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最終章

24話——ない頭を振り絞って考えます。

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 夕食を終えると、最初に目覚めた部屋へと戻って来た。もちろんマフィアスの監視付きだ。
 荷物の如く担がれていないだけマシだった。
『今日はもう用済みだ。限られた時間を有効に使うがいい』
 そう言われてあの部屋を追い出されたと言った方が正しいかもしれない。

 自分の女になれとか言っておいて、用済みって有り得なくない?
 なる気はさらさら無いけれども!!
 言い方ってありません!?
「まぁ相手魔族だし」って言われたらそれまでだけれども!!

 言いたい事は沢山あったが、取り敢えず心にしまっておく。
 命は大事にしなければ。

 自由に使える部屋とはいえ、敵地である。
 行動が制限されている以上、特にする事も出来る事も無いのでベッドへと向かう。
 休もうかと思ったが、扉の前を陣取って監視カメラの如く微動だにしない彼がどうにも気になって仕方がない。

「あのー、逃げも隠れもしませんから、戻ってもらっても良いですよ?」

 私にマフィアスやルクスから逃げられるような特殊なスキルは無い。
 魔法が使える訳ではないし、戦闘能力が高い訳でもない。
 命が惜しいので歯向かうつもりもさらさら無い。
 彼にはそれが分かっている筈なのに、眉間に皺を寄せて睨みつけてくる。

「見張られてると思うと熟睡出来ません」

 今度は溜め息をつかれてしまった。

「この状況で熟睡するつもりか?」

 図太いにも程があるだろう? と、彼の顔に書いてある。はっきりと。

「私はちゃんと寝ないとダメな人種なんです!」

「知るかよ」

 ム!!

「そんなに心配なら牢獄にでも入れとけばいいでしょう!?」

 言ってしまってからやっちまったと思った。
 無言で此方へ近づいて来たのだ。まさかの牢獄、あったらしい。

「うそ!! うそうそ!! ベッドがいい!! ベッドで寝たいです!!!」

 両手を突き出して全力で近付かないで欲しい旨をアピールした。
 側で立ち止まったマフィアスがひと睨みしてチッと舌打ちしてくる。
 クルリと方向を変えると、入り口の前で此方を振り返った。

「外に居る。下手な事をしても直ぐに分かるからな」

 それだけ言い残し、部屋から出て行ったのだ。
 その背中を見送り、扉が閉まって彼の姿が見えなくなると、張り詰めていたものが溜め息と共に零れ出た。
 どっと疲れが押し寄せてくる。
 自分の体とは思えない程重たく感じる。
 両足を投げ出して座り、両手で体を支えると、何気無く天井を見上げる。

 皆んな心配してるだろうな…
 メアリとメリッサはちゃんと眠れているだろうか?
 エリィ…無理してないかなぁ。頑張り屋さんだからなぁ。

 無意識に手が首元へ伸びていく。肌身離さず身に付けている、アルクさんに貰った小さな宝石の付いたネックレス。そのトップを指でコロコロすると不思議と気持ちが落ち着くのだ。
 なので、ある筈のそれが無い事に初めて気が付き、頭から血の気が引いていく。

「ネックレスが無い…」

 うそ!? 何処に落としたんだろう?
 このドレスを着せられた時は間違いなくあったのに!

 ベッドの上を中を隈なく探す。
 ベッドの下も、周りも、なんなら部屋中探したが見つからなかった。
  目頭が熱く視界が滲む。

 アルクさん……会いたいよ……

 零れ落ちそうになった所で目元を拭った。
 弱気になっちゃダメだ! 大丈夫。絶対また会える。それを叶える為に、今私に出来ることをするのよ。



 明日、別の部屋も探す事にして、ベッドへ潜り込んだ。
 休める時にちゃんと休んでおかないと。チャンスが来た時に体調を崩してしまったら元も子もない。
 柔らかな寝具へ背中を預け、薄暗い天井を見つめた。

 さっきの話は多分だけど、良い線いってると思うんだよなぁ。
 ルクスの目的は、この永遠とも言える輪廻を終わらせる事だ。
 あと、多分だけど女神さまへ嫌がらせ。
  巫女である私を自分の女にだなんて、嫌がらせ以外の何物でも無いよね。
 もしもこのままルクスが力を増してしまったら、本当にシャルくんが殺されてしまうかもしれない。
 四人の精霊が進化しているから、そうそうルクスの思い通りにはならない筈。とはいえ、無事で済むとも思えない。
 それじゃ意味が無い!
 このままだと戦いが起こってしまう…。犠牲者を出すしかない戦いが……。

 せめて知らせる方法は無いだろうか。
 皆んながここへ辿り着く前に、ルクスの本当の目的を知らせる事が出来れば、戦いを回避出来るかもしれない。

 でもどうやって?
 ワサビちゃんともソラとも繋がっている気配がない。きっとこの建物自体が結界か何かに覆われているのだと思う。
 ここから抜け出す事も出来はしない。最強のセキュリティが見張っているし、瘴気の満ちた魔の森を抜けられる自信なんて皆無だ。

 もう一度皆んなに会わせて欲しいとお願いしてみようか。
 ……無理だろうな。

 それにもし戦いが止まったとして、その後は?
 シャルくんの力を継承する方法が無ければ、ルクスと対等の力をずっと維持し続けなければ、結局世界はバランスを失ってしまう。そうなればまた振り出しだ。

 それに、シャルくんにこれ以上負担を増やしたくない。
 ただでさえ沢山沢山傷付いてきたのに……

 「……ショックだっただろうな……」

  小さい頃から過酷な暮らしを強いられて、心を閉ざして孤独を抱えて生きてきた。神父さまと出会えて家族が出来て、皆んなと出会って仲間が出来た。『勇者』と言う重責を担って、厳しい訓練に耐えてきた筈だ。
 ようやくここまで来て、皆んな一緒にこの戦いを乗り越えて終わらせる事が出来れば、今度こそ幸せに過ごしていけると思っていたのに……。

「やっぱりダメ! このままなんて絶対ダメだ!!」

 明日もう一度ルクスに話してみよう。ルクスが知らないだけで、ソラやハワード様と話せたら、何か方法があるかもしれない。
 皆んなで考えれば、何か良い方法が見つかるかもしれない。
 ワサビちゃんは物知りだし、シャルくんの精霊達だってきっと色々知ってる筈だ。
 ソラだって四聖獣の一人なんだし、女神の代弁者って言われてるくらいなんだから。伊達に歳食って無いしね!

「……歳……食って……」
 
 …………聖獣…………四聖獣………… 
 
 !!! 
 

 掛布を蹴っ飛ばす勢いで跳ね除け飛び起きた。
 扉を開けようとガチャガチャやってみたけど、外から鍵が掛かっているのかノブが回らない。

「うるさい」

 そのうち外から気怠げな声が聞こえる。

「マフィアス開けて! ルクスに話があるの!! 良い方法が見つかったかもしれないの!!」

 「魔王さまはお休みだ。またにしろ」

  開けてすら貰えず、それ以上反応が返ってくる事は無かった。
 仕方ないのでベッドへ戻る。
 もそもそと潜り込み横になった。
 ドキドキと大きな音を立てる心臓のせいで眠れる気は全くしなかったが、私は無理矢理瞼を閉じた。
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