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観劇への誘い
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エレインは、珍しくルーカスにおねだりをしようと考えている。
アルフレッドと一緒に観劇に行き、少しでも良いから胸の内を伝えなければと、焦っていた。
化石の話しや、国の行く末について語るのは勿論楽しいが、アルフレッドと共にいるだけで幸せな気分になるのである。
今のままでも充分満足していたのだが、証拠は無いがバーバラがルーカスに薬を盛ろうとしたのを見て、アルフレッドにも同じ事をされるのではないかと不安になってしまったのだ。
万が一アルフレッドの子をバーバラが孕んでしまったら、婚姻を結ばなくてはいけなくなるだろう。
ルーカスと違って王族なのだから、知らぬ存ぜぬでは通せない。
今は婚約者もいない相手なので気安く話しかけられるが、伴侶が出来たらそう簡単には近寄る事も出来なくなってしまう。
エレインは、そんな悲しい未来を想像して、誰にも取られたくないと思ったのだ。
しかしこの思いをどう表現したら良いのか分からず、自分からは何かを欲しがった事もないので、なかなか言い出せずにタイミングを逃していたのである。
最近妹の様子が可笑しい事はルーカスも気付いていたのだが、単なる恋煩いだと勘違いしており、静かに見守る事にしていた。
それは間違いではないのだが、正解でもなかった。
二人で夕餉を楽しんだ後、エレインはデザートを食べながら頬を赤く染めている。
ルーカスは、アルフレッドを思っているのだと微笑ましく思い見つめていたのだが、頼りにされないのは少し悲しくもあったので声を掛けてみたのだ。
「エリー。何か相談事はないのか。僕に出来る事ならば何でもするから、遠慮しないで言ってみなさい」
また心を見透かされてしまったエレインは、勇気を振り絞っておねだりをした。
「お兄様、お願いがあります。私、殿下を観劇にお誘いしたいのです。一度も観た事はありませんが、巷で流行りの舞台を、殿下と二人で観たいと思うのです」
ルーカスは、驚きで目を見開いていた。
『一度も観た事がない…観劇に、行った事がないのか?』
よく考えてみれば、エレインは別邸に閉じ込められた後、孤児院で育っている。
男爵家に引き取られてからも、決して愛情をかけられていた訳では無い事を、ルーカスは密かに感じ取っていた。
それでも、貴族令嬢としての嗜み位は、経験させて貰っていると思っていたのである。
エレインが何も言わない事もあって、観劇には興味がないのだと、勝手に勘違いをしていたのだ。
一般的な令嬢が経験するであろう観劇を知らないのであれば、他にも未経験の物があるのかもしれないと、ルーカスは思案した。
黙ってしまった兄が何を考えているのか分からずに、エレインはソワソワしながら返答を待っている。
「他には、何かあるのか」
「他ですか?」
小首を傾げて考えている仕草も可愛いが、知らぬ事を答えるのは難しいだろうと思い、ルーカスは質問を取り消すのだった。
「分かった。観劇のチケットを用意しよう。アルフレッドの休みに合わせて取るから、頑張って誘いに行きなさい」
「はい。ありがとうございます」
何時もは癒される笑顔なのだが、何故かこの時は少し寂しく感じたのだった。
『相手がアルフレッドならば、仕方が無い。デビュタントは僕がパートナーになれたのだから、他は譲ろう』
すっかり有頂天になってしまったエレインは、何を着て行こうかとあれこれ考えていたので、兄の寂しそうな表情を見てはいなかった。
ルーカスは直ぐにチケットを用意してくれたのだが、エレインはいざアルフレッドを前にすると、断られたらどうしようと不安になってしまった。
最近では、王宮図書館の片隅ではなく、アルフレッドお気に入りのサロンでお茶を飲んでいる。
何時もの様に化石の話しで盛り上がってしまい、短い休憩時間はあっと言う間に過ぎてしまうのだ。
公爵邸に戻って来たエレインは、今日もチケットを渡す事が出来なかったと項垂れていた。
