かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

文字の大きさ
64 / 65

第64話 平和的解決?

しおりを挟む
 ベリルの言によりなんとか場は落ち着いたが、収まらないのは長たちの方である。
 
 特にルイス・サーペントに敗北を期した熊族の長は渋い表情をしており、別室に案内されるなりベリルに食ってかかった。

「先ほどの発言はどういった意味ですか? 王よ」

 長たちは貴族議会を牛耳っているといってもいい存在である。

 ベリルの代になってその力は弱まったが、侮れないものがあるのは確かだった。

 答える内容如何によってはどうしてくれようか、と凄味のこめられた問いにベリルはさらりと答える。

「なに、言ったとおりだ。話はついている。なあ、カントローサの王」

 ベリルの視線の先にいたのはルイス・サーペントだった。

 は? とその場にいたほとんどの者たちの視線がカントローサからの客人に集まった。

「騙すつもりはなかったのですが。改めまして。先日王位を継承しましたカントローサ第二七代国王ルーベルト・カントローサです。シュガルト国の皆様には先王が多大なるご迷惑をお掛けしたことお詫び申し上げます」

 その所作には先ほどまで戦いを繰り広げていた者とは思えないほど洗練されたものが含まれていた。

 ベリルが取りなすように言葉を添える。

「とまあそんな訳で元凶の先王は既に弑してあるということなので、その首級とこちらに有意な条約の締結等で手を打つことになったのだが。異論はあるか?」

 これまた思わぬ内容に長たちの動きが止まった。

 何を言っているのだ? この王は?

 つい先日までシュガルト国はカントローサ国へ宣戦布告をする予定で話を進めていた。

 なのに先王の首級と条約の締結で手を打つ?

 ぴくり、と何人かの長の耳が動く。

 豹族の長が口火を切ろうとしたとき、ベリルがその耳へ幾つか囁いたが、それは人族よりも鋭いと言われる獣人族でも聞き取れないものだった。

 うろたえたように視線を彷徨わせた豹族の長にベリルが続けた。

「で、どうする?」

「……陛下の決断に従います」

 その場にいた五人の長の内、豹族の長を除く四人が驚愕の表情を浮かべる。

「ダース殿!!」

 叫んだ犬族の長にベリルが囁くように告げた。

「くっ、了承しました」

 次々と長たちに囁いたベリルが了承を取り、カントローサの王に顔を向けた。

「これでだいたいのことは片付いたな」

 笑みを見せるベリルにカントローサの王ルーベントは不満そうだった。

「私が彼らを説得しないと意味がない、とおっしゃったのはそちらでは?」

「確かに言ったがな。こんな無茶をしろとまでは言ってないが――リヨン、サントワール医師を」

「すでに呼びに行かせております」

 リヨンの答えにわずかに表情を変えたのはルーベント王だった。

「……なんのお話でしょうか?」

 訝し気にこちらを見るルーベント王をベリルは呆れたように見返した。

「やせ我慢もそこまで行くと道化だな。いくら身体強化を掛けたといっても相手は防御にも優れたタバサだ。足の一本くらいいってるのだろう?」

 は、と先ほどまでとは違う意味で場の空気が凍った。

 ルーベント王の元々白い顔が更に白くなったようだったが、それでもまだ認めるつもりはないようだった。

「なにをおっしゃっているかわかりませんね」

「ではサントワール医師に診て貰ってもいいのだな?」

 そう告げたベリルとの緊迫したにらみ合いの後、沈黙を破ったのはルーベント王だった。

「……わかりました。診察を受けましょう」

 根負けしたようにルーベント王が告げたとき、扉が叩かれた。

「失礼いたします。医師サントワール。招聘により罷り越してございます」

「入れ」

 入室したサントワール医師が早速ルーベント王の診察を始める。

「これはかなり無茶をなさいましたな」

 結果は右足の骨折で、その状態を周囲に気付かせずに移動して更には会話もこなしているのが不思議なくらいだとのことだった。

「痛みには慣れているので」

 さらりと言うルーベント王の様子には少しも気負ったところがなかった。

「……王宮の闇ですかね」

 リヨンの呟きにベリルがなにか言い掛けたが、それは長たちの叫びにかき消された。

「誰か、担架を!!」

「いや、足の固定が先だ!!」

「サントワール殿、痛み止めは携帯しておらぬのか!?」

 そんな長たちの態度を呆気に取られたように見ていたルーベント王の傍らでベリルが破願する。

「よかったな。どうやら貴君は受け入れられたらしいぞ」

 控えていたリヨンも大きくうなずく。

「全くですよ。ほぼ単身で敵国と言ってくらい関係が悪化している我が国へ赴くなどと仰るから、いったいなにをお考えなのかと思えば。……類はなんたらを呼ぶ、というのは本当だったんですね」

