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5:19歳

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「そんなに睨まないでくださいよ。取って食おうとしているわけじゃないのに」


 マルセルはレオンの動揺を知ってか知らずかクスクスと笑いながら、目を細めてレオンの首輪を白く細い指でなぞる。

 レオンは今まで押し倒すことはあっても、押し倒されることはなかった。

 はじめての経験に、しかも自分よりも年下の少年に押し倒されているという事実に、レオンの赤い瞳は鋭い光を宿す。
 

「そこをどけ」
「嫌です。だって、レオンさんを見下ろせることなん貴重ですから。この瞬間を楽しまないと」


 イタズラな笑みを浮かべ首輪を撫でていた手を、レオンのはだけた胸元に沿わす。


 その指先は氷のように冷たく、レオンは身体を震わせる。

 そんなレオンを見て、猫のように目を細めマルセルは笑みを深めた。

 レオンの反応を楽しむかのように怪しい動きをするマルセルの腕を掴むと、思ったより細い腕に驚きながらも、レオンはマルセルを睨みつける。
 

「ガキが何を言っているんだ。子供は大人しく本でも読んでベッドで寝てろ」
「酷い言いようですね。でも、僕は今年で成人の19歳ですよ?」


 19歳……?今年で成人だと?

 驚いた顔をするレオンに「そんなに驚くほどことですか?」とマルセルは首を傾げた。

 てっきり、16、17歳ぐらいの少年だと……。
 確かに、大人びた表情をする少年だと思っていたが今年で成人なら納得がいく……、のか?

 
 幼いとまではいかないが、少年と青年の間の危うさを漂わす少年……。いや、青年なのか?だが成人していないなら少年で……。

 レオンはマルセルの年齢を聞いて頭が混乱していた。
 マルセルの「僕のモノになってください」という発言も、ただの子供の癇癪のようなものだと思っていた。
 熱はいずれ冷めるもの、レオンに飽きればすぐ解放される。

 そう思っていたのに……。

 騎士を従えるワガママな貴族の少年だと思っていたマルセルに、レオンははじめて恐怖を抱く。
 

 信じられなくて声が出ないレオンを、マルセルは何を考えているのか読めない瞳で見つめていた。
 
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