「お兄様。私が殿下をお誘い出来なかったら、お兄様がご一緒してくださいますか」
ルーカスにとっては有難い申し入れだったが、そんな事にはならないのを知っている。
最期まで諦めて欲しくはなかったので、優しい嘘を吐いたのだ。
「分かった。何も心配はいらないから、焦らず当日まで諦めずに、アルフレッドを誘う事だけを考えていなさい」
「はい」
エレインは安堵の表情を浮かべて、ルーカスを見て笑うのだった。
アルフレッドには、観劇当日に側近たちとお忍びで出かける事を伝えている。
他の邪魔が入らぬようしっかりと外堀を固め予定を組んでいるので、最悪当日になっても構わなかった。
知らないのは当人たちだけであり、みなで暖かく見守っていたのだ。
エレインが何かを伝えようとしている事を、アルフレッドが気付くのではと期待もしていたのだが、それは残念な結果に終わってしまう。
結局勇気が出せず観劇前日まで誘う事が出来なかったのは、概ね想像通りでもあった。
アルフレッドが好いた相手を楽しませようと、話題を考えるのに必死だったのもあるが、エレインから誘いを受けるとは想像も出来なかったのが一番の原因なのだろう。
実に残念な王太子である。
「お兄様…」
泣き出しそうな顔で夕餉の席に着いたエレインを、ルーカスは優しく慰めていた。
「心配する事は無い。明日は、お忍びで出かける事になっている。側近たちもみな了承済みだ。知らないのはアルフレッドだけだから、安心して支度をしなさい。当日驚かせてやるといい」
泣きそうだった顔は瞬時に笑顔を取り戻し、エレインはルーカスに抱き付いた。
「お兄様、大好きです。嬉しい、明日が楽しみですわ」
ルーカスは妹との楽しい時間は、エレインが輿入れしたら無くなるのかと思うと、嬉しい気持ちと寂しさとで複雑な心境になっていた。
翌日、エレインは張り切って身支度をしている。
「お兄様、おかしくは無いでしょうか。違う色のワンピースの方が良いのかしら」
朝からファッションショウの様に、何度もルーカスの部屋を訪問しているのだ。
「何を着ていても、エリーは素敵だ。アルフレッドも同じ事を言うだろう。今日は、一番好きな服を着て行くといい、それが自分自身の自信にも繋がる」
兄の言葉に納得したエレインは、一番最初に選んだワンピースに着替えたのだった。
『やっぱり、お兄様は素敵ですわ。何でも直ぐに解決してくださるもの』
エレインの中ではすっかり迷いが消えて、チケットを握りしめ馬車に乗り込んだ。
アルフレッドは王族であり、国王夫妻にとってたった一人の子でもある事から、勝手な行動は出来ないのである。
この日はお忍びで出かける事になっており、私服姿の近衛騎士たちが、既に演劇場の前にも中にも配備されていた。
出立時間より余裕を持って、ルーカスはエレインを伴い、王宮へやって来たのである。
「ごきげんよう、竹馬の友よ。エリーを連れて来た、話を聞いてやって欲しい」
アルフレッドは何事かと驚いたのだが、嬉しい訪問客に心が浮足立っている。
『か、可愛いではないか!何時もの制服姿も可愛いが、今日のラフな姿は、絵師を呼んで後世に残しても良いレベルではないのか!と、取り敢えず落ち着こう。愛の告白でない事は、確かなのだからな…いや、万が一は…無いか』
「ごきげんよう、我が友よ。エレイン嬢、どうしたのかな。化石の新しい発見でもあったのかい」
エレインは、アルフレッドの期待に答えられないと思い、絶望した様な表情になってしまった。
この場にいた者たちは、この鈍感過ぎる王太子に眩暈を覚えたのだが、エレインを前にするとポンコツになってしまう事をよく理解している。
「何故ここで化石が出て来る。エリーを泣かせたら、竹馬の友を止めるぞ、アルフレッド」
「あ、いや。今のは冗談だよ、ルーカス。休みの日に、エレイン嬢が訪ねて来るのは、珍しいと思っただけだ。その…今日の装いも素敵だね。こんなに可愛い町娘と、デート出来る幸せ者は誰なのかな」
『なんて事だ、どうして気付かなかった。貴族令嬢がラフな姿をしているのは、お忍びで出かけるからだろう。いったい誰だ、エレイン嬢をデートに誘った不届き者は!う、羨ましいではないか!!!いや…待てよ?男とは限らないな。アンバタサー嬢か?いや…ならばお忍必要は無いだろう』
アルフレッドの葛藤とは裏腹に、エレインは更に顔色を悪くしている。
ルーカスは、呆れた表情でアルフレッドを小突いた。
「ん~どうやら私は、言葉選びが下手くそなようだ。今のは全部忘れて欲しい。いや、装いが素敵なのは本当の事だ、とてもよく似合っている。会えて嬉しいよ、エレイン嬢。話とは、何かな」
やっと笑顔になったエレインは、頬を染めながらも一生懸命言葉を紡いでいる。
「あ…ありがとうございます…殿下も…す…す…き…」
「!?」
「好き」と言われた様に聞こえたアルフレッドの顔が、面白い様に赤くなっていく。
『待ってくれ!万が一が起こってしまった。私は、もっと素敵な場所で、ロマンティックな告白をする予定だったのだ!こんな男しかいない執務室で、一生に一度の告白を、受ける訳にはいかない…』
「す…すて、素敵ですわ、殿下も。今日は…お、お暇ですか!」
やっとの思いで気持ちを伝える事が出来たエレインは、持って来た観劇のチケットを差し出したのだった。
その日付はまさに今日であり、今から出ると、丁度良い時間に到着する事にアルフレッドは気付くのだった。
してやられたと、側近たちを伺うが、皆にやけた表情だが素知らぬ振りをしている。
今になって自分から誘いたかったと思う気持ちも出て来たが、それ以上に誘われた事が嬉しくて、満面の笑みでチケットを受け取ったのだ。
『なんと!デートのお誘いではないか。どうだ、見たか。私は誘われたぞ!泣いてしまう程嬉しいではないか。翼よ、今直ぐに飛び立とう。地平線の彼方まで、愛を探しに行って来るぞ』
「勿論。暇を持て余していたよ。暇ではなくても、エレイン嬢の誘いを、断る理由はないけれどね」
そう言うと、嬉しさのあまりアルフレッドを見上げたエレインと視線が合う。
お互いに距離が近かった事に気付き、照れて顔を背けてしまうのだが、そんな感情も心地よく思うのであった。
そしてルーカスたちに礼を言うと、アルフレッドはエレインをエスコートして劇場へ向かうのだった。
側近たちは、やれやれと言う思いで、見送ったのである。
アルフレッドと一緒に観劇に行き、少しでも良いから胸の内を伝えなければと、焦っていた。
化石の話しや、国の行く末について語るのは勿論楽しいが、アルフレッドと共にいるだけで幸せな気分になるのである。
今のままでも充分満足していたのだが、証拠は無いがバーバラがルーカスに薬を盛ろうとしたのを見て、アルフレッドにも同じ事をされるのではないかと不安になってしまったのだ。
万が一アルフレッドの子をバーバラが孕んでしまったら、婚姻を結ばなくてはいけなくなるだろう。
ルーカスと違って王族なのだから、知らぬ存ぜぬでは通せない。
今は婚約者もいない相手なので気安く話しかけられるが、伴侶が出来たらそう簡単には近寄る事も出来なくなってしまう。
エレインは、そんな悲しい未来を想像して、誰にも取られたくないと思ったのだ。
しかしこの思いをどう表現したら良いのか分からず、自分からは何かを欲しがった事もないので、なかなか言い出せずにタイミングを逃していたのである。
最近妹の様子が可笑しい事はルーカスも気付いていたのだが、単なる恋煩いだと勘違いしており、静かに見守る事にしていた。
それは間違いではないのだが、正解でもなかった。
二人で夕餉を楽しんだ後、エレインはデザートを食べながら頬を赤く染めている。
ルーカスは、アルフレッドを思っているのだと微笑ましく思い見つめていたのだが、頼りにされないのは少し悲しくもあったので声を掛けてみたのだ。
「エリー。何か相談事はないのか。僕に出来る事ならば何でもするから、遠慮しないで言ってみなさい」
また心を見透かされてしまったエレインは、勇気を振り絞っておねだりをした。
「お兄様、お願いがあります。私、殿下を観劇にお誘いしたいのです。一度も観た事はありませんが、巷で流行りの舞台を、殿下と二人で観たいと思うのです」
ルーカスは、驚きで目を見開いていた。
『一度も観た事がない…観劇に、行った事がないのか?』
よく考えてみれば、エレインは別邸に閉じ込められた後、孤児院で育っている。
男爵家に引き取られてからも、決して愛情をかけられていた訳では無い事を、ルーカスは密かに感じ取っていた。
それでも、貴族令嬢としての嗜み位は、経験させて貰っていると思っていたのである。
エレインが何も言わない事もあって、観劇には興味がないのだと、勝手に勘違いをしていたのだ。
一般的な令嬢が経験するであろう観劇を知らないのであれば、他にも未経験の物があるのかもしれないと、ルーカスは思案した。
黙ってしまった兄が何を考えているのか分からずに、エレインはソワソワしながら返答を待っている。
「他には、何かあるのか」
「他ですか?」
小首を傾げて考えている仕草も可愛いが、知らぬ事を答えるのは難しいだろうと思い、ルーカスは質問を取り消すのだった。
「分かった。観劇のチケットを用意しよう。アルフレッドの休みに合わせて取るから、頑張って誘いに行きなさい」
「はい。ありがとうございます」
何時もは癒される笑顔なのだが、何故かこの時は少し寂しく感じたのだった。
『相手がアルフレッドならば、仕方が無い。デビュタントは僕がパートナーになれたのだから、他は譲ろう』
すっかり有頂天になってしまったエレインは、何を着て行こうかとあれこれ考えていたので、兄の寂しそうな表情を見てはいなかった。
ルーカスは直ぐにチケットを用意してくれたのだが、エレインはいざアルフレッドを前にすると、断られたらどうしようと不安になってしまった。
最近では、王宮図書館の片隅ではなく、アルフレッドお気に入りのサロンでお茶を飲んでいる。
何時もの様に化石の話しで盛り上がってしまい、短い休憩時間はあっと言う間に過ぎてしまうのだ。
公爵邸に戻って来たエレインは、今日もチケットを渡す事が出来なかったと項垂れていた。
「お兄様。私が殿下をお誘い出来なかったら、お兄様がご一緒してくださいますか」
ルーカスにとっては有難い申し入れだったが、そんな事にはならないのを知っている。
最期まで諦めて欲しくはなかったので、優しい嘘を吐いたのだ。
「分かった。何も心配はいらないから、焦らず当日まで諦めずに、アルフレッドを誘う事だけを考えていなさい」
「はい」
エレインは安堵の表情を浮かべて、ルーカスを見て笑うのだった。
アルフレッドには、観劇当日に側近たちとお忍びで出かける事を伝えている。
他の邪魔が入らぬようしっかりと外堀を固め予定を組んでいるので、最悪当日になっても構わなかった。
知らないのは当人たちだけであり、みなで暖かく見守っていたのだ。
エレインが何かを伝えようとしている事を、アルフレッドが気付くのではと期待もしていたのだが、それは残念な結果に終わってしまう。
結局勇気が出せず観劇前日まで誘う事が出来なかったのは、概ね想像通りでもあった。
アルフレッドが好いた相手を楽しませようと、話題を考えるのに必死だったのもあるが、エレインから誘いを受けるとは想像も出来なかったのが一番の原因なのだろう。
実に残念な王太子である。
「お兄様…」
泣き出しそうな顔で夕餉の席に着いたエレインを、ルーカスは優しく慰めていた。
「心配する事は無い。明日は、お忍びで出かける事になっている。側近たちもみな了承済みだ。知らないのはアルフレッドだけだから、安心して支度をしなさい。当日驚かせてやるといい」
泣きそうだった顔は瞬時に笑顔を取り戻し、エレインはルーカスに抱き付いた。
「お兄様、大好きです。嬉しい、明日が楽しみですわ」
ルーカスは妹との楽しい時間は、エレインが輿入れしたら無くなるのかと思うと、嬉しい気持ちと寂しさとで複雑な心境になっていた。
翌日、エレインは張り切って身支度をしている。
「お兄様、おかしくは無いでしょうか。違う色のワンピースの方が良いのかしら」
朝からファッションショウの様に、何度もルーカスの部屋を訪問しているのだ。
「何を着ていても、エリーは素敵だ。アルフレッドも同じ事を言うだろう。今日は、一番好きな服を着て行くといい、それが自分自身の自信にも繋がる」
兄の言葉に納得したエレインは、一番最初に選んだワンピースに着替えたのだった。
