【完結済】婚約者である王子様に騙され、汚妃と馬鹿にされて捨てられた私ですが、侯爵家の当主様に偽物の婚約者として迎え入れられて幸せになります

ゆうき

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第三十八話 二人の元へ

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 コツ、コツ、と足音がやけに大きく響く中、私はまだラドバル様と行動を共にしていた。

 とりあえず今の私は、ラドバル様を国王様の元へと送る仕事だ。早く案内しないといけないのに、どっちに行けばいいかわからない……。

「セーラ、私のすぐ隣を歩くんだ。そうすれば、それらしく見える」
「は、はい」

 アドバイス通り行動し始めたら、ラドバル様がどんどん王様がいる所に進んでいってくれた。

「よし……セーラ、返事はしなくていい。聞くだけだ。私が城にいた時と変わっていなければ、城の北に、牢屋に続く地下道がある。おそらく牢屋に閉じ込められているだろうから、そこを目指せ。丁度もう少ししたら、兵士が交代をする時間だから、交代で来たと言えば誤魔化せるだろう」
「…………」
「それと、すぐに助けて逃げると、また大事になる。それはなるべくは避けたい。だから、私が王を説得し、そちらと合流をするまで、二人を守っていてほしい。私が行く前に何かあった場合、その時は即座に解放し、逃げるように」

 ……とりあえず地下牢に行って見張りと交代をし、二人の無事を確認した後にすぐ助けず、ラドバル様を待てばいいんだよね。それで戻ってこなかった、もしくは何か事件が起きたら、即座に解放する……それが私の役目だね。

 うぅ……そんな大役が私なんかに……って、だから弱気になっちゃ駄目! 今まで散々逃げてきたんだから、今回は逃げちゃ駄目!

「お待ちしておりました、ラドバル様。陛下がお待ちです」
「うむ。案内ご苦労だった」

 目で任せたぞと私に託してから、ラドバル様は目の前の部屋の中に消えていった。

 これで、私は完全に一人になってしまった。もう、誰も助けてはくれない……私が一人でやらないと。

「っ……」

 今までにないくらい、胸がドキドキしている。兜のせいで狭まっている視界が、段々と狭まり、そしてぼやけていくのがわかる。

「なにをしている。早く持ち場に戻れ」
「あ……はいっ」

 部屋の見張りをしていた兵士に声をかけられた私は、逃げるようにその場を後にした。

 な、何をしているの私は。もっと堂々としていないと、なんだあいつ? って怪しまれてしまう。

 でも、堂々とするってどうすればいいんだろう。これまで生きてきて、堂々とした事なんて一度もないから、どうすればいいか全然わからない。

 ……そうだ。ヴォルフ様もエリカさんも、いつも堂々としていてカッコいい。それを真似すればいいんだ。

「えっと、こんな感じかな……」

 背中を丸めずにピンっと伸ばし、顔も正面にしっかり向けて……うん、少しは様になったと思う、多分。

 常に一緒にいたわけじゃないけど、二人の姿は何度も見てきたんだ。私がすぐにここで変わる事は出来ないけど、真似をするくらいなら、きっと……!

「お城の北って言ってたけど……こんな所じゃ方角なんてわからないよ……だ、誰かに聞くとか……」

 一番それが手っ取り早いけど、変に喋ったら必ずボロが出て、気付かれてしまう可能性が高い。

 ……とにかく、見回りをしてる雰囲気を出して、さりげなく地下牢を探してみよう。

「…………」

 無駄に広くて長い廊下に、私の乱れた呼吸音と、聞き慣れない金属がぶつかる音がこだまする。その音が、私が今、兵士に変装してお城にいるという事を再認識させ、さらに緊張を高める。

 少しでも気を抜いたら、極限の緊張に耐えきれなくて、倒れてしまいそうだ。それだけは避けないと……全てが水の泡になってしまう。

「……ひぃ!?」
「ん?」

 曲がり角に突き当たったところで、別の兵士と鉢合わせになってしまった私は、思わず変な悲鳴を漏らしてしまった。

 ど、どうしようどうしよう! ビックリして倒れなくて良かったけど、明らかに変な態度を取ってしまったのはわかる!

「突然どうした」
「あ、な……なんでもございません! 鎧の中に虫が入ってしまっていて!」
「……? そうか、気持ち悪いなら、どこかで脱いで取ると良いぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「今日は大切なマルク王子の誕生日パーティーだ。しっかり警備しろよ」

 適当に誤魔化す事に成功した私は、またしても逃げるようにその場を去った。

 あ、危なかった……今のは上手くいったから良かったけど、あんなの挙動不審も良い所だ。こんな事を何度もしていたら、そのうち気付かれてしまう。

 もっと堂々と……胸を張って。大丈夫、私なら大丈夫……頑張れ、セーラ……!

