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ダンジョン編

第3話 シオンの好み

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服に袖を通す。
学ランに近い、かっちりとした服だ。

せき込んでいるファリスちゃんを伴い部屋を出ると、

ファブラに、ヴォルグ、そしてメイド服に着替えたシオンが待っていた。

黒を基調とした服、白のフリルがついたオードソックスなメイド服だ。

「お待たせして申し訳ございません、旦那様」

シオンが頭を下げる。

銀髪に添えられたカチューシャが揺れる。

うんうんうん、いいぞぉ。
メイド服を着て、旦那様と言われるとご主人様というのがより実感できる気がする。

「どうでしょう、見違えるようでしょ? 当店のメイド服は帝王のおわすお城にも納品させていただいているのですよ」とヴォルグが横につき、生地はどうたらの、刺繡は職人が、と色々と説明してきた。

そんな野郎の声など、左から右へと聞き流しつつ、シオンを見る。

シオンの来ているメイド服は、所謂アキバで見るようなメイド服ではなくロングスカートで、まぁこれが本物なのだろうが、王道の奴だ。

それはそれでシオンに似合うというか、まぁシオンなら何を着ても似合うんだけどね。
なにせ、襤褸切れ一枚の奴隷服ですら、可愛いかったし。

うーん、でもな。こう王道もいいんだけど、やっぱり足みたいよね。
こうミニスカートwithガーターベルトな感じの。

本物のメイド服マニアには怒られるかもしれないが、コスプレの一環として見てきたこちらとしては、やはりセクシー路線を攻めたいところだ。

「あ、あの、・・・・・・これ、」
「お買い上げいただけるのですね?ありがとうございます」とヴォルグがかぶせてくる。

いや、まぁ買うのは買うんだけどね。
こう改造をしたいというか、オード―メイドをお願いしたいというか。

「・・・・・・っああ、そ、その」

「いや、ファリスは新人なものですから、当店の製品の良さを説明できるか心配なところはありましたが、ご理解いただけたようでよかったです。シュッサク様もノーム調がよくお似合いですよ。ねぇファブラ様」
「ふむ、まぁ最低限ですがね。これなら黄金卿の機嫌を損なうことはないでしょう」
「ふっふふ、手厳しいですね、ファブラ様は。当店もより一層努力してまいります」

と、僕を無視して奴らはなんだか勝手に話を進めていく。

糞どもが、金を出すのは僕だぞ。
僕が嫌だ!とここで叫べば、それまでだ。

二人で談笑するファブラとヴォルグの背に、


僕は、


「あの、シュッサク様?」

耳にかかる優しい吐息、二の腕を当たる柔らかな感触

「どうかなさいましたか?」

いつの間にか横に来て腕を絡ませるようにして胸を押し付けるファリスがいた。


そのニッコリとした笑顔の前に、僕の怒りは霧散していくのを感じた。


ふぅ~いけない、いけない。別にあの程度の奴ら相手に喧嘩することはないのだ。
それよりも目的を果たそう。

手でちょいちょいとして、シオンを呼ぶ。

シオンは、ロングスカートのせいで見えないが、ヒールでも履いているのか、タンタンと音を立てながら、こちらにやってきた。

「まぁお綺麗な方ですね。さすがシュッサク様の奥・・・・・・えっと、お供の方ですね!」

ファリスちゃんは、奥様と言おうとしたのだろうか、シオンの奴隷を示す隷属の首輪を見て慌てて訂正したようだ。

シオンの紅玉の瞳には、変化はない。特に気にした様子はないようだ。

そんなシオンのスカートをつまむ。
手触りがよく、上質な布が使われているようだ。

「スカートが何か?」
「短く」

僕がそう告げると、ファリスちゃんはキョトンとした顔になる。

「え、えっと短くですか・・・・・・こちらは身長に合わせて採寸させていただいておりますので、これぐらいが適正なのですが、あっいえ出来ないということはないですよ?どれくらいお詰致しましょうか?」

この世界にはミニスカートというのはないんだろうか、僕はおおよそシオンの膝上20cmぐらい?とにかくスカートの裾から太ももがみえるぐらいのを手でトントンして示す。

「はいっ??? そ、そんなに短くですか?!メ、メイド服ですよ!」

ファリスちゃんが、あわあわとしだす。
やはり、この世界には少なくともミニスカートのメイド服というのはないようだ。

慌てるファリスちゃんに見かねたのか、
「何かありましたか、ファリス?」とファブラと話していたヴォルグが間に入ってきた。

「いえ、あのヴォルグ様。えっとシュッサク様がオーダーメイドデザインのメイド服を作りたいと」とファリスちゃんが言うと、ほぅ~とヴォルグがこちらを目踏みするようにねめつけてきた。

うっ、なんだか怖い。結構いけないことなのだろうか。と思っていると、ヴォルグはすぐに破顔する。

商人のような張り付けた笑顔ってやつだ。

「そこまで当店の品質にお気に入りいただけたのですね。ではどのようなデザインが御所望か詳しく――――」
「―――あの、ヴォルグ様」

「・・・・・・なんですか、ファリス。今はシュッサク様と話をしているのですが」
「わ、私は・・・・・・シュッサク様の専属にして頂けましたので、お話は私が聞きたいと思っております!」
「せ、専属に?」

ヴォルグが驚いた顔をして、ファリスちゃんを見て僕を見る。
それを二度繰りかえして、思案するように顎髭を触る。

「ですよね」とファリスちゃんが不安げにこちらを見上げている。
それに僕は、肯定するように大きくうなづいた。


「そ、それはそれは。・・・・・・そうですか、そういうことでしたら、ファリスに一任させていただきます。私どもは邪魔でしょうから、ファブラ様と会計のお話でもさせていただきます。ではこちらにて」