 ちらり、と意味ありげに己の主を見上げる側近に、ベリルが聞き返す。

「おい、どういう意味だ?」

「いえ、なんでもありません」

「言え。王命だ」

「そのような王命は前例がありませんので、却下させて頂きます」

 その会話に聞いていたルーベント王が吹きだした。

「いや、失敬。こちらでは円滑な主従関係が築けているのですね」

「違う、というよりそんなことを言う余裕があるならさっさと治療を受けてほしいんだが。この場合、ギルの魔法薬も試したほうがいいのか?」

 ベリルの言葉にサントワール医師がうなずく。

「左様ですね。まずは足を固定させていただいて、筆頭魔術師殿がすぐに来てくれるようでしたら、こちらの痛み止めは魔法薬の薬効の邪魔になりますから、カントローサ王、申し訳ありませんが薬に関しましてはしばしお待ちを」

 少し驚いたような顔をした後ルーベント王が答えた。

「わかりました。しかし意外ですね。医療面で医師と魔術師が協力しているなど」

 おや、とサントワール医師が疑問を呈した。

「貴国ではそのようなことはないのですか?」

「ええ。残念ながら病人は医師が専門に診ることになっていて、それに魔術師が関わるこということはありません」

 その後呼ばれたギルが魔法薬を作り、ルーベント王が服用するとたちまちのうちに治癒した。

「これは素晴らしい」

 感嘆するルーベント王にギルが答える。

「こちらの薬は一瞬で治癒させますが、代わりに体力が消耗されます。この後は数日は安静にされてください。それとこの薬は一般には出回っておりません」

 言外に他言無用と言われ、ルーベント王がうなずく。

「ああなるほど。私は貴国で怪我などしなかった。そういうことだね」

「話が早くて助かります」

 幾ら印象の悪い国が相手とはいえ、一国の王に怪我をさせた、と他に知れたら因縁再びである。
 
 今度はカントローサ側からの宣戦布告に成りかねない。

「なんとか一件落着ですね」

「いや、まだだ。ローズのところへ行ってくる。後はないな」

 ベリルの念押しにリヨンが反駁した。

「待って下さい。まだありますよ。陛下は国の政をなんだと思ってらっしゃるのですか?」

「大まかな道筋は立てた。後は他の者でもなんとかなるだろう。こっちは番が見付かるまで何年待っていたと思うんだ?」

 にらみ合いを始めた主従を脇目にルーベント王が呟く。

「番というのはやはり特別なのですかね」

「それはもちろん。獣人族の一生事ですから」

 先ほどベリルにやり込められた豹族の長が答えると他の長たちもうなずいた。

「特に王は長年探しておりましたからな」

「しかり」

 うんうんとうなずく長老たちの中から熊族の長が進み出る。

「では王よ。後のことは任されよ」

「話が早くて助かるな。ではカントローサの王、悪いが後はこちらの長老たちと話を詰めてくれ。それと貴国の暗殺者の件も加勢させるか?」

「ありがとうございます。ですがそれはわが国の問題ですから。お手を煩わせるものでもありませんよ」

 さらりと交わされる会話にリヨンが割って入るが一蹴された。

「待って下さい!! まだもろもろと手続きがですね」

「それはお前たちに任せる。俺は俺のために人生を変えてしまった番に謝罪と愛情を伝えなければならないからな」

 そのことはお前もよくわかっているだろう。

 自身の相手も運命の番のため、そこから先の反論はなかった。

「ではな」

 颯爽と扉を開けるベリルに今度は呼び止める手はなかった。

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※ 竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

処理中です...