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第一章
聖女覚醒しました
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いよいよ属性判定の日になった。今日だけ特別で、新入生は全クラス合同での授業だ。講堂へと集まった生徒たちは各クラス毎に整列して並んではいるものの、皆そわそわとしている。その視線を集めるのは、魔法学の担当教師であるマイヤーコブ先生の傍にある大きな水晶球。
この水晶球を使ってそれぞれの魔法属性を調べる事になる。そしてこの儀式を終える事によって、今まで使えなかった魔力が解放されて魔法を使えるようになるのだ。いくら魔力を持っていても、その力を解放しなければどんなに呪文を唱えようとも魔法は発動しない。
「これから順番に水晶球の前に出て来て貰う。判定が終わったら、その属性のバッジを渡すので制服に付けるように」
ゲームの中でもあったこの光景にちょっとドキドキする。あぁ、あたしゲームの世界に居るんだなぁ……と実感する瞬間だ。ヒロインであるあたしは、後に聖女認定を受ける事になるので聖属性持ちという事は知っているけど、やっぱりこのイベントは緊張しちゃうなぁ。
「なんか緊張するな……」
あたしの横でポツリとブルーニクスがそう呟く。
「魔道具とかバリバリに作ってるのに緊張するの?」
「それとこれとは別だよ。まだ俺自身は魔法使える訳じゃないし、これでやっと自分で魔力を込める事が出来るからな」
ブルーニクスは魔道具を作っているけど、それは他の人が魔力を込めた魔石を用いて作っているに過ぎなかった。これからは自分でも魔石に魔力を込められるし、込める魔力の量も自分で色々と調節も出来るんだそうだ。
「色々と難しいのね、魔道具作りって」
「当たり前だろ。簡単に出来るんなら誰も店で買わないよ」
「確かにそうね」
ブルーニクスの魔力の属性ってなんだろう? 彼は攻略対象者ではないし、ゲームの中では彼についての記述はひとつもなかった。顔はそこそこイケてるのよね。攻略対象者の誰とも上手く行かなかったら、あたしをお嫁に貰ってくれたりしないかなぁ……。
「え、なに? 俺の顔見ながらよからぬ事考えてないスか、お嬢」
「いっ!? ヤダな~そんな訳ないじゃない」
そんな怪しい顔してたのかしら、それとも勘が鋭いだけ? 昔からブルーニクスはあたしの異変を察知するのが上手い。転生直後も前世での性格が融合されたあたしを見て何故かお腹を抱えて笑っていた。「お嬢はそれくらいな方がいい!」と褒めていたのか褒めていないのか、よく分からない言葉を貰ったなぁ。
「あ、俺の番だ。行って来る」
「頑張って」
ブルーニクスを送り出す。緊張してるのが背中からも伝わってくる。先生の指示に従って、ブルーニクスが水晶球に手をかざすと……水晶球の中にぐおんっ! と水しぶきが舞った。おおっ、水属性なのね。
「わっ……ぷっ」
それも結構魔力が強いみたいでブルーニクスの顔めがけて水晶球からバシャン! と大きな水しぶきが掛かった。周りの生徒たちも思わず水を避ける。ブルーニクスは頭から水をかぶってびしょびしょだ。生徒たちから笑いが起こる。ブルーニクスも一緒に笑っている。
マイヤーコブ先生が腕を弧を描くように動かした途端、濡れていた髪も服も床に出来た水たまりも全て一瞬できれいに元通りになった。先生の魔法に皆が感嘆の声を上げる。さすが先生だ、魔法の扱いがとても優雅で美しい。
「ブルーニクス・カルベロスは水属性ですね。力が強いようなので制御に気を付けてください」
「はいっ」
魔法学副担の先生から属性バッジを受け取り、嬉しそうにこちらへと戻ってきた。仲良しのクラスメイトたちに背中をバシバシ叩かれている。
「次、パフィット・カルベロス。前へ」
「はい!」
自分の名前が呼ばれたのでドキリとして水晶球の前へと進む。大丈夫、ゲームでは聖なる光が天井から降り注ぐだけだった。深呼吸をして腕を水晶球の方へと延ばす。