『やっぱり、お兄様は素敵ですわ。何でも直ぐに解決してくださるもの』
エレインの中ではすっかり迷いが消えて、チケットを握りしめ馬車に乗り込んだ。
アルフレッドは王族であり、国王夫妻にとってたった一人の子でもある事から、勝手な行動は出来ないのである。
この日はお忍びで出かける事になっており、私服姿の近衛騎士たちが、既に演劇場の前にも中にも配備されていた。
出立時間より余裕を持って、ルーカスはエレインを伴い、王宮へやって来たのである。
「ごきげんよう、竹馬の友よ。エリーを連れて来た、話を聞いてやって欲しい」
アルフレッドは何事かと驚いたのだが、嬉しい訪問客に心が浮足立っている。
『か、可愛いではないか!何時もの制服姿も可愛いが、今日のラフな姿は、絵師を呼んで後世に残しても良いレベルではないのか!と、取り敢えず落ち着こう。愛の告白でない事は、確かなのだからな…いや、万が一は…無いか』
「ごきげんよう、我が友よ。エレイン嬢、どうしたのかな。化石の新しい発見でもあったのかい」
エレインは、アルフレッドの期待に答えられないと思い、絶望した様な表情になってしまった。
この場にいた者たちは、この鈍感過ぎる王太子に眩暈を覚えたのだが、エレインを前にするとポンコツになってしまう事をよく理解している。
「何故ここで化石が出て来る。エリーを泣かせたら、竹馬の友を止めるぞ、アルフレッド」
「あ、いや。今のは冗談だよ、ルーカス。休みの日に、エレイン嬢が訪ねて来るのは、珍しいと思っただけだ。その…今日の装いも素敵だね。こんなに可愛い町娘と、デート出来る幸せ者は誰なのかな」
『なんて事だ、どうして気付かなかった。貴族令嬢がラフな姿をしているのは、お忍びで出かけるからだろう。いったい誰だ、エレイン嬢をデートに誘った不届き者は!う、羨ましいではないか!!!いや…待てよ?男とは限らないな。アンバタサー嬢か?いや…ならばお忍必要は無いだろう』
アルフレッドの葛藤とは裏腹に、エレインは更に顔色を悪くしている。
ルーカスは、呆れた表情でアルフレッドを小突いた。
「ん~どうやら私は、言葉選びが下手くそなようだ。今のは全部忘れて欲しい。いや、装いが素敵なのは本当の事だ、とてもよく似合っている。会えて嬉しいよ、エレイン嬢。話とは、何かな」
やっと笑顔になったエレインは、頬を染めながらも一生懸命言葉を紡いでいる。
「あ…ありがとうございます…殿下も…す…す…き…」
「!?」
「好き」と言われた様に聞こえたアルフレッドの顔が、面白い様に赤くなっていく。
『待ってくれ!万が一が起こってしまった。私は、もっと素敵な場所で、ロマンティックな告白をする予定だったのだ!こんな男しかいない執務室で、一生に一度の告白を、受ける訳にはいかない…』
「す…すて、素敵ですわ、殿下も。今日は…お、お暇ですか!」
やっとの思いで気持ちを伝える事が出来たエレインは、持って来た観劇のチケットを差し出したのだった。
その日付はまさに今日であり、今から出ると、丁度良い時間に到着する事にアルフレッドは気付くのだった。
してやられたと、側近たちを伺うが、皆にやけた表情だが素知らぬ振りをしている。
今になって自分から誘いたかったと思う気持ちも出て来たが、それ以上に誘われた事が嬉しくて、満面の笑みでチケットを受け取ったのだ。
『なんと!デートのお誘いではないか。どうだ、見たか。私は誘われたぞ!泣いてしまう程嬉しいではないか。翼よ、今直ぐに飛び立とう。地平線の彼方まで、愛を探しに行って来るぞ』
「勿論。暇を持て余していたよ。暇ではなくても、エレイン嬢の誘いを、断る理由はないけれどね」
そう言うと、嬉しさのあまりアルフレッドを見上げたエレインと視線が合う。
お互いに距離が近かった事に気付き、照れて顔を背けてしまうのだが、そんな感情も心地よく思うのであった。
そしてルーカスたちに礼を言うと、アルフレッドはエレインをエスコートして劇場へ向かうのだった。
側近たちは、やれやれと言う思いで、見送ったのである。
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