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最終章

25話——タイムリミットが迫っていました。

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「勇者の代わりを聖獣にさせる…だと…?」

 案の定、起きてすぐの食事の準備もさせられ、フレンチトーストとベーコンエッグ、サラダとカットフルーツのプレートを出した。
 朝食の概念が無いルクスから、昨晩の食事と比べて量が少ないとの指摘が入る。朝から爆食する気なのかとビックリしたけど、人間の常識が当てはまらない彼らにとっては、こちらの当たり前の方が変なのかもしれない。
 仕方がないので朝から絶対一人分では無い量のフレンチトーストを焼きましたとも!
 昨夜の閃きを早く伝えたくてヤキモキしながら作ったけど、完璧な朝食プレートに仕上がりました。

「そうです! シャルくんの寿命は人並みでも、ソラなら! 聖獣なら長生きでしょう?」

 良い考えだと意気込んで話したのに、ルクスの反応は薄っすいもんだ。

「上手くいくとは思えんな」

 何なら一蹴されてしまった。

「そもそも聖獣が人間に手を貸すことは無いし、そやつと我の力が対等とも思えん」

「やってみないと分からないじゃないですか!!」

 やっても無いのにはなから否定されて、反射的に言い返していた。
 確かにソラは人間にも魔族にも干渉しない。彼が力を行使するのは、契約者である私に危害が及んだ時だけだ。
 それでも今この瞬間、私の身は危険に晒されているのだ。私がルクスの手中にある今、交渉の余地は充分にある筈だ。
 何を思っているのか分からない双眸が向けられる。威圧を含むそれを、正面から見つめ返した。もう体は震えない。

「はっきり言うけど、私、女神さまに腹立ててます!」

「…はぁ?」

 いきなり何を言い出すのか? とでも言いたげな顔をされた。思いっきり眉間に皺が寄っている。
 そりゃそうよね。女神さまに召喚された巫女がその主に腹立てるなんて…罰当たりな気がするもんね。

「だって、シャルくんの事…傷つけた。仕方なくてどうしようもなかったんだとしても、やっぱり納得いかないし許せません!!」

「お前、女神の使者だろう?」

 呆れたような物言いに喰らいつくように反論する。

「それだって後から知ったんですよ?! 酷くないですか? 使者として送り込むなら、せめてこの世界のルールとか常識とか先に言っとくべきだと思いませんか!? 何の説明も無しに異世界に放り込まれてどれだけ大変だったか!!」

 本当に色々ありましたとも!!
 一言では全然語り尽くせない程に!!!
 まぁ、悪い事ばっかりではありませんでしたが。
 大好きな料理がちゃんと出来ているし、この世界の壊滅的な食文化を底上げするというやり甲斐も見つけられましたし。
『おやつ』が定着した時には、密かに震えました。
 それに気の良い仲間も沢山出来ましたしね。
 アルクさんと出会わせてくれた事には感謝しても良いと思ってますけども。

 鼻息荒く力説すると、呆れたような顔をしていたルクスがとうとう吹き出してしまった。

「??」

 そんなツボるとこあったかな?
 困惑していると、ひとしきり笑ったルクスの紅い眼差しが此方へ向けられる。刺々しい威圧は鳴りを潜めている。

「本当に変な女だなお前は。だが、奇遇だな。あの女は我も大嫌いだ」

 ストレートな物言いに、フフッと思わず声が漏れてしまった。

「何だ?」

 怪訝そうな表情を浮かべ、肘掛けへもたれる彼へ姿勢を正して向き合った。

「だって、種族も性質も生きる世界も全然違うのに、共通点が一つありました。それだって大きな一歩だと思います」

「……」

「戦うの止めましょう。私達で終わらせてやるんです! それだって立派な嫌がらせですよ?」

 黙って此方を見つめる彼の眼差しを受け止める。一体何を思っているのか、私には読み解く事が出来ない。それでも恐怖を煽ってくるような禍々しい威圧を感じる事は無かった。

 しばし膠着状態が続き、ルクスの口が僅かに動いた。沈黙が破られるかと思われた時、私の背後にある観音開きの大扉が開いた。
 振り返ると、入って来たのはマフィアスだ。珍しく監視カメラが居ないと思ったら、偵察に行っていたようだ。

「魔王様。勇者どもに動きが」

「え!?」

 「城上空に魔法陣が展開中。間も無く来ます」

 間も無く来るって、シャルくん達が?
 え、もうそんな差し迫った状況になってたの!?

「魔獣どもを放て。余計な者どもを足止めせよ」

「ルクス!」

「お前の言う討伐隊とやらが城を囲む結界を破ろうとしている。街に魔族を仕向ければ、自ずと此処へ来る者達は限られるだろう」

「それじゃぁ…」

「説得とやらを出来るものならやってみるがいい。ただし、交渉が決裂した時はお前も含めて皆殺しだ」

 ゴクリと生唾を飲み込んだ。
 皆んなを説得する。戦いを止めて、犠牲者しか生まないこの歯車を止める!

 コレで全てが決まるんだ……。


「奴らは我を倒し、囚われのお前を取り戻そうと躍起になっている。もしも奴らが止まらなかった場合は…——」

 突如、外が明るく光ったかと思うと、バリバリと耳をつん裂く轟音と共に建物全体が大きく揺れた。

「きゃあ!!」

 立っていられない程の大きな揺れに、バランスを崩して転んでしまう。
 倒れながらもルクスの提案を信じられない思いで聞いた。
 パラパラと細かい瓦礫が降り注ぐ中、不敵に笑いその場を一切動かないルクスを見上げる。

「待って! そんな事したら…——」

 必死に叫ぶがその声は轟音に掻き消されていく。
 再び激しい音と揺れが建物全体を揺らした。
 バキバキミシミシという恐ろしい音が嫌でも耳に入ってくる。

「問題ない。我とえみをこうして合わせたのも、どうせあの女の思惑だろう。だったら乗ってやれば良い」

 え…待って…
 女神さまがこの状況を仕組んだ!?
 私とルクスをこうして会わせるように仕向けたって事?

「…それって、まさか……」


 ――……!! ……えよ!! ……えみ!!! 
 
「!!??」

 え? この声…ソラ…? 

「っ!! ソラ!! 」

 突然頭に直接響くように聞こえたソラの声に応えた。

 キョロキョロと周りを見回していると、背後が激しく発光した。
 立ち上がる暇も無く振り向くと、何も無い場所に巨大な魔法陣が現れた。
 懐かしい気配に呆然とそれを眺める。

 真っ白な強い光の中に数人の人影が浮かび上がっていく。
 見覚えのあるシルエットがはっきりと輪郭を成していく。

「……っ……」

 光が収まり完全に収束したその場所には、シャルくんをはじめ、討伐隊のメンバーが揃っていたのだった。
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