本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ

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第三十八話 告白

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「本当か?」

 ジェラルドの問い掛けにリードが頷く。

「ええ。あのマンデル皇帝の性格を考えると有り得ないことなんですが、帝国券のことがよほど堪えたようですよ」

 ジェラルドが勢いよく立ち上がった。

「となると他の国も動き出すな」

「はい。半年の猶予期間内に何とか交渉して減税、もしくは取り消しの方向へ持って行かなければなりません」

 すぐに応接間を出て行くかと思われたが、ここでリードが立ち止まった。

「どうした?」

 訝し気に聞くジェラルドにリードがびしり、と宣言する。

「先に行って準備しておきますので、ジェラルド様は少し後からおいで下さい」

 そう言ってリードが退出する。

 扉がぱたん、と音を立てて閉まると何とも言えない沈黙が流れた。

「「……」」

 そう言えばさっきジェラルドは何を言い掛けたのだろう。

 物問いたげなカーラの視線を受けてジェラルドは逡巡しゅんじゅんしていたようだったが、やがて意を決したように話し出した。

「君が昔のことを覚えていなくても俺の気持ちに変わりはない。あの時からずっと好きだった。勝手に君を『神託の花嫁』にしてしまったから、伝わっていなかったと思うけれど。俺は君のことが好きだ」

 ――え?

 思いもかけない言葉にカーラの思考が停止した。

 その間にもジェラルドの言葉は続く。

「昔、自分の未来が勝手に捻じ曲げられたように感じてヤケになっていた俺に声を掛けてくれ、一緒に遊んでくれた君。そして今男爵家であんな目に遭っていたというのにその美しさは少しも損なわれていない」

 真摯な青い瞳がカーラを見つめていた。

 ジェラルドが更に言葉を紡ぐ前にカーラの臨界点を越えた。

 待って待って!! ちょっと刺激が強すