俺があいつをいじめていた理由は絶対誰にも分からない

神崎 ルナ

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第四話 肝試し (前)

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 中学に上がってからも俺は変わらないルーティンをこなしていた。

 体力作りに絵画教室、学校の勉強。

 幾ら好きでやっていることとはいえ、だんだんストレスが溜まって来る。

 あの後、田衣が言っていたように優のことを裏切って、って展開はなくなった。

 次に優を苛めたとき、くんじゃねぇ、って思いをこめて田衣のこと、睨んでやったらそれ以降俺にも優にも寄り付かなくなった。

 勘がいいやつ。

 優は相変わらず画家になることを諦めない。

 学校の成績は俺と同じくらい良いんだから、普通にサラリーマンしてればいいのに。

『僕も画家になる』

『ふざけんなよ、お前その絵で言うのか』

 優の画力は小学校の頃に比べれば少しは進歩したが、何が描いてあるのかようやく分かる程度のものだ。

『その画力でよく言えんな。どんじり』

 そう言うと優が一瞬押し黙った。
 
 ――どんじり。

 ちょうど流行っていたアニメの登場人物に『どんじりのユウ』というのがいた。

 いつも主人公たちの足を引っ張るお荷物的な存在で、頭は悪い、運動神経もなし、おまけにドジ、という救いようのない人物だった。

 後から考えれば主人公を引き立てるためにそういう設定にしたのだろうな、と思えるがその時は毎回毎回足を引っ張るどんじりにイライラしていたのだ。

『もうお前、すぐるじゃなくてゆうだろ。どんじりって呼んでやるよ』

『……陣くん』

 泣きそうな顔でこっちを見る優はまさに『どんじり』で。

『んな顔してんじゃねぇ!! 画家なんてお前には無理なんだよ、いい加減諦めな』

『だって』

 その続きは聞こえなかった。
 
 その場を見ていたクラスメイトたちが割って入ってきたからだ。

『そうそう。坂崎くらいのレベルなら分かっけど、雨宮――どんじりくんの画力じゃあ無理無理』

『そうだよな。見たか? こないだのコンクールで賞取った坂崎の絵。まんまプロじゃん、って感じでさ』

『あれが俺らと同い年かよ、ってほんとにびっくりしたもんな』

 この頃の俺はいかに写実的に描くかに拘っていた。

 陰影を正確に捉えるのは基本中の基本だし、ここはしっかりしておかないと後々君が困ることになるよ、と絵画教室の海野先生に言われていた。

 そのため、その頃の俺の絵は誰が見ても上手だ、と言えるものばかりだった。

 ただそれだけ。

 そんなことにもその頃の俺は気付いていなかった。

 クラスメイトが優にのしかかるように近付く。

『だからぁ、もうここは素直に諦めて幼なじみの特権で下僕にでもしてもらったら?』

 ちっとも特権でもなんでもないんだが、優は顔を真っ青にするだけで答えない。

 少しは反論しろよ。

 そしていつになったら来るんだよ本物。

 田衣の一件以来、俺は優に対して否定する発言が更に増えた。

 これだけ言っても諦めないのかよ。

 俺は正しいことを言ってるのに。

 なんでなんだよ。

 焦れば焦るほど、それは止まらなかった。

 そんな時に聞いたのが『ゴーマンさま』の噂だった。

 夜中に東校舎の男子トイレか。テンプレだな。

 その時誘うメンバーに優を入れたのは気紛れってだけだ。
 
『こんなんでびびってたら夜景も描きに行けないだろ』

 って言ったら一発で釣れた。簡単すぎないか。

 で、決行の夜になったんだが、上手く抜け出せなくて来られなかったやつとかもいて、結局俺と優とあとふたりくらいしか来れなかった。

 そのうちの一人も――

『あ、ごめん。親にバレた』
 
 と帰ってしまい、三人で行うことになった。

 ちなみに当時のセキュリティなんだが、ちょうどその頃センサーか何かの点検だか取り替えの時期だとかで機械類のスイッチは入ってなかった。
 
 そうじゃなかったらやってないしな。

 肝試しのルールは簡単だ。

 男子トイレの一番奥のトイレの写真をスマホに撮ってこっちに送るだけ。

 それができたら戻れる。

 順番は俺、もうひとり、最後に優だ。

『んじゃ、行ってくる』

 校庭の端に集まった俺たちは小声で会話を交わしていた。

『気をつけてね、陣くん』

 ったく。こんな時まで。

 俺はそんなやわじゃないぞ。

『ざけんなよ。どんじり』

 それだけ告げて俺は東校舎へ向けて歩き出した。

 事前に開けておいた廊下の窓からさくっと入って階段を上がる。

 スマホのライトだけじゃ心もとないので百均のライトも使ってる。

 撮るとき、光源は有った方がいいだろうしな。

 思ったより雰囲気に呑まれていたらしい。
 
 夜の校舎内は昼の喧騒とは違って、無機物の冷たさと物寂しさが一層引き立つ。

 音も、ない。

 ひとりでいる、というのが嫌でも思い知らされる空間だった。

 ここか。

 程なくして俺は男子トイレに着き、入り口の扉を開けた。

 
 




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