52 / 105
52.家族と同じくらいなの
しおりを挟む
「リュカ、本当にいいの?」
クライゼン王国を出て、乗合馬車に揺られながら私は隣に座るリュカに尋ねた。
国王陛下たちが家紋のない馬車をくれると言ったんだけど、丁重にお断りした。
どこまで行くかもどこに行くかも決めていないし、馬車は行けない山を越えたり海を越えたりするかもしれない。
だから乗合馬車という選択をした。
まさか王家から借りた馬車を、適当に乗り捨てるわけにはいかないもの。
フローレンス公爵家の、乗り心地がいい馬車に慣れてる身としては、乗合馬車はお尻が痛くなってしまうのが難点だけど、旅に出たいと言ったのは私だから、我慢するしかないわ。
「お嬢様をひとりにできるわけがないでしょう」
「そのお嬢様というのもやめない?せっかくワンピースを準備してくれたのに」
ドレスでは旅なんて出来ないからと、王宮の侍女たちが自分で着替えることが出来るワンピースや歩きやすい編み上げのブーツを準備してくれて、髪の束ね方も教えてくれた。
まぁ、髪はリュカでも束ねることはできるけど、着替えは自分でできないと困るものね。
前ボタンや、頭からガバッと被ってウエストをリボンで締めるものなど、自分で着られる物ばかりを揃えてくれた。
せっかく平民に見える格好にしたんだから、お嬢様呼びはやめた方がいいと思うの。
なのにリュカはハァ、とため息を吐いた。
「どんな格好をしても、お嬢様はお嬢様ですよ。いいとこ良家の子女ってとこです。平民と見られたいなら、その滲み出る気品というかオーラを消してください」
「そんなの出してないわ」
「お嬢様は生まれながらの公爵令嬢で、ずっと王族の婚約者だったんです。所作も何もかもに品があるんですよ。まぁ、粗雑にするのは無理でしょうから、いいとこのお嬢様路線でいきましょう。ですから、お嬢様呼びで良いんですよ」
なんだか納得いかないわ。
別に気取っているつもりはないのに、普通にしてても貴族令嬢に見えるってこと?
「お名前で呼んで、周囲にお嬢様のお名前を知られたくありません。それに、俺は使用人ですから」
「リュカはリュカよ。あの時も言ったけど、リュカは私にとって家族と同じくらい信用できる存在なの。確かにリュカはお父様に雇われているけど、これからしばらく二人きりなんだし、お互い言いたいこととか我慢しないで話し合っていきましょう?敬語もやめてね?」
「・・・わかりま・・・分かったよ、アイシュお嬢さん」
耳元で呼ばれた名前に・・・
顔から火が出そうなほど暑くなった。
え?なんで?
今まで、ウィリアム殿下にもアスラン殿下にも名前で呼ばれてもなんともなかったのに!
クライゼン王国を出て、乗合馬車に揺られながら私は隣に座るリュカに尋ねた。
国王陛下たちが家紋のない馬車をくれると言ったんだけど、丁重にお断りした。
どこまで行くかもどこに行くかも決めていないし、馬車は行けない山を越えたり海を越えたりするかもしれない。
だから乗合馬車という選択をした。
まさか王家から借りた馬車を、適当に乗り捨てるわけにはいかないもの。
フローレンス公爵家の、乗り心地がいい馬車に慣れてる身としては、乗合馬車はお尻が痛くなってしまうのが難点だけど、旅に出たいと言ったのは私だから、我慢するしかないわ。
「お嬢様をひとりにできるわけがないでしょう」
「そのお嬢様というのもやめない?せっかくワンピースを準備してくれたのに」
ドレスでは旅なんて出来ないからと、王宮の侍女たちが自分で着替えることが出来るワンピースや歩きやすい編み上げのブーツを準備してくれて、髪の束ね方も教えてくれた。
まぁ、髪はリュカでも束ねることはできるけど、着替えは自分でできないと困るものね。
前ボタンや、頭からガバッと被ってウエストをリボンで締めるものなど、自分で着られる物ばかりを揃えてくれた。
せっかく平民に見える格好にしたんだから、お嬢様呼びはやめた方がいいと思うの。
なのにリュカはハァ、とため息を吐いた。
「どんな格好をしても、お嬢様はお嬢様ですよ。いいとこ良家の子女ってとこです。平民と見られたいなら、その滲み出る気品というかオーラを消してください」
「そんなの出してないわ」
「お嬢様は生まれながらの公爵令嬢で、ずっと王族の婚約者だったんです。所作も何もかもに品があるんですよ。まぁ、粗雑にするのは無理でしょうから、いいとこのお嬢様路線でいきましょう。ですから、お嬢様呼びで良いんですよ」
なんだか納得いかないわ。
別に気取っているつもりはないのに、普通にしてても貴族令嬢に見えるってこと?
「お名前で呼んで、周囲にお嬢様のお名前を知られたくありません。それに、俺は使用人ですから」
「リュカはリュカよ。あの時も言ったけど、リュカは私にとって家族と同じくらい信用できる存在なの。確かにリュカはお父様に雇われているけど、これからしばらく二人きりなんだし、お互い言いたいこととか我慢しないで話し合っていきましょう?敬語もやめてね?」
「・・・わかりま・・・分かったよ、アイシュお嬢さん」
耳元で呼ばれた名前に・・・
顔から火が出そうなほど暑くなった。
え?なんで?
今まで、ウィリアム殿下にもアスラン殿下にも名前で呼ばれてもなんともなかったのに!
604
あなたにおすすめの小説
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした
カレイ
恋愛
子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き……
「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」
ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?
元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。
全てがどうでもよくなった私は理想郷へ旅立つ
霜月満月
恋愛
「ああ、やっぱりあなたはまたそうして私を責めるのね‥‥」
ジュリア・タリアヴィーニは公爵令嬢。そして、婚約者は自国の王太子。
でも私が殿下と結婚することはない。だってあなたは他の人を選んだのだもの。『前』と変わらず━━
これはとある能力を持つ一族に産まれた令嬢と自身に掛けられた封印に縛られる王太子の遠回りな物語。
※なろう様で投稿済みの作品です。
※画像はジュリアの婚約披露の時のイメージです。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
もう、今更です
ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。
やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる