かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

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第18話 領主の器量 (後)

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 それから数日、ローズはベリルのことを避けた。

 仮にも一国の王に対してしていい態度ではなかったが、そうでもしないと区切りを付けられなかった。

(本当にこれからだったのに)

 番の感覚がないローズとしてはそういった風にしか捉えられなかった。

 ベリルの方もそれほど強く言ってこないところを見ると、ローズの気持ちは察しているのだろう。

 それにベリルも何やら忙しくしているらしく、アンヌに尋ねると時折りどこかへ出掛けて行くことがあるという。

 時には朝から夕食時まで戻って来ないことがあり、アンヌが丁重に問うと、

「ちょっとした野暮用だ」
 
 という返答をされ、遅れた場合は夕食は要らない、と断られたとの話だった。 

 アンヌによると側近だというリヨンも外に出ているようだとのことだった。

(一体何をしているのかしら)

 だが、後で聞いたところによるとベリルはSランクの冒険者の資格も有しているとのことだったので、ギルドの依頼を受けているのかもしれなかった。

 かなり難しい依頼なのだろうか。

 領主代行として少し聞いてみた方がいいのではないか、とも思ったがそれほどの案件ならばすぐにこちらへ話が上がって来るはずだった。

(だとしたら一体――)

 疑念は晴れなかったがそれ以上ローズが思い悩んでいる時間はなかった。

 ローズの後任となる人物がオークフリートを訪れたのである。

「領主代行様にはご機嫌麗しく。ジークフリート・カンツォーネと申します」

 後任として来たのはローズより少し年下と思われる少年だった。

 焦げ茶の髪に快活そうな榛色の瞳をしており、その容貌から爵位はあまり高くはないと思われた。

 ローズは頭の中で貴族年鑑を捲った。

「カンツォーネ男爵令息にはご機嫌麗しく。ローズ・ファラントにございます。此の度は火急の事にも関わらずこのような申し出を受けていただき誠に有難く思います」

 そうローズが返すとカンツォーネ男爵令息は却って恐縮したようだった。

「いえ、俺は三男なのでそんなに丁寧にされなくても大丈夫ですよ。それに大きなチャンスを与えて下さって俺の方こそ感謝の気持ちで一杯です」

 基本、貴族の次男は長男にもしもことがあった時の代わり、そして三男以降は家を継ぐ機会は殆どなく、成人した後は自分で身を立てなけれならない。

 目の前のカンツォーネ男爵令息もその例に漏れず、成人したら騎士団の入団試験を受けることになっていたのだという。

「でも俺、武芸は全くダメで。出来れば文官になりたかったんですけど、父が反対していて。今回のお話はファラント公爵様直々のお達しということで何とか許可が下りたんです」

 文官を目指していたというだけあって、カンツォーネ男爵令息の仕事の飲み込みは早かった。

「これで以上です」

 執務室にローズの言葉が広がり、室内にほっとした空気が流れた。

「ご教授頂き有難うございました。でも、幾ら人手不足でもこの分量はないですよ。文官の募集を掛けてもいいですか?」

 率直なカンツォーネ男爵令息の言葉にローズは一瞬、虚をつかれた。

 確かに最初にここへ来た際、不正をしていた人物を端から切っていったため人手不足となっていたが、ローズはそこを補おうとはしなかった。

 女性だから、と侮られることがあまりにも多すぎたため、意固地になっていたのかもしれない。

「それはもう貴方が判断して下さい。領主代行様」

 そうローズが言うとカンツォーネ男爵令息は一瞬目を見開いた後、頷いた。

「そうですね。そうします」


 
 その日もベリルは夕食に顔を見せなかったため、引き継ぎが完了した報告は明日に持ち越された。
  
(ここに居られるのも後少しなんだわ)

 その夜、ローズは寝台の上でため息をついた。

 理屈では分かるが、やはりどこか納得していない自分がいる。

 そもそも向こうに人族の自分が行って大丈夫なのだろうか。

(運命の番ってそんなに大事なのかしら?)

 エドモンドの件で分かっていたはずだが、相手は国王である。

 シュガルト国のこともそれほど詳しくはない。

 大まかな歴史等はこれまでの教育の中で習ったが、あちらにはどんな派閥があるのか、またその勢力図についてまでは知らなかった。

(私なんかが行って王妃として認めて貰えるのかしら)

 不安の一夜を過ごしたローズは翌朝、昼食の席でベリルに引き継ぎが完了し、支度が済めばすぐにでもシュガルト国へ出立できることを告げた。

(お父様にご挨拶……しない方がいいわね)

 折角独り立ちできるチャンスを貰ったのに、すぐに潰してしまった娘の顔など見たくもないだろう。

 冷静になって見れば父であるファラント公爵が自分のことを娘として愛してくれているということが分かっただろうが、この時のローズにはそこまでの心の余裕がなかった。

「そうか。早かったな」

 意外と淡々とした反応にローズが戸惑っているとベリルが続けた。

「いつ出立するかははお前の意思で決めていい。だがその前に」

 ――少し寄るところがある。




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