本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ

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第十四話 乱入者

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「許可も得ずに庭園に分け入り、あまつさえ王太子殿下の前でその所業。何とも浅ましい」

 そう言って侍従たちが即座にエリスを取り押さえようとするが、王太子がやんわりと止めた。

「いいよ。ちょうどこちらも聞いておきたいことがあったから」

 侍従たちに取り囲まれたエリスが嬉しそうに王太子を見た。

「初めまして王太子殿下。カーラ・マルボーロ男爵令嬢ですわ。『神託の花嫁』の」

 カーテシーどころか礼儀作法も何もないかのような挨拶だった。

 一応エリスにも男爵令嬢らしく礼儀作法の授業はあったはずなのだが。

 そう言えばほとんどサボっていたわね、この娘。

 作法は落第点だが、蠱惑するような笑みは満点だろう。

 エリスが微笑むと場に華やかさが加わったようだった。

 カーラが、ちら、と侍従たちの様子を窺うと、つい先ほどまでエリスに対して憤慨していたのに、見惚れているように惚けている者もいるように見えた。

 ああ、やっぱり。

 カーラが諦観したときだった。

「神託の花嫁、ね」

 抑揚のない声で王太子が返した。

 え、と見るとその青い瞳に温度がないように見える。

「君は誰かな?」

 その言葉こそ丁寧だがまるで刃のような鋭さを聞く者に感じさせた。

「神託の花嫁を偽ることは重罪だが。まさかそんなことすらも知らないのではないよね?」

 穏やかな口調で微笑みすら浮かべているのに、聞いていると悪寒を覚えるのは気のせいではないだろう。

 カーラを含め、その場にいた者皆が固唾を飲んで様子を窺ったが、ひとりだけ例外がいた。

「まあ、偽るだなんて。私はカーラですわ。王太子殿下」

 王太子殿下の言葉にさも心外です、とでもいうように目を丸くして答えるエリスの表情は純粋そのものに見え、下手をするとこちらが悪人に見えるほどだった。

「誰が王太子殿下にそのような嘘を吹き込んだのか知りませんが、私は『神託の花嫁』のカーラ・マルボーロ男爵令嬢ですわ」

 自信をもって言い切るエリスに逆に感心させられそうになる。

 どうしたらそこまでできるのだろう。

 肯定されたことなどほとんどないカーラはついそんな思いがよぎってしまった。

「それでエリス、どうしてあなたがこんなところにいるの? 修道院はどうしたの?」

 王太子から見えない位置でカーラを睨み付けるエリスの顔は先ほどの天使の笑みとは真逆のものに思えた。

 これで声音だけは優しく聞こえるのだから、ある種の才能と言える。

「修道院?」

 王太子の疑問にエリスが明るく笑って振り返った。

「ええ。エリスは先日婚約破棄されてしまって、その後の話も決まらなかったから修道院へ行くことが決まっていたんです」

 にこにことしているがその内容はどう聞いてもカーラのことを貶めているとか思えない。

「なのでエリスがここにいるのは間違っているんです。さあ、エリス、さっさとそこからどきなさいな」

 身構える暇もない、あっという間の出来事だった。
 
 気付いた時にはカーラは椅子から転げ落ちていた。

「あなたにはそこがお似合いね」

 カーラを見下ろしてどこか得意げに言うエリスは背後の冷たい視線に気付かないのだろうか。

「さて、これで――「衛兵」」

 エリスの言葉を王太子が遮った。

 素早く王太子の傍へ寄った衛兵に王太子の命令が飛ぶ。

「この者を捕らえよ。神託の花嫁への暴行、それに許可なく庭園へ分け入り、発言を繰り返した罪状もある」

「「「はっ!!」」」
 
 たちまちのうちに捕らえられたエリスが口を開き掛けたが、そこで王太子が追加の命令を下した。

「ああ。それから猿ぐつわも忘れずにな。どうやらこの者にはわずかだが魅了の心得があるらしい」

 え?

 もがきながら衛兵に連行されて行くエリスを呆然と見送っていると、王太子が手を差し伸べてくれた。

「うーん、この役割は本当は違うんだけどね。ひとまず怪我はなかったかな。侍医を呼ぶからちょっと待っててね」

 何故か先ほどより気さく気に言われてカーラの中に戸惑いが生まれるが、取りえず頷いておく。

「どこか痛いところは? まったく。どうしてアレがここまで来られたのか、一度警備体制の見直しが必要だな」

 カーラが椅子に腰を下ろしたところで王太子がおもむろに告げた。

「さて、君が『神託の花嫁』のカーラ・マルボーロ男爵令嬢だというのなら、君にも虚偽罪が適用されるんだけど」






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