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9 物語の終幕
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学園での生活は恙無く過ぎ去って、私達は卒業した。
卒業後も暫くは公爵家での穏やかな日々が続いていた。
サミュエル様の魔力の器を治す術は、未だに見つからず、このまま行けば数ヶ月後に、私達は結婚する事になるだろうというタイミングで、それは起きたのだ。
私はサミュエル様と午後のお茶の時間を共に過ごしていた。
ソファーに並んで座り、サミュエル様の肩に触れて魔力を流しながらお茶を飲む。
「来週、南の隣国の使節団がやってくる予定なんだ」
「使節団?」
「そう。それで、初日に交流の為の夜会を催すんだけど、高位貴族は出席しなければいけなくて、僕も招待を受けている。
途中で体調を崩す訳にいかないから、君もパートナーとして出席してくれないか?」
「かしこまりました」
城で行われたその夜会は、二ヶ国の文化を融合させたような装飾が施されており、異国情緒漂う非日常的な雰囲気。
規模こそ大きくなかった物の、普段の夜会以上に華やかだった。
隣国の使節団という賓客を迎えての宴なので当然かもしれない。
南の隣国とはつい最近、国交が正常化したばかり。
お互いの国の文化や常識など、あまり知られていない事が多いので、今日の夜会は非常に興味深く、新しい物が大好きな貴族達は皆、目を輝かせて楽しんでいた。
私はいつものようにサミュエル様に寄り添い、沢山の人に挨拶をして回った。
その中に彼女はいた。
隣国の聖女を名乗る彼女は、この国の神殿との交流の為に、使節団と共にやって来たと言う。
艶のあるピンクブロンドを緩く結い上げ、煌めく金色の瞳を持った聖女は、確かにとても美しかった。
「聖女セアラと申します」
綺麗なカテーシーを披露した彼女と目が合った瞬間、サミュエル様の頬が紅潮し、潤んだ瞳が熱を帯びたのがわかった。
私は自分の婚約者が恋に落ちる瞬間を目撃したのである。
「ようこそ、我が国へ。
聖女セアラ・・・歓迎します。
僕は、サミュエル・スタンリーと申します。
・・・こちらは、僕の婚約者で、メリッサ・ハミルトン嬢」
動揺しながらもなんとか挨拶をし、私の事も紹介してくれたサミュエル様であったが、その目は聖女に釘付けである。
「・・・メリッサ・ハミルトンでございます。
以後お見知り置きを」
聖女の方も、サミュエル様の気持ちに敏感に気付いたようで、勝ち誇ったように私に嘲笑を向けて来た。
聖女と言うのは心まで美しいものではないらしい。
私達の国には聖女はいないので、彼女以外は知らないが。
世間で言われているような恋人ではない私は、特に悲しみを感じる事はなかったが、嘲られれば腹も立つと言う物。
彼女の性格の悪さを目撃してしまった私は、サミュエル様が馬鹿な事を考えなければいいなと思っていたが、それも虚しい願いだったようで・・・・・・
「メリッサ、申し訳ないのだが、婚約を破棄して貰えないだろうか?」
夜会から3日後には、嫌な予感が的中したのである。
卒業後も暫くは公爵家での穏やかな日々が続いていた。
サミュエル様の魔力の器を治す術は、未だに見つからず、このまま行けば数ヶ月後に、私達は結婚する事になるだろうというタイミングで、それは起きたのだ。
私はサミュエル様と午後のお茶の時間を共に過ごしていた。
ソファーに並んで座り、サミュエル様の肩に触れて魔力を流しながらお茶を飲む。
「来週、南の隣国の使節団がやってくる予定なんだ」
「使節団?」
「そう。それで、初日に交流の為の夜会を催すんだけど、高位貴族は出席しなければいけなくて、僕も招待を受けている。
途中で体調を崩す訳にいかないから、君もパートナーとして出席してくれないか?」
「かしこまりました」
城で行われたその夜会は、二ヶ国の文化を融合させたような装飾が施されており、異国情緒漂う非日常的な雰囲気。
規模こそ大きくなかった物の、普段の夜会以上に華やかだった。
隣国の使節団という賓客を迎えての宴なので当然かもしれない。
南の隣国とはつい最近、国交が正常化したばかり。
お互いの国の文化や常識など、あまり知られていない事が多いので、今日の夜会は非常に興味深く、新しい物が大好きな貴族達は皆、目を輝かせて楽しんでいた。
私はいつものようにサミュエル様に寄り添い、沢山の人に挨拶をして回った。
その中に彼女はいた。
隣国の聖女を名乗る彼女は、この国の神殿との交流の為に、使節団と共にやって来たと言う。
艶のあるピンクブロンドを緩く結い上げ、煌めく金色の瞳を持った聖女は、確かにとても美しかった。
「聖女セアラと申します」
綺麗なカテーシーを披露した彼女と目が合った瞬間、サミュエル様の頬が紅潮し、潤んだ瞳が熱を帯びたのがわかった。
私は自分の婚約者が恋に落ちる瞬間を目撃したのである。
「ようこそ、我が国へ。
聖女セアラ・・・歓迎します。
僕は、サミュエル・スタンリーと申します。
・・・こちらは、僕の婚約者で、メリッサ・ハミルトン嬢」
動揺しながらもなんとか挨拶をし、私の事も紹介してくれたサミュエル様であったが、その目は聖女に釘付けである。
「・・・メリッサ・ハミルトンでございます。
以後お見知り置きを」
聖女の方も、サミュエル様の気持ちに敏感に気付いたようで、勝ち誇ったように私に嘲笑を向けて来た。
聖女と言うのは心まで美しいものではないらしい。
私達の国には聖女はいないので、彼女以外は知らないが。
世間で言われているような恋人ではない私は、特に悲しみを感じる事はなかったが、嘲られれば腹も立つと言う物。
彼女の性格の悪さを目撃してしまった私は、サミュエル様が馬鹿な事を考えなければいいなと思っていたが、それも虚しい願いだったようで・・・・・・
「メリッサ、申し訳ないのだが、婚約を破棄して貰えないだろうか?」
夜会から3日後には、嫌な予感が的中したのである。
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