と慇懃にあたまを下げて、ヴォルグはファブラを伴って去っていた。

おう、去ね去ね、そのまま消えてしまえ。


「あ、ありがとうございます。シュッサク様、専属として恥ずかしくないように頑張ります!」

そう頭を下げるファリスちゃん。うんうん、おっぱいも大きいし、本当にいい子だ。

それから、ファリスちゃんに現代風というか所謂萌え萌えのミニスカメイド服のデザインを伝える。

「な、なんとか形にしてみます」

相当先鋭的だったのか、終始ええっ!みたいな反応だったが、形になることを祈る。

再び、馬車に乗り、シオンがファブラに武器屋に行きたい旨を伝える。

目のやり場に困るみすぼらしいボロから、スカートワンピのような服に着替えたシオンは令嬢もかくやと美しい。

ここで気のきいた一言でも言えればいいんだ、なんだキレイだとか可愛いとしか出てこない。

それが言えればいいんだが、なんだか気恥ずかしい。

そんなことで悶えているうちにどうやら武器屋に着いたようだ。

帝都の中心部だけあって、大通りに店が揃っているようだ。

場所を降りると、服飾店のところに比べて雑多な感じだ。

「旦那様、馬車が通れないので少々歩きます」

こちらですと、シオンに手を引かれる。

シオンのヒヤッとした体温とすべすべな肌は最高だ。

それにこの手を引かれてある感じはデートをしているみたいで気分がいい。

シオンに手を引かれるままに異世界の通りを歩く。

道は石畳みだが、中心部と違い草がところどころ生えており、道の端に布を引いた路面店が目立ち、お祭りみたいだ。

武器や装飾、薬草に、食べ物など、本当に雑多で多種多様だ。

そんな中を進んでいくと、剣がクロスした看板がある店が見えてきた。

路面店で買うのかと思っていたが、どうやらお店で買うようだ。

シオンは迷わずお店に入る。

「らっしゃーい」店主は一瞬だけこちらを見ると作業に戻っていった。

剣を磨いているようだ。

冷やかしに思われたのかな。


ただシオンは気にした風もなく「少々お店を見てまいります」と頭を下げて行ってしまった。

心なしか、シオンが珍しく浮足立っているように思える。

言うならば、いつも澄ましている猫が猫じゃらしに無邪気に反応するような感じで僕はそんなシオンを微笑ましく見ていると、

「このような店ではなく帝国お墨付きの店舗をご紹介しましたもののを」とファブラが抗議の声を上げてくる。

「へっ、このようなお店で悪かったな」と店主が悪態をつく。

このバカ眼鏡が店主の機嫌を悪くしてどうする。

シオンがこの店がいいと言ってきたのだ、だからこの店でいいんだ。

僕は答えずにシオン同様に店舗を見て回ることにした。

棚に掲げられた剣や盾、防具に少しばかり心躍らせれたというのもある。

ファンタジー感あふれる店内に満足しつつ、僕はあれを探す。

やっぱりビキニアーマーみたいなそれどこ守ってるの?みたいなエロい装備はないようだ。

まぁそりゃそうか。と言った感じで探していると目標のものが見つかった。

あった!

所謂ワゴンセールのように使い古された、もはや剣というより鉄の棒切れといった感じのものが何本も籠に入っている。

そう異世界の定番の一つ。お金のない主人公がなけなしのお金を握りしめて買いに来て、「そんなはした金はそこらへんの鋳つぶすしかないようなのしか買えないぜ」と言われて、

使い古された剣たちを手に取ると、声が聞こえるのだ。

「よう、お前。俺は買いな。なーに後悔はさせねーぜ」ってばかりに。

そんな妄想をしながら剣をあさるが、声は一向に聞こえてこない。

どうやら武器チートの運はないようだ。

ちぇつまらない。

一通り、店を見るとさすがに飽きてきた。

シオンは、と見ると。

武器を一つ一つ真剣に見つめている。

どうやらかなり吟味するようだ。

まぁ女の買い物は長いっていうしな。

僕はなんとなくそんなことを思った、この時までは。


昼を通り越し、腹の音がぐぅーと泣く。

シオンは相変わらず武器を一つ一つ手に取り、吟味している。

最初は冷やかしだと思っていた店主もシオンにあれやこれや話しかけて、これはどこぞの工房で、素材などの大量のカタカナを並べてシオンにアピールしている。

もうなんだ、店ごと買い取るから帰ろうと言いたいぐらいだ。

そんな僕の願いが通じたのか、シオンは買うものを決めてくれたようだ。

「旦那様、この店のものを隅から隅まで見ました結果、こちらがいいと思いました」

何の変哲もないショートソードのようなものを指さしている。

もう立ちっぱなしで足が棒のようだ。シオンが満足するならそれで構わない。

僕は肯定のうなづきをすると、店主が「お嬢さん、それにするのかい。普通なら喜んで売るんだけどね」とほかの進めてきた。

店主曰く、シオンが選んだのは、ミスリルと何かしらの金属を掛け合わせたといえば聞こえがいいが、ようはミスリル100%だと素材代が高くつくから混ざて誤魔化したものらしい。

その癖、波紋だの意匠のレリーフだのにこだわっているのでミスリル100%のショートソードより値段が高いと来ている。
店主もここだけの話、これを作ったドワーフの工房は先代との恩があってしょうがなく置いてあげているだけだということだった。

だが、それだけの話を聞いてなお、シオンは「これがいいです」と頑なだった。

まぁこちらは1億リーゼルもっているのだ。

もはや純ミスリル3千リーゼルでこの混ぜ物ショートソードが5千リーゼルだとしても誤差みたいなものだ。

店主が本当にいいの?ていう視線をこちらに向けてきたので、うなづき返すと嘆息しながら、「俺は言ったからな」とショートソードを手に取る。

「あと予備も欲しいのですが」
「ここにある4つだけだよ、在庫は」
「では、4つ全部ください」

「「えっ!!」」と思わず店主とハモってしまった。

「予備はあったほうがいいと思うのですが、いけませんでしょうか?」とシオンが小首を傾げる。

うん、可愛い。

まぁいいか、1本でも四本でもと思ってしまう。

「い、いいよ」と言ってあげると、シオンの顔に花が咲く。

「ありがとうございます。旦那様」とそれだけでいいことした気になってしまう。

会計をファブラに任せて、ショートソード4本を受け取り、鞘など納めるものを買いつつ、馬車に戻るのだった。
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