「貴様、そんな所で突っ立ていて、何をしている」
「っ……!!」

 突然後ろから声をかけられたけど、何とか悲鳴を上げないで耐えた私は、後ろを振り返る。そこには、私が見上げてしまうほど大きい兵士が立っていた。

 恐れるな、胸を張るの。大丈夫、絶対にバレない……!

「はっ! 地下牢の見張りの交代を命じられたのですが、地下牢の場所がわからなくて、途方に暮れておりましたです!」
「地下牢の場所がわからない? 貴様、城の兵でありながら、城の内部を把握すらできていないのか?」

 ど、どうしよう……明らかに怪しまれている! でも、ここで焦って逃げてもなにも好転しない。むしろ、余計に怪しまれる!

 そうだ、こういう時はラドバル様から教わった、あの秘密の敬礼をすれば……!

「わた……自分、最近兵士になったばかりなもので!」
「それなら尚更、一日でも早く場所を覚えんか馬鹿者! これだから最近の若者はたるんどると言われるのだ!」
「申し訳ございません!」
「もうよい。地下牢はそこの廊下を突き当りまで進んだ後に左に曲がって進み、二番目の交差点を右に行った突き当りだ! もう忘れるなよ!」
「はっ! ありがとうございます!」

 もう一度敬礼をしてから、私は駆け足でその場を後に――は出来ず、その兵士の人に肩を掴まれてしまった。

 嘘っ、もしかしてバレちゃった……!?

「貴様、名前は何だ?」
「セー……ジと申します!」
「セージ! 貴様、明日の早朝に訓練場に来い! そのたるんだ根性を叩き直してやる! 以上、さっさと持ち場に向かえ!」
「わかりました!」

 三度目の敬礼をしてから、今度こそ私はその場を後にした。

 よ、良かった……バレたのかと思って、緊張で倒れそうになったよ。でも、何とかバレずに済んだどころか、地下牢の場所まで知る事が出来た。

 ……明日の約束を守る事が出来ないのが、ちょっと申し訳ないけど……。

「えっと、言われたのはこっちだよね……」

 さっきの兵士の人に教わった通りに廊下を進んでいく。その途中、何度も別の兵士とすれ違い、その度に変な声を出しそうになったり、飛び跳ねそうになったけど、何とか耐えた。

 そうしてたどり着いた先には、古い木製の扉が鎮座していた。緊張しているからか、ただの扉なのに、異様に重々しく見える。

「よいしょっと……!」

 ギギィ……と、私がよく読むホラー小説なんかで良く出てくる重い音を立てる扉を開けると、そこには地下へと続く階段があった。

「お願い、無事でいて……お願い……!」

 二人の無事をお願いしながら、ゆっくりと階段を降りていく。

 地下牢へ繋がる階段が、緊張と不安でいっぱいになっている私には、永遠に続いているんじゃないかと錯覚するくらい長く感じる。

 それに、壁に掛かっている松明が少なくて、異様に薄暗いせいで、この先に待っているのは、良くないものなんじゃないかと思ってしまう。

 ――もしも、酷い事をされて二人がボロボロだったら?

 ――もしも、ここは本当は地下牢に続く階段じゃなくて、降りた先で待ち伏せをされていたら? 

 ――もしも、この先で二人が既に殺されていたら?

「考えるな、考えても仕方がないんだ……早く、行かないと……!」

 考えてはいけないのはわかってる。わかっていても、私は馬鹿だから、悪い方向にばかり考えてしまい、更に自分を追い詰めていく。

 そして……ついに緊張で限界が来たのか、私はその場に力なく座り込んでしまった。

「はぁ……はぁ……」

 こんな所で立ち止まってる場合じゃない。早く動いて、私の足……なんで、動いてよ……!

「ぜぇ……はぁ……ごほっごほっ……はぁ、はぁ……!」

 あれ、おかしい。確かにこの階段は暗いし、兜のせいで更に視界が悪くなってるのは事実だけど、それにしても、あまりにも急に暗くなりすぎだ。

 それに、体が鉛のように重い。いくら重い鎧を着てるからって、こんなに一歩も動けないなんて……。

「なんで……どう、して……私……二人を、助け、た……い……」

 まるで私という存在が、全て闇に沈んで消えていくような感覚。それとは真逆に、悪い事を考えてしまうのだけは、どんどんと加速する。

 もしも……もしも……もし……たぶん……絶対……。

 ……ああ、本当に私は……弱い……なにも、出来ない……。




『大丈夫、あなたなら出来るわ』
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