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切り捨てるのか、掬い上げるのか

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「愚か者、確かにそうですわね。婚約者がありながら、他のご令嬢に懸想されているんですもの」

 ルーナがそう言うと、メルティンもカーラも目を伏せた。

 婚約当時はそんな愚かさの欠片もなかったとしても、諌めることが出来なかったのも婚約者の責任だからだ。

 簡単に婚約解消ができないアデライン王国の貴族だからこそ、しっかりと手綱を握っておかなければならなかった。

 もちろん、魅了魔法などに抗える術は少ない。

 だが高位貴族、しかも嫡男であるのなら、セドリックの父親である神官長の魔法をかけてもらうことだってできたのだ。

 シシリーの魔力が強いことは予想外だが、それでもライアンはギリギリ耐えているし、セドリックも不快と感じていたのだから。

「それで、お二人はどうされたいのですか?婚約者を切り捨てたいのですか?それとも救いあげたいのですか?」

 完全にシシリーにハマっているアレックスとダグラス。

 いまさら魔道具を付けても、セドリックのような明確な効果が現れるかどうか。

 間に合うとしたらライアンだろうが、アレはアレで本気で好意を抱いていそうだし、ライアンに興味がないルーナとしては、そんなに好きならくっつけばいいと思っているのである。

 幸いにも、騎士団長にも宰相にも息子なり娘なり後継候補はいる。

 あそこまで周囲に、婚約者を蔑ろにしている姿を見せたのである。
 報告を受けているだろう彼らの親は、廃嫡はもちろん廃籍も考えているはずだ。

 カーラはしばらく目を伏せていたが、やがて意を決したようにルーナと視線を合わせた。

「私は、ダグラス様との婚約を解消するつもりです。父にもその旨、話してあります。廃籍されて平民となったら、私は騎士を目指すつもりです」

 カーラはダグラスと結婚したら騎士団長になるダグラスを支え、ロックベル侯爵家夫人として家を支えるつもりだった。

 だが、あんな風に自分を蔑ろにする相手と添い遂げるなんて冗談ではない。

 魔法にかかったから?
そんなのは言い訳だ。

 完全にシシリーの手の内に取り込まれてしまう前に、抗う術はあったはずだ。

 もちろん、それに手を貸せなかった自分にも非はあるだろう。

 それでももう、共に手を取り合うことは出来ない。元々、政略的な間柄だ。

 カーラはそう考え、両親にも相談した。

 幸いにも、嫁に行く予定だったカーラである。
 多少の醜聞にはなるだろうが、平民になればそれもすぐ収まるだろう。

 一方のメルティンは、決心がつかず隣で語るカーラの声を俯いたまま聴いていた。

 メルティンは、カーラのように騎士になるという夢もない。

 アレックスはメルティンにとって初恋の相手で、アレックスを切り捨てる判断が出来なかった。

 
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