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第四十九話 衝撃の言葉

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「えっ……?」

 オーウェン様の口から明かされた衝撃的な言葉に、私は開いた口が塞がらなかった。

 だって、私の前にあるのは……本当にただの原っぱで、屋敷があったなんて面影は一切無いんだもの。

「父と母が亡くなり、屋敷も完全に取り壊されてしまったんだ。見ての通り、完全にただの原っぱに成り下がってしまっているんだ」
「オーウェン様……」

 事情を知らない人が見れば、ここは何の変哲もない原っぱにしか見えない。でも……事情を聞いた後だと、とても悲しい気持ちになってくる。

「そんな顔をしないでくれ。エリンを悲しませるために連れてきたんじゃないのだから。後ろを見てごらん」

 オーウェン様に促されて後ろを振り向くと、そこには夕日によってライトアップされたパーチェの町並みが広がっていた。

「綺麗な夕日……それに、パーチェの町が夕日に照らされて、とても綺麗……」
「俺のご先祖様は、ここから見える景色が大層気に入って、ここに屋敷を建てたそうだ。俺の父もとても気に入っていて、プロポーズをするのにも使った場所だそうだ。もちろん俺も気に入っている」

 そんなに長い間愛されていた景色なのね。それだけ愛されるのも、なんだかわかる気がする。それくらい綺麗な景色だもの。

「俺や両親、そしてご先祖様が愛したこの景色を、エリンにも見せたかったんだ」
「こんな綺麗な景色を見せてくれて、ありがとうございます。でもよかったのですか? 私のような部外者に、ヴァリア家の大切な景色を見せてしまって……それに、なんていうか……屋敷のことも……」

 この景色だけなら、私は何も気にせずに眺めていられただろう。でも、オーウェン様やヴァリス家のことを思うと、のんきに景色を堪能することは出来なかった。

「エリンだから、全部見せたかったんだ。俺達が愛した故郷の地も、この景色も。もし迷惑だったら、申し訳ない」
「迷惑だなんて! 私は、オーウェン様がつらい過去を思い出してしまったんじゃないかと、心配で……」
「心配してくれてありがとう。エリンは本当に優しいな」

 私は……優しくなんかない。本当に優しいオーウェン様みたいな人間だったら、ここで気の利いた一言でも言って、慰められるはずだ。

 でも、今の私にはその言葉がなにも出てこない。唯一出来たことは、オーウェン様の悲しみが少しでも和らぐように、オーウェン様の腕に、そっと寄り添うことだけだった。

「本当は、もっと気の利いたことが言えればよかったんですけど……」
「いいんだ。隣にいてくれるだけで、俺は嬉しいよ。それに、俺を心配してくれたから、こうして寄り添ってくれたのだろう?」
「その……自分が不安だった時や、失敗して落ち込んでる時に、誰かにこうして触れてもらってると落ちつくので、オーウェン様にもしてさしあげたかったんです」
「エリン……」

 私は、寄り添っていた腕で肩を抱かれると、そのままオーウェン様の腕の中に納まった。

「お、オーウェン様……?」

 モジモジしながら顔を上げると、オーウェン様は凄く真面目な表情で、私のことをジッと見つめてきた。

 そんなに見られたら、ドキドキしちゃうんだけど……!

「…………」
「あの、どうかされましたか?」
「すまない、ちょっとボーっとしてしまって」
「そうなんですか? 珍しいですね」
「エリンがとても愛らしかったから、つい見惚れていた」
「ふぁい!?」
「どうした、急に変な声を出して」
「あわわわわ……ず、ずいびゅんせっきょくれきですね!?」

 ど、どうしよう。頭の処理が追い付かなくなり、呂律も回らなくなっている!

 こういう時ってどうすれば……うぅ、お母さん助けて! オーウェン様が私のことを褒めてくるわ! こういう時って、どういう感じで対応すれば良いの!?

「ははっ、まあね。なんというか、この地に来たら決心がついたというか……きっとご先祖が後押ししてくれているんだと思う」
「決心……?」
「言おうか言わないか、ずっと迷っていたが……やっぱり言うことにしたよ。俺は、エリンが好きだ」

 ……………………????

「もう一度お願いします」
「エリンが好きだ」

 やっぱり聞き間違いじゃなかったの!? てっきり聞き間違いか、幻聴が聞こえてきたのかと思ったわよ!?

「相手が誰であろうとも、困ってる人は助けるその姿勢、薬を作っている時の真剣な表情、でも普段はとても穏やかで優しい笑みを浮かべて、誰にでも優しくて可愛らしいエリンが好きなんだ。まだ出会ってからあまり日は経っていないが、一緒に過ごしているうちに、自分が君の虜になっていると気がついたんだ」
「………」
「俺を、エリンのパートナーにしてほしい。無論、アトレで働く人間としてだけじゃなく、エリンの恋人として」

 突然言われても、どうすればいいかなんてわからない。こっちは恋愛初心者なのだから。

「私も……オーウェン様が颯爽と飛び出して助けてくれた時の背中が大好きです。剣を握っているだけでもカッコいいのに、戦っているところはカッコよすぎて眩暈がするくらいで……料理もしてるところも好きですし、ココちゃんと楽しく話している姿も好きです。あと……紳士的だったり、待たされても怒らずに待ってくれたり……」

 オーウェン様の好きなところやカッコいいところを並べてみたが、これでも足りないくらいだ。

 それと同時に思った――これ、どう考えてもオーウェン様のこと大好きな人間の思考だと。

 自分でも薄々はわかっていた。特にセシリアから守ってもらった時や、デートをしていた時なんか、今までにないくらいドキドキしていたもの。

「つまり、その……私もオーウェン様のことが好きです。けど……自分には相応しくないと思ってて……ああもう、やっぱり言いたいことがグチャグチャになってる……とにかく、こんな不束者でよければ……よろしくお願いします」
「っ……! ああ、よろしく頼む!」

 ずっと静かに私の話を聞いていたオーウェン様の表情が明るくなり、それと同時に私はオーウェン様に強く抱きしめられ、唇を奪われた。

 こうやって抱きしめられることは、なにも初めての経験ではない。それなのに……私は初めて抱きしめられた時よりもドキドキし、同時に言葉では言い表せないくらいの幸福感で満たされていた。

「オーウェン様……大好きです」

 ……私、カーティス様とバネッサに裏切られ、利用されていたと知った時は、本当に自分の人生を呪ったけど、まさかこんなに幸せなことが待っているなんて、思ってもなかった。

 これも、私のために動いてくれたハウレウや、逃がすために一役買ってくれたジル様のおかげだわ。無事に再会した時には、お礼と一緒にちゃんと報告をしなきゃ。

 そして、お母さん……私、今凄く幸せだよ。いつになるかはわからないけど、お母さんの元に帰った時は、オーウェン様を紹介するから!
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