――チカリ。
水晶球が一瞬小さく光った――と思ったのもつかの間。まばゆい程の光がキラキラと天井から降り注ぎ、辺り一面虹色に輝き出した。そしてあちこちから「ん?」「あれっ……?」と戸惑ったような声が聞こえ始める。
「昨日怪我した傷が消えた!」
「風邪ひいて熱っぽかったのに急に熱が下がった」
「生まれつきの喘息が……もしかして治ってる!?」
と、どうやら勝手に発動したらしい治癒魔法らしき効果を感じた生徒たちが各々驚きの声を上げる。
「深爪したのに痛くなくなってる!」
「あれ……心臓が重苦しくない? うわー、走れるよっ! 嘘みたいだ、僕走れるよっ!」
「ぼ、坊ちゃま!? そんな風に走られては……て、おや? 長年患っていた腰痛が消えましたぞ。坊ちゃまー爺も走れますぞー」
「おっ(ごそごそ)皆に知られてはいけない痔が……治ってるではないか」
「あれ……記憶喪失だったのが、全部思い出したぞ。おお、そなたは愛しい我が婚約者殿ではないか! 忘れていてごめんっ」
「思い出して下さったのですね! 嬉しいですっ」
なんかどうでも良いものやら、聞いちゃいけないものやら、感動の再会? やら……その効果はあらゆる所へと波及しているようだった。……あの心の臓を患っておられた病弱令息さまは、特別に爺やを伴われての学園生活でしたけど元気になられたようで良かった。
皆が色々驚いている中、横に居たマイヤーコブ先生も驚きを隠せないまま微笑まれた。
「カルベロス嬢は珍しい聖属性をお持ちのようですね」
「そ、そのようですね……」
「ありがとう御座います、わたしの憑き物も除霊されたようです」
「はひっ!? そ、ソウデスカ……それは良かったです」
マイヤーコブ先生、そんなの背負っておられたんですか!? 皆の方を振り返ると、今まで遠巻きに接していた生徒たちがわっと周りに集まって来た。おおっ、ようやくヒロインパワー発動って感じですね。さっきので“何かを”治して貰ったらしい方々からは口々にお礼を言われてなんだか照れてしまう。勝手に発動しちゃっただけだからね、あたし何もしてないと同じだからね。まぁ、それでも皆の助けになれたのなら聖女も悪くないかもしれない。これだけはヒロインに生まれて来て良かったかも。
この水晶球を使ってそれぞれの魔法属性を調べる事になる。そしてこの儀式を終える事によって、今まで使えなかった魔力が解放されて魔法を使えるようになるのだ。いくら魔力を持っていても、その力を解放しなければどんなに呪文を唱えようとも魔法は発動しない。
「これから順番に水晶球の前に出て来て貰う。判定が終わったら、その属性のバッジを渡すので制服に付けるように」
ゲームの中でもあったこの光景にちょっとドキドキする。あぁ、あたしゲームの世界に居るんだなぁ……と実感する瞬間だ。ヒロインであるあたしは、後に聖女認定を受ける事になるので聖属性持ちという事は知っているけど、やっぱりこのイベントは緊張しちゃうなぁ。
「なんか緊張するな……」
あたしの横でポツリとブルーニクスがそう呟く。
「魔道具とかバリバリに作ってるのに緊張するの?」
「それとこれとは別だよ。まだ俺自身は魔法使える訳じゃないし、これでやっと自分で魔力を込める事が出来るからな」
ブルーニクスは魔道具を作っているけど、それは他の人が魔力を込めた魔石を用いて作っているに過ぎなかった。これからは自分でも魔石に魔力を込められるし、込める魔力の量も自分で色々と調節も出来るんだそうだ。
「色々と難しいのね、魔道具作りって」
「当たり前だろ。簡単に出来るんなら誰も店で買わないよ」
「確かにそうね」
ブルーニクスの魔力の属性ってなんだろう? 彼は攻略対象者ではないし、ゲームの中では彼についての記述はひとつもなかった。顔はそこそこイケてるのよね。攻略対象者の誰とも上手く行かなかったら、あたしをお嫁に貰ってくれたりしないかなぁ……。
「え、なに? 俺の顔見ながらよからぬ事考えてないスか、お嬢」
「いっ!? ヤダな~そんな訳ないじゃない」
