本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ

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第十三話 王太子との茶会

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 もうすぐエリスがこの王城へ来る。

 そう思うととてもではないが、落ち着いてなどいられなかった。

「本日は午後から王太子殿下との茶会がありますので、こちらに」

 え?

 突然リズに言われてカーラは戸惑いながらもいつもより華やかな衣装に着替えた。

 午前中はいつも通り授業があり、午後の授業の時間を王太子殿下との茶会に充てるというものだった。

「せっかく王城へいらしたというのにお待たせさせてしまい、申し訳ありませんでした。ようやく王太子殿下の日程の都合がつきましたので、ご案内させていただきました」

「わかったわ。でもずいぶんと急なのね」
 
 カーラがこちらへ来てから十日経った。

 その間、王太子殿下からは何の連絡もなかったので、すっかり忘れられているのかと思っていたのだが。

 そんなカーラの思いが表情に出ていたのか、リズがどこか焦ったような口調で捲し立てた。

「本当に申し訳ございません。決してエリス様をないがしろにしていたつもりは決してなく――」

「いいのよ。殿下が忙しいのは当たり前のことですもの」

 ひたすら恐縮するリズを宥め、日程をこなす。

 そう言えば――

 ふと気になっていたことをカーラは尋ねた。

「そう言えばマスクリューさ、……はどうしたのかしら?」

 ベス・マスクリューはジェイドが『君の世話をすることになるよ』と言っていた女性のはずだが、初日に挨拶をかわして以来、姿を見ていなかった。

 何かあったのかしら?

 カーラが問うとリズは少し申し訳なさそうに答えた。

「マスクリューさんはあの人をお迎えにむかっています」

 もうすぐこちらへ着くと思います。

 そう続けられてカーラは顔色が変わりそうになったのをこらえた。

 エリスの迎えに女官として熟練者のマスクリューが向かった。

 ということは、もしかしたらもう『神託の花嫁』はエリスに決まっているのかもしれない。

 胸中を不安がよぎるなか、カーラはリズに先導されて茶会の開かれる庭を案内された。

 さまざまな花が咲き競っている庭内は見ごたえのあるものだったが、今のカーラにはまったく色も匂いも感じられなかった。

 やがてテーブルと椅子が配置された一角が見え、そこが王太子殿下との茶会の場所だと分かった。

 王太子殿下直々にお払い箱だと言われるのかしら。

 カーラが先に着いたようで王太子らしき姿は見えなかった。

 控えていた侍従が着席して待っているように、との王太子の伝言を伝えてくれたため、カーラは従うことにした。

 習った作法通りに椅子に腰かけ、王太子を待つ。

 しばらくすると木立の間から人の気配がした。

「やあ、初めましてかな」

 穏やかに声を掛けてきたのは、王族独特の淡い金髪と青い瞳をした二十代半ばと思われる青年だった。

 服は戸外を意識したのか多少動き易いように簡素な設えになっているようだが、その布地が高級なものであることはカーラの目でも分かった。

「お声を掛けていただき誠に光栄にございます。僭越ながら名乗りを上げてもよろしいでしょうか?」

 素早く立ち上がったカーラがそう述べると、王太子は苦笑したようだった。

「ああ。構わないよ」

「それでは。お初にお目にかかります。マルボーロ男爵家が次女、エリスにございます。王太子殿下にはご機嫌麗しく恐悦にございます」

 カーテシーもしたが、どうにも付け焼刃の感がいなめない。

 それにいつまでも『エリス』と名乗るのに違和感しか覚えなかったが、仕方がないだろう。

 いつかきっと慣れるわ。ここを出て新しい生活でも始めたら。

 なんとかやりきると王太子が声を掛けて来た。

「遅くなってすまないね。アルフレッドだ。アルとでも呼んでくれると嬉しい」

 王太子が腰かけるのを待っていると、着席を勧められてカーラも座ると控えていた侍女が茶器を運び始めた。

 思ったより親し気な王太子の態度に戸惑いながらカーラは返事をした。

「誠にありがたいお申し出ですが、私には荷が勝ちすぎております。王太子殿下」

 他意がないのは分かっているが、初対面で王太子を愛称呼びするというのは難しい。

 いくら将来伴侶となる相手とわかっていても。

 そんなことをカーラが考えていると王太子が少し面白そうな表情をした。

「相手が私では不満かな?」

「いえ、そんなことは――」

 ありません、と続けようとしたとき信じられない声が割って入った。

「まあ、こんなところにいたんですね。エリス」

 ――え?

 名前のところをいやに強調した声に、振り返ったカーラの視界にいたのは、マスクリュー女史が迎えに行っていると聞いていたエリスだった。

 



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