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12.ミオの散髪(4)

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 実のところ、忙しさにかまけて女友達を作る余裕が無くなる、なんてのは俺の建前である。

 本音を言うと、同僚の佐藤が度々コンパを企画してくれたにもかかわらず、あれこれと理由をつけて参加を断ってきたから、なかなか友達や彼女が作れないのだ。

 佐藤は「一回や二回フラれたからって落ち込みすぎ」だとは言うけど、その一回で受けた心の傷は、なかなかえるものではない。

 だから次の参加に及び腰になっているのだった。

 あと、自分が言うのも何だが、コンパはメンツのが激しいから、できれば回避したいという心理も働いている。

 仮にとびきりの美人が来たら、男どもで激しい争奪戦が繰り広げられるのは必至なわけで、俺にはそんな競争を勝ち抜く自信も度胸も無い。

 そんな争奪戦とは無関係で、一人だけ浮いてしまった子をケアできる話術も持ち合わせていないし、むしろ俺の方が浮きそうなタイプなのかも知れないのだから。

 そうやって断り続けても、懲りずに誘ってくれる佐藤の気遣いには感謝している。

 こんな情けない俺でも、いつかは嫁さんをもらえる日は来るのだろうか。

 でも今は、ミオというかわいい子がいる事だし、一人留守番をさせて女遊びに行く、という選択肢は無いかな。

 ――ミオのクラスメートと別れた俺たちは腕を組んだまま、お互いの交友関係や、学校での出来事などを話し合いながら、夕日でオレンジ色に染まった道路を歩く。

 時刻は六時半を過ぎていたが、それでもまだ、日没までは時間がありそうだった。

 そういえばここのところ、日が長くなってきたような気がする。

 もうすぐ夏の到来という事かな。

 暗くなる前に着いたヘアーサロンでは、すでに二人のが先客がいたが、床掃除をしていた女性の店員が俺たちの来店に気づき、作業の手を止めて応対してくれた。

「いらっしゃいませ。散髪ですか?」

「えっと、今日はこの子が散髪で、僕はシャンプーと顔剃りだけなんですけど……」

「はい、かしこまりましたー。それじゃお子さんの方からのご案内でよろしいですか?」

「そうですね。それでお願いします」

 店員のお姉さんは手際よくレジを打ち、発行されたレシートを担当の理容師に渡した。

 このヘアーサロンは、会計が現金先払い方式で、レシートは担当した理容師が受け取る。

 受け取ったレシートに理容師が簡単なサインを書き記しておくことで、自分が何人分の散髪をこなしたかの証明になるのだ。

 つまりは歩合制ぶあいせいなのである。

「こんばんは。すぐに始められるから、あそこの椅子で座って待っててね」

 ミオの担当になった若い男性の理容師は、ミオを空いているバーバーチェアへ案内した。

「はーい。じゃあ行ってくるね、お兄ちゃん」

「うん。サッパリしてもらっておいで」

 俺はミオが座るのを見送った後、待合スペースの椅子に腰掛け、マガジンラックに並んでいる雑誌を適当に選んで手に取った。
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