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お願いしてみましょう

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「あの、ユリウス様。私がお相手いたしましょうか?」

 ユリウス様が本気でお相手した場合、伯爵家は大変なことになる気がするのですが。

 だって、そのゴーマン伯爵様って「娘の気持ちを受け入れて欲しい」とかおっしゃったと、前に教えて下さいませんでしたか?

 娘さんが可愛いのはわかりますけど、辺境伯様相手に失礼が過ぎると思うんですが。

「いや、ミリムに何かあったら大変だ。それに婚姻が終わるまでは、逃げ通す」

 私が子爵令嬢なので、伯爵家のご令嬢に逆らえないからですね。

「なら、先に婚姻だけでも認めていただきましょう?」

「え?」

「デビット、手紙を書くから便箋をお願い」

「は、はい。すぐに」

 あまり、こういう手は使いたくなかったのですけど。

 これ以上、辺境伯家相手に不敬を働いて、ご令嬢が修道院に行かされたりするのは、さすがにかわいそうですしね。

「ミリム?手紙とは・・・」

「国王陛下に、婚姻だけ先に認めて下さるようにお願いすることにします」

「は?」

 ヴァルフリーデ王国では、婚姻には国王陛下の許可が必要です。

 陛下の玉璽入りの婚姻証明がなければ、正式な婚姻とは認められません。

 もちろん、平民の方にはそんなものは必要ありません。

 これは貴族にのみ適用され、つまり陛下の許可がないパートナーは『妻』ではなく『愛妾』としてみられるのです。

 そしてこの国では『愛妾』を持つことは、よく思われていません。

 禁じられてはいませんが、皆様そのような方とはお付き合いを控えられます。

 つまりは、貴族としての交流に響くということですわね。

「陛下に、直接?」

「ええ。ラナリス様とは、兄の婚約以前から親しくさせていただいています。その時から、まるで娘のように可愛がっていただいていますから」

 お兄様とラナリス様がお会いしたのは、婚約者候補を集めたお見合いの場です。

 ラナリス様がお兄様に一目惚れされたのは有名な話なのですが・・・

 ラナリス様は決してお兄様の容姿だけを気に入ったわけではないのです。

 むしろ決定打は、内面ですもの。

 あの腹黒さのどこが良いのか私には理解できませんが、お兄様が優秀で、家族思いで、為政者に向いた性格であることは認めますわ。

「そう、なのか。それならばドレスの話の時に教えてくれれば・・・」

「申し訳ございません。ですが、あまり陛下に無理を通したくなかったのです。あくまでも私は子爵令嬢ですから」

「そうか、そうだな。権力を行使する人間には、それに対する責任が生じる。ミリムは正しい。君のような聡明な女性が婚約者で、本当に良かった」

 買い被りすぎですが、そう言っていただけると嬉しいですね。
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