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8 婚約の成立
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私達の婚約は思ったよりも早く成立した。
魔術師様を、王宮に返さなければいけない日が迫っていたのかもしれない。
その頃には、スタンリー公爵家が流した私達の恋の噂が、社交界に広く知られるようになっていた。
90%以上が嘘で埋め尽くされたその噂は、身分違いの二人が出会い、困難を乗り越えて恋人となり、溺愛されるという、ご令嬢が好きな恋愛小説のような物語。
噂のお陰か、私に意地悪をする人はほぼいなくなった。
そのタイミングを見計らっての婚約成立である。
「メリッサが僕の婚約者になった」
昼食時、いつもの四人がテーブルを囲む中、私と手を繋ぎながら、サミュエル様が報告した。
「まあ!おめでとう。メル」
「・・・・・・おめでとう」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「それで、明日からメリッサもスタンリー邸で暮らす事になったんだ」
驚いたように、目を見開くウェイクリング様。
「ふふっ。気が早いのね」
ソフィー様は食後の紅茶を優雅に口にしながら、揶揄うようにそう言った。
「ああ。母上が、早めに公爵夫人の教育をしたいって言ってね」
ソフィー様は嬉しそうに祝福してくれたが、ウェイクリング様からは微かに剣呑な空気を感じた。
気の所為だろうか?
いつも友達の恋人として、私の事も気遣ってくださっていると思っていたのだが・・・恋は応援出来ても、結婚となると別と言う事だろうか?
爵位の差が大きい婚姻は、様々な苦労を伴うと聞く。
もしかしたら、それを心配してくださっているのかもしれない。
でも・・・もしも、相応しくないからと反対されているのであれば、少しショックだ。
婚約したので、約束通りスタンリー邸に移住することになった。
夜は三時間毎に、サミュエル様の寝室にお邪魔し、眠っているサミュエル様に魔力を流して自室に戻る。
勿論、婚姻前に一人で男性の部屋には行けないので、事情を知っている古参の侍女が、毎回付き添ってくれていた。
学園でも帰宅しても、いつも一緒にいる私達は今まで以上に打ち解けて来た。
「僕はいつまでこんな風に、人に魔力を貰い続けなければいけないのだろうか」
ある日の深夜、小さなランプの明かりを頼りに寝室に訪問すると、珍しくサミュエル様が目を覚まして呟く。
その瞳は迷子の子供の様に揺れていた。
彼が私に弱音を吐くのは、その時が初めてだった。
「真夜中に目が覚めてしまうと、心細くなる物ですよ」
「ああ、うん。そうかもしれないな。
いつもありがとう。
君には、纏まった睡眠も取らせることが出来なくて、申し訳ない」
「私の事は気になさらないで下さい」
安心してもらえるように、サミュエル様の手の甲を撫でながら、ゆっくり魔力を流した。
いつも毅然とした態度だったから気付かなかったが、死の危険と隣り合わせのこんな症状を抱えて、不安にならない訳が無いのだ。
早く魔力の器を修復する方法が見つかると良いのに。
恐れ多くも、いつの間にかサミュエル様に対して友人のような気持ちを抱いていた私は、魔力欠乏症が完治するまでは、しっかり彼を支えていこうと密かに決意した。
しかし、予期せぬ事態というのは、予期していないからこそ起こる物なのだ。
魔術師様を、王宮に返さなければいけない日が迫っていたのかもしれない。
その頃には、スタンリー公爵家が流した私達の恋の噂が、社交界に広く知られるようになっていた。
90%以上が嘘で埋め尽くされたその噂は、身分違いの二人が出会い、困難を乗り越えて恋人となり、溺愛されるという、ご令嬢が好きな恋愛小説のような物語。
噂のお陰か、私に意地悪をする人はほぼいなくなった。
そのタイミングを見計らっての婚約成立である。
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昼食時、いつもの四人がテーブルを囲む中、私と手を繋ぎながら、サミュエル様が報告した。
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「ありがとう」
「ありがとうございます」
「それで、明日からメリッサもスタンリー邸で暮らす事になったんだ」
驚いたように、目を見開くウェイクリング様。
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ソフィー様は食後の紅茶を優雅に口にしながら、揶揄うようにそう言った。
「ああ。母上が、早めに公爵夫人の教育をしたいって言ってね」
ソフィー様は嬉しそうに祝福してくれたが、ウェイクリング様からは微かに剣呑な空気を感じた。
気の所為だろうか?
いつも友達の恋人として、私の事も気遣ってくださっていると思っていたのだが・・・恋は応援出来ても、結婚となると別と言う事だろうか?
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もしかしたら、それを心配してくださっているのかもしれない。
でも・・・もしも、相応しくないからと反対されているのであれば、少しショックだ。
婚約したので、約束通りスタンリー邸に移住することになった。
夜は三時間毎に、サミュエル様の寝室にお邪魔し、眠っているサミュエル様に魔力を流して自室に戻る。
勿論、婚姻前に一人で男性の部屋には行けないので、事情を知っている古参の侍女が、毎回付き添ってくれていた。
学園でも帰宅しても、いつも一緒にいる私達は今まで以上に打ち解けて来た。
「僕はいつまでこんな風に、人に魔力を貰い続けなければいけないのだろうか」
ある日の深夜、小さなランプの明かりを頼りに寝室に訪問すると、珍しくサミュエル様が目を覚まして呟く。
その瞳は迷子の子供の様に揺れていた。
彼が私に弱音を吐くのは、その時が初めてだった。
「真夜中に目が覚めてしまうと、心細くなる物ですよ」
「ああ、うん。そうかもしれないな。
いつもありがとう。
君には、纏まった睡眠も取らせることが出来なくて、申し訳ない」
「私の事は気になさらないで下さい」
安心してもらえるように、サミュエル様の手の甲を撫でながら、ゆっくり魔力を流した。
いつも毅然とした態度だったから気付かなかったが、死の危険と隣り合わせのこんな症状を抱えて、不安にならない訳が無いのだ。
早く魔力の器を修復する方法が見つかると良いのに。
恐れ多くも、いつの間にかサミュエル様に対して友人のような気持ちを抱いていた私は、魔力欠乏症が完治するまでは、しっかり彼を支えていこうと密かに決意した。
しかし、予期せぬ事態というのは、予期していないからこそ起こる物なのだ。
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