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わたくしは恋を知らない

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 胸の奥がモヤモヤして、それが顔に出ていたのだと思います。

 夕食の後に、お母様にお部屋に呼ばれました。

「どうしたの?私の可愛いお姫様。何か悩み事?」

「いえ、あの、悩み事というか、胸の奥がモヤモヤするのです」

「モヤモヤ?」

 わたくしは、シャルロット様とのお茶会に乱入して来たご令嬢のことをお母様にお話しました。

 どうやらお母様は、ジークハルト様からお話を伺っていたらしく「コストナー男爵家の娘ね」とおっしゃいました。

 そのご令嬢がジークハルト様と恋仲だと妄想していると、シャルロット様からお聞きしたこと。

 そのことを聞いてから、胸の奥がモヤモヤすることをお母様にお伝えしました。

 お母様はいつも通りに私の髪を撫でながら、わたくしに尋ねられます。

「ねぇ、アリスティアはエリック殿下のことをどう思っていたのかしら?」

 え?エリック殿下ですか?

「エリック殿下は、生まれた時からの婚約者様です・・・いえ、でしたわ」

「じゃあ、そのエリック殿下が他の・・・ユリアだったかしら?他の女性と仲良くしてるのを見てどう思った?」

「そうですね・・・そんなにお好きなのなら婚約を解消すれば良いのに、と」

 セオドア王国では、男爵家のご令嬢でも王家に嫁ぐことができます。

 もちろん、王子妃教育や王太子妃教育は大変でしょうけど、ユリア様もエリック殿下がお好きなら頑張れると思いますわ。

「そう。寂しいとか思わなかった?」

「寂しい・・・ですか?」

「今までずっと一緒にいたのに、もう一緒にいられなくなることを、寂しいと思わなかった?」

「そう・・・ですね、あの夢を見たせいでエリック殿下と婚約を解消したいと思いましたけど、もしあんな夢ではなくエリック殿下から他に好きな方ができたと言われたとしても、寂しいとは思わなかったと思います」

 エリック殿下のことを、嫌いだったわけじゃないです。

 生まれた時からの婚約者で、王子妃教育や淑女教育に時間を取られましたけど、それでも共に過ごして来たのです。

 あの、市井に一緒に出かけたこと、本当に楽しかった。

 でも、もしユリア様のことを好きになったと打ち明けられていたとしても、わたくしは快くエリック殿下との婚約の解消を受け入れたと思います。

 ジークハルト様がわたくしを思ってくださる気持ちが恋だというのなら、わたくしは恋をまだ知らないのだと思います。

 エリック殿下のことも、多分友人か、家族みたいな気持ちだったのでしょう。
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