【完結】金で買われた婚約者と壊れた魔力の器

miniko

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3 秘密の会談

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その日私は、侍女のような服装をして、家紋が入っていない馬車に乗り、ひっそりとスタンリー公爵邸を訪問した。

詳しい事情説明や、今後の方針、お互いの条件などを話し合うために設けられた席だった。

正式にはまだ別に婚約者がいる為、こんなコソコソした真似をしなければならない。

応接室で待っていたのは、公爵夫妻とサミュエル様。
サミュエル様の隣に付き添われている黒いローブの男性は、王家から派遣された魔術師様だそうだ。
サミュエル様は現在、邸に籠り、この男性から魔力を供給されている。

サミュエル様には弟がいた筈だが、まだ幼いので話し合いには参加されないとの事。


真紅の薔薇が描かれたティーカップには、香り高い紅茶が湯気を立てている。
今まで座った事がないくらい、フカフカのソファーは、気を抜いたら身体が沈み込んでしまいそう。
目にする物全てが高級過ぎて、緊張感が増す。

サミュエル様は、柔和な雰囲気の美男子で、申し訳無さそうな表情で、言葉少なに私と挨拶を交わした。

ーーーこの美しい人が、私の婚約者になるのか・・・。

信じられない気持ちで見つめていると、サミュエル様がフッと笑った。

「そんなに見つめられると、穴が開きそうだ」

「あっ、済みません!」

「良いよ。可愛らしい女性に見つめられるのは光栄だ」

流石、女性の扱いに慣れていらっしゃる。


全員の紹介と挨拶を終えて、初めに口を開いたのは公爵様だった。

「メリッサ嬢、今回はとても非常識な縁談を受けて頂き、感謝する」

公爵様は、真剣な顔で頭を下げた。
非常識だという自覚はあったらしい。
もっと高圧的にくるのかと思っていたのに、意外だ。

「お顔を上げてください。
事情を伺えば仕方の無い話だと思います」

「ありがとう。
君の婚約者の男爵子息には、新しい縁を用意した。
対外的には、彼とその令嬢、サミュエルと君の二組が、運命の恋に落ち、婚約を円満に解消して結ばれると言う筋書きだ。
サミュエルの症状を公にするわけにはいかないので、済まないが、君にも茶番に付き合ってもらう。
学園入学までに、こちらを読んでおいてくれ」

公爵様は、これからの筋書きが書かれた台本のような物を差し出した。

「・・・・・・かしこまりました」

戸惑いながらチラリと目を通すと、細かい設定がびっしり書かれていて、ここまでするのかと驚いた。
醜聞になるような妙な噂を立てられないためには、美談仕立てにする必要があるのだろうか。
他に婚約者がいる女性を無理矢理嫡男の婚約者にしたと思われては、公爵家に非難が向く。
しかも、相手が特に美しくも資産家でもない子爵令嬢であれば、その理由を詮索されてしまい、厄介だ。
時間がかかっても少しづつ噂を流して、大恋愛の末なのだと周囲に信じさせた方が都合が良い。
その方が政略の婚約者よりも、常に側に寄り添う姿も自然に見える。


サミュエル様の症状について、詳しく話を聞いたところ、事態はなかなか深刻だった。

一年程前に原因不明の高熱を出した後に、様々な体の不調が始まり、詳しく検査したところ、魔力の器に破損が生じ、魔力が漏れ出している事が判明。
魔力の器とは、人間の体内にある、魔力を製造及び蓄積する為の器官である。

優秀な魔術師に治癒魔術をかけてもらったが、全く効果が見られない。
仕方なく対症療法として、王家が派遣してくれた魔術師に魔力提供をして貰っている。
公爵夫人は、今の王妃様の妹にあたるので、内密に王家に協力して貰っているとの事。

しかし、もうすぐ学園入学。
邸に籠ってばかりいられない事態になった。
魔術師に常に付き添われていれば、流石に不自然だ。
どんな事情なのかと周囲に勘繰られてしまう。
そこで、自然に寄り添っていられる婚約者からの魔力提供を思いついたとの事。


「正式に婚約の手続きをしたら、君はこの邸に住んで欲しい」

「そちらの魔術師様は、その時点で王宮に帰られると言う事ですか?」

「そうなんだ。
秘密裏に王家に相談して、口の堅い者を派遣してもらっているのだが、彼等にも本来の仕事がある。
いつまでも、ウチに来てもらうわけには行かないみたいでね」

「わかりました。
今は魔力提供は、どのくらいの頻度で行っているのですか?」

魔術師様に向かって尋ねた。

「器いっぱいに供給出来ていれば3~4時間は全く問題ありません。
そこから徐々に体調が悪くなり、5時間を超えるとかなり辛いと思います。
7時間を超えると、ちょっと危険です」

それは、なかなか供給者の負担が大きい。
寝ている間も魔力漏れが生じているのだから、3時間に一度程度は、サミュエル様の寝室に、供給に行かなければならないだろう。

他にも色々話を聞いて、その日の会合は滞りなく終了した。


帰り際に、今まで一言も話さなかった公爵夫人が、私に足早に寄ってきた。
花のような香水の香りが微かに漂う。

「あ、あの・・・・・・本当に、貴女にとっては酷いお願いばかりでごめんなさい。
でも、私達は貴女に縋るしかないの・・・。
どうかサミュエルの事、助けてやって下さいね」

両手を握られ涙目で訴えられたら、頷くしか選択肢は無い。


どんな傲慢で非常識な高位貴族かと思っていたけど、夫妻は只の〝子を想う親〟だった。
これなら、私もさほど酷い扱いを受けたりはしないだろうと、少しだけ安堵した。
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