかけてるから」
お母様の声にハッと振り返ると、魂が抜けそうになっているお父様が居た。
なんか、子供みたいにエグエグ言いながら、肩を震わせて泣いている。
号泣し過ぎて前が見えないらしく、お母様に支えられてなんとかココまで歩いて来たらしい。
「エルザ、すっごく綺麗だわ~!
流石、私の娘ねぇ」
「・・・・・・」
ニコニコ笑顔のお母様とは対照的に、お父様はこの世の終わりみたいな顔をして、だんまりだ。
「本当にテオフィル殿下で良いのか?
気が変わったなら、今からでも排除してやるけど」
「僕、一応お前の主だよね?」
自分が仕えている筈の王太子殿下に対して、『排除』とか不穏な言葉をサラッと言っちゃうデニス兄様に、テオは苦笑しながら呟いた。
「デニス、もういい加減諦めろ。
お前はこれからもエルザの側に居られるだろ?」
ユルゲン兄様に窘められて、デニス兄様は不機嫌そうに頷いた。
こんな風に家族とワイワイ戯れる事が出来るのも、後僅かな時間だ。
私は、その幸せを噛み締めていた。
「じゃあ、先に、礼拝堂の方へ行ってるからね」
お母様は泣きじゃくるお父様を私に押し付けると、兄様達を連れて去って行った。
私は、お父様の涙をハンカチで拭いながら、その背を撫でた。
「ほら、もう泣き止んで下さい。
もうすぐ入場ですよ」
「・・・・・・わかってる」
足取りの重いお父様を支える様にして、礼拝堂の入り口へと向かった。
(コレ、逆だよね?
普通は新婦を父親がエスコートするんじゃ無いの?)
そう思って、微かな笑みが込み上げた。
本日はお日柄も良く・・・・・・と表現されるのは、きっとこんな日なのだろう。
そんな、お日柄の良い今日、私はテオと結婚する。
悪役令嬢と側妃という脅威が去って、平和過ぎる学園生活を送っていた私は、先日ついに卒業した。
そして、テオが婚姻を急ぎたいと希望していた為、私の卒業と同時に結婚する事になっている。
教会で行われる婚礼の儀式には、国の要人達と、私達に近しい人物のみが参加する。
その後、国民に向けたパレードが行われて、夜には王宮で貴族達へのお披露目の為に、大規模な夜会がある。
王太子に嫁ぐのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、仰々しい内容に目眩がしそうだ。
パレードってなんだよ。怖い。
王太子妃教育はとっくに終了しているが、まだまだ私は王族の一員になる覚悟が足りていないらしい。
自分に沢山の視線が集まる状況には、なかなか慣れずにいる。
「エルザ様、もうちょっとお顔を上げて下さい」
「ん?ああ、ごめんね」
この後のスケジュールを考えて気が重くなっていた私は、いつの間にか俯いてしまっていたらしく、侍女に叱られて顎を上げた。
今、私は教会の控室で、王宮の侍女達に囲まれて化粧をされている。
鏡の中の自分の顔が、見る見る内に作り替えられていくのを見るのは面白い。
「何度見ても凄いわ。
あっという間に別人みたいになるんだもの」
感心して呟く私に、彼女達は得意気に胸を張った。
「エルザ様の魅力を引き出す事に命をかけておりますので!」
「大袈裟だなぁ」
よく物語の中で、『冴えない女の子が化粧をした途端に美女になる』みたいなテンプレ展開があるけど、あれって現実にも有り得るのね。
ただの御伽噺だと思っていたのに。
そんなこんなで、無事に美女に変身させて貰えた私は、純白のドレスを着て姿見の前に立った。
「素敵ですねぇ・・・。
ため息が出るほどです」
うっとりと呟く侍女に、感謝を込めた微笑みを返す。
その時、控室の扉をノックする音が響いた。
「エルザ~?もうお支度出来たかしら?」
扉の向こうから聞こえたのはお母様の声。
入室を許可する意を込めて、扉の近くに立つ侍女に軽く頷いて見せる。
侍女が扉を開くと、テオと私の家族達がドヤドヤと室内に入って来た。
「今、丁度終わった所です」
一番最初に入室したテオは、私を見つめながらゆっくりと歩み寄り、その存在を確かめる様に、震える指先で頬にそっと触れた。
「ああ、エルザ、夢みたいだ・・・」
うっとりと呟き、瞳を潤ませる。
長く想い続けてくれていたので、感動も一入なのかもしれない。
恥ずかしさと嬉しさで、私の頬がジワジワと熱くなってくる。
「はいはい、家族のまえでイチャつくのは、そのくらいにしておいてね。
お父様が屍になりかけてるから」
お母様の声にハッと振り返ると、魂が抜けそうになっているお父様が居た。
なんか、子供みたいにエグエグ言いながら、肩を震わせて泣いている。
号泣し過ぎて前が見えないらしく、お母様に支えられてなんとかココまで歩いて来たらしい。
「エルザ、すっごく綺麗だわ~!
流石、私の娘ねぇ」
「・・・・・・」
ニコニコ笑顔のお母様とは対照的に、お父様はこの世の終わりみたいな顔をして、だんまりだ。
「本当にテオフィル殿下で良いのか?
気が変わったなら、今からでも排除してやるけど」
「僕、一応お前の主だよね?」
自分が仕えている筈の王太子殿下に対して、『排除』とか不穏な言葉をサラッと言っちゃうデニス兄様に、テオは苦笑しながら呟いた。
「デニス、もういい加減諦めろ。
お前はこれからもエルザの側に居られるだろ?」
ユルゲン兄様に窘められて、デニス兄様は不機嫌そうに頷いた。
こんな風に家族とワイワイ戯れる事が出来るのも、後僅かな時間だ。
私は、その幸せを噛み締めていた。
「じゃあ、先に、礼拝堂の方へ行ってるからね」
お母様は泣きじゃくるお父様を私に押し付けると、兄様達を連れて去って行った。
私は、お父様の涙をハンカチで拭いながら、その背を撫でた。
「ほら、もう泣き止んで下さい。
もうすぐ入場ですよ」
「・・・・・・わかってる」
足取りの重いお父様を支える様にして、礼拝堂の入り口へと向かった。
(コレ、逆だよね?
普通は新婦を父親がエスコートするんじゃ無いの?)
そう思って、微かな笑みが込み上げた。
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