そんな怪しい顔してたのかしら、それとも勘が鋭いだけ? 昔からブルーニクスはあたしの異変を察知するのが上手い。転生直後も前世での性格が融合されたあたしを見て何故かお腹を抱えて笑っていた。「お嬢はそれくらいな方がいい!」と褒めていたのか褒めていないのか、よく分からない言葉を貰ったなぁ。
「あ、俺の番だ。行って来る」
「頑張って」
ブルーニクスを送り出す。緊張してるのが背中からも伝わってくる。先生の指示に従って、ブルーニクスが水晶球に手をかざすと……水晶球の中にぐおんっ! と水しぶきが舞った。おおっ、水属性なのね。
「わっ……ぷっ」
それも結構魔力が強いみたいでブルーニクスの顔めがけて水晶球からバシャン! と大きな水しぶきが掛かった。周りの生徒たちも思わず水を避ける。ブルーニクスは頭から水をかぶってびしょびしょだ。生徒たちから笑いが起こる。ブルーニクスも一緒に笑っている。
マイヤーコブ先生が腕を弧を描くように動かした途端、濡れていた髪も服も床に出来た水たまりも全て一瞬できれいに元通りになった。先生の魔法に皆が感嘆の声を上げる。さすが先生だ、魔法の扱いがとても優雅で美しい。
「ブルーニクス・カルベロスは水属性ですね。力が強いようなので制御に気を付けてください」
「はいっ」
魔法学副担の先生から属性バッジを受け取り、嬉しそうにこちらへと戻ってきた。仲良しのクラスメイトたちに背中をバシバシ叩かれている。
「次、パフィット・カルベロス。前へ」
「はい!」
自分の名前が呼ばれたのでドキリとして水晶球の前へと進む。大丈夫、ゲームでは聖なる光が天井から降り注ぐだけだった。深呼吸をして腕を水晶球の方へと延ばす。
――チカリ。
水晶球が一瞬小さく光った――と思ったのもつかの間。まばゆい程の光がキラキラと天井から降り注ぎ、辺り一面虹色に輝き出した。そしてあちこちから「ん?」「あれっ……?」と戸惑ったような声が聞こえ始める。
「昨日怪我した傷が消えた!」
「風邪ひいて熱っぽかったのに急に熱が下がった」
「生まれつきの喘息が……もしかして治ってる!?」
と、どうやら勝手に発動したらしい治癒魔法らしき効果を感じた生徒たちが各々驚きの声を上げる。
「深爪したのに痛くなくなってる!」
「あれ……心臓が重苦しくない? うわー、走れるよっ! 嘘みたいだ、僕走れるよっ!」
「ぼ、坊ちゃま!? そんな風に走られては……て、おや? 長年患っていた腰痛が消えましたぞ。坊ちゃまー爺も走れますぞー」
「おっ(ごそごそ)皆に知られてはいけない痔が……治ってるではないか」
「あれ……記憶喪失だったのが、全部思い出したぞ。おお、そなたは愛しい我が婚約者殿ではないか! 忘れていてごめんっ」
「思い出して下さったのですね! 嬉しいですっ」
なんかどうでも良いものやら、聞いちゃいけないものやら、感動の再会? やら……その効果はあらゆる所へと波及しているようだった。……あの心の臓を患っておられた病弱令息さまは、特別に爺やを伴われての学園生活でしたけど元気になられたようで良かった。
皆が色々驚いている中、横に居たマイヤーコブ先生も驚きを隠せないまま微笑まれた。
「カルベロス嬢は珍しい聖属性をお持ちのようですね」
「そ、そのようですね……」
「ありがとう御座います、わたしの憑き物も除霊されたようです」
「はひっ!? そ、ソウデスカ……それは良かったです」
マイヤーコブ先生、そんなの背負っておられたんですか!? 皆の方を振り返ると、今まで遠巻きに接していた生徒たちがわっと周りに集まって来た。おおっ、ようやくヒロインパワー発動って感じですね。さっきので“何かを”治して貰ったらしい方々からは口々にお礼を言われてなんだか照れてしまう。勝手に発動しちゃっただけだからね、あたし何もしてないと同じだからね。まぁ、それでも皆の助けになれたのなら聖女も悪くないかもしれない。これだけはヒロインに生まれて来て良かったかも。
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