私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな

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52.家族と同じくらいなの

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「リュカ、本当にいいの?」

 クライゼン王国を出て、乗合馬車に揺られながら私は隣に座るリュカに尋ねた。

 国王陛下たちが家紋のない馬車をくれると言ったんだけど、丁重にお断りした。

 どこまで行くかもどこに行くかも決めていないし、馬車は行けない山を越えたり海を越えたりするかもしれない。

 だから乗合馬車という選択をした。
まさか王家から借りた馬車を、適当に乗り捨てるわけにはいかないもの。

 フローレンス公爵家の、乗り心地がいい馬車に慣れてる身としては、乗合馬車はお尻が痛くなってしまうのが難点だけど、旅に出たいと言ったのは私だから、我慢するしかないわ。

「お嬢様をひとりにできるわけがないでしょう」

「そのお嬢様というのもやめない?せっかくワンピースを準備してくれたのに」

 ドレスでは旅なんて出来ないからと、王宮の侍女たちが自分で着替えることが出来るワンピースや歩きやすい編み上げのブーツを準備してくれて、髪の束ね方も教えてくれた。

 まぁ、髪はリュカでも束ねることはできるけど、着替えは自分でできないと困るものね。

 前ボタンや、頭からガバッと被ってウエストをリボンで締めるものなど、自分で着られる物ばかりを揃えてくれた。

 せっかく平民に見える格好にしたんだから、お嬢様呼びはやめた方がいいと思うの。

 なのにリュカはハァ、とため息を吐いた。

「どんな格好をしても、お嬢様はお嬢様ですよ。いいとこ良家の子女ってとこです。平民と見られたいなら、その滲み出る気品というかオーラを消してください」

「そんなの出してないわ」

「お嬢様は生まれながらの公爵令嬢で、ずっと王族の婚約者だったんです。所作も何もかもに品があるんですよ。まぁ、粗雑にするのは無理でしょうから、いいとこのお嬢様路線でいきましょう。ですから、お嬢様呼びで良いんですよ」

 なんだか納得いかないわ。
別に気取っているつもりはないのに、普通にしてても貴族令嬢に見えるってこと?

「お名前で呼んで、周囲にお嬢様のお名前を知られたくありません。それに、俺は使用人ですから」

「リュカはリュカよ。あの時も言ったけど、リュカは私にとって家族と同じくらい信用できる存在なの。確かにリュカはお父様に雇われているけど、これからしばらく二人きりなんだし、お互い言いたいこととか我慢しないで話し合っていきましょう?敬語もやめてね?」

「・・・わかりま・・・分かったよ、アイシュお嬢さん」

 耳元で呼ばれた名前に・・・

 顔から火が出そうなほど暑くなった。

 え?なんで?
今まで、ウィリアム殿下にもアスラン殿下にも名前で呼ばれてもなんともなかったのに!
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