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最終章
23話——やっぱり難しいのでしょうか。
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ソースから手作りしたミートソーススパゲティを携え、大テーブルのある広間へ戻った。
夕食を並べ、それぞれ席に着く。
メニューをこれにしたのには、特に理由はない。強いて言うならルクスの見た目が子供だから…何となく。
久しぶりに調理出来た事は嬉しかったけど、超監視下にあった事を考えると複雑だ。こんな状況でなければもっと落ち着いてゆっくりしっかり時間をかけて作ったのだけど。
そんな事を思いながら、無言でパスタを頬張る二人を眺める。
手はずっと動いているものの、何にも感想が無い。
「あの…どうでしょうか…?」
「何がだ?」
「その、味とか量とか…?」
「ふむ。分からんな」
「へ?」
「そもそも我は食事と言うものをしない。人間が口にするような飯が美味いのか不味いのかも知らぬ」
まぁ、それはそうか。
私も確かに魔族の『美味い』の基準が分からない。
基本的に魔素が補充出来ればそれでいいんだものね。
「良いか悪いかで言えば良い。魔素が補給されているのが分かる。思ったよりも回復は早いかもしれんな」
それはそれでまずいのでは?
やっぱりクッキーも出したのまずかったかな…
でも私が大切にしているお茶の時間を妥協するなんて事、したくないし…
「危険を犯してお前を手に入れたかいがあった」
「……っ……」
「ようやく、我の望むものを手中に出来そうだ」
此方を見つめ口元を歪める。
先程と同じような悪い顔をしているのに、口の回りを彩るトマトソースのせいで恐怖心が薄れてしまった。
不覚にもちょっと可愛いなんて思ってしまう。
マフィアスがルクスの口元を整えるという世話を焼いている。私にとって日常のような光景を眺めながら意を決して口を開く。
「私…やっぱりルクスの女にはなりません」
このセリフ、自分で言っててもの凄く恥ずかしいですが……。
「ほぅ? 巫女が人間の滅亡を選択するか」
嫌な言い方しますね!
そもそもその二択が極端すぎるのに。
「それも嫌です。なので、戦うの止めませんか?」
「何だと?」
ルクスの目元がピクリと動いた。
表情から笑みが消え、オーラに冷気がこもっていく。
肌を刺すような魔力を浴びながら、それでも真っ直ぐに紅い瞳を見つめ返した。
「皆んなに魔王討伐を止めさせる事が出来たら、この理不尽な理を繰り返さずにすむんじゃありませんか?」
「……」
「戦うのを止めて、どちらも倒されず居続けるんです! そもそも勇者も魔王もどちらもいなくなってしまうからいけないんですよね? だったらそれを止めればいいんです! 戦わなければ誰も傷つかずにすみます!!」
「そんなものは戯言だ」
「…え?」
冷たく細められた双眸が鋭利な刃物のように向けられる。明らかに敵意を含ませたプレッシャーに、ぶるりと体が震え指先が冷える思いがした。
「お前は何も分かっていない。我が君臨し続ければ魔族は力を増すばかりだ」
「でも魔王が倒されるからまた同じ事が起こるのでしょう? ルクスが倒されなければ、シャルくんが力を失わなければ、結果的にバランスは保たれるんじゃ…――」
「忘れたか? 傀儡といえ勇者はいずれ朽ちる。そうなれば同じ事だ」
「それは……」
「それに魔族対人間の構図はそう簡単に崩れぬ。お前達人間が当たり前に眠り食事をするように、魔族は人を狩り人もまた魔族を滅する。種が違い性質が違い生きる世界が違う。相容れる事は決して無い」
「……」
「お前は身内を殺した奴と同じテーブルにつけるのか?」
「……っ……」
「出来ぬであろう。そういう事だ」
たくさん人が襲われた。街や村が破壊された。
シャルくんの故郷もそうだ。マーレの住んでいた街も。
レンくんもアルクさんも大怪我を負った。生死に関わる大怪我だ。
プラーミアさんもご両親を失ってる。
同じような境遇に陥った人はきっと大勢いるだろう。
膝においた手をぎゅっと握る。
頭に過ったのは、地面に倒れた仲間の姿。悲痛な目を向けるアルクさんの顔だった。
「確かに……私は仲間が傷つけられた事、やっぱり許せてません」
「だったら」
「でも時間があれば! …もっと長い時間をかければ……お互いの言いたい事を言い合って、納得がいくまで話し合えたら…――」
「それが無理だと言っている」
「やってみないと分かりません!!」
いつの間にか席を立ちルクスの方へ身を乗り出していた。
「奪うのでは無く歩み寄るんです! 一緒に探すんです! 直ぐには無理でも千年かかっても一歩ずつ。分かり合うのは無理でも、共感なら出来るかもしれない」
「……」
「私が懸け橋になります! やってみませんか?」
何を思っているのか分からない瞳を真っ直ぐに見つめた。
ルクスもまた私の眼差しを正面から受け止めている。
互いに視線を交えたまま、時間だけが過ぎていく。
先に口を開いたのはルクスだった。
「…もう遅い」
「え?」
「勇者どもは既に準備を整えている。人間どもが集結しつつある。今更手遅れだ」
「そんな……! 私が説得します! 彼らに会わせてください!!」
「もはや止まらん事はお前が一番良く知っているだろう? 勇者が朽ちる以上遅かれ早かれ世界はバランスを失う。そもそもが無理な話なのだ。諦めて我の女になるが良い」
夕食を並べ、それぞれ席に着く。
メニューをこれにしたのには、特に理由はない。強いて言うならルクスの見た目が子供だから…何となく。
久しぶりに調理出来た事は嬉しかったけど、超監視下にあった事を考えると複雑だ。こんな状況でなければもっと落ち着いてゆっくりしっかり時間をかけて作ったのだけど。
そんな事を思いながら、無言でパスタを頬張る二人を眺める。
手はずっと動いているものの、何にも感想が無い。
「あの…どうでしょうか…?」
「何がだ?」
「その、味とか量とか…?」
「ふむ。分からんな」
「へ?」
「そもそも我は食事と言うものをしない。人間が口にするような飯が美味いのか不味いのかも知らぬ」
まぁ、それはそうか。
私も確かに魔族の『美味い』の基準が分からない。
基本的に魔素が補充出来ればそれでいいんだものね。
「良いか悪いかで言えば良い。魔素が補給されているのが分かる。思ったよりも回復は早いかもしれんな」
それはそれでまずいのでは?
やっぱりクッキーも出したのまずかったかな…
でも私が大切にしているお茶の時間を妥協するなんて事、したくないし…
「危険を犯してお前を手に入れたかいがあった」
「……っ……」
「ようやく、我の望むものを手中に出来そうだ」
此方を見つめ口元を歪める。
先程と同じような悪い顔をしているのに、口の回りを彩るトマトソースのせいで恐怖心が薄れてしまった。
不覚にもちょっと可愛いなんて思ってしまう。
マフィアスがルクスの口元を整えるという世話を焼いている。私にとって日常のような光景を眺めながら意を決して口を開く。
「私…やっぱりルクスの女にはなりません」
このセリフ、自分で言っててもの凄く恥ずかしいですが……。
「ほぅ? 巫女が人間の滅亡を選択するか」
嫌な言い方しますね!
そもそもその二択が極端すぎるのに。
「それも嫌です。なので、戦うの止めませんか?」
「何だと?」
ルクスの目元がピクリと動いた。
表情から笑みが消え、オーラに冷気がこもっていく。
肌を刺すような魔力を浴びながら、それでも真っ直ぐに紅い瞳を見つめ返した。
「皆んなに魔王討伐を止めさせる事が出来たら、この理不尽な理を繰り返さずにすむんじゃありませんか?」
「……」
「戦うのを止めて、どちらも倒されず居続けるんです! そもそも勇者も魔王もどちらもいなくなってしまうからいけないんですよね? だったらそれを止めればいいんです! 戦わなければ誰も傷つかずにすみます!!」
「そんなものは戯言だ」
「…え?」
冷たく細められた双眸が鋭利な刃物のように向けられる。明らかに敵意を含ませたプレッシャーに、ぶるりと体が震え指先が冷える思いがした。
「お前は何も分かっていない。我が君臨し続ければ魔族は力を増すばかりだ」
「でも魔王が倒されるからまた同じ事が起こるのでしょう? ルクスが倒されなければ、シャルくんが力を失わなければ、結果的にバランスは保たれるんじゃ…――」
「忘れたか? 傀儡といえ勇者はいずれ朽ちる。そうなれば同じ事だ」
「それは……」
「それに魔族対人間の構図はそう簡単に崩れぬ。お前達人間が当たり前に眠り食事をするように、魔族は人を狩り人もまた魔族を滅する。種が違い性質が違い生きる世界が違う。相容れる事は決して無い」
「……」
「お前は身内を殺した奴と同じテーブルにつけるのか?」
「……っ……」
「出来ぬであろう。そういう事だ」
たくさん人が襲われた。街や村が破壊された。
シャルくんの故郷もそうだ。マーレの住んでいた街も。
レンくんもアルクさんも大怪我を負った。生死に関わる大怪我だ。
プラーミアさんもご両親を失ってる。
同じような境遇に陥った人はきっと大勢いるだろう。
膝においた手をぎゅっと握る。
頭に過ったのは、地面に倒れた仲間の姿。悲痛な目を向けるアルクさんの顔だった。
「確かに……私は仲間が傷つけられた事、やっぱり許せてません」
「だったら」
「でも時間があれば! …もっと長い時間をかければ……お互いの言いたい事を言い合って、納得がいくまで話し合えたら…――」
「それが無理だと言っている」
「やってみないと分かりません!!」
いつの間にか席を立ちルクスの方へ身を乗り出していた。
「奪うのでは無く歩み寄るんです! 一緒に探すんです! 直ぐには無理でも千年かかっても一歩ずつ。分かり合うのは無理でも、共感なら出来るかもしれない」
「……」
「私が懸け橋になります! やってみませんか?」
何を思っているのか分からない瞳を真っ直ぐに見つめた。
ルクスもまた私の眼差しを正面から受け止めている。
互いに視線を交えたまま、時間だけが過ぎていく。
先に口を開いたのはルクスだった。
「…もう遅い」
「え?」
「勇者どもは既に準備を整えている。人間どもが集結しつつある。今更手遅れだ」
「そんな……! 私が説得します! 彼らに会わせてください!!」
「もはや止まらん事はお前が一番良く知っているだろう? 勇者が朽ちる以上遅かれ早かれ世界はバランスを失う。そもそもが無理な話なのだ。諦めて我の女になるが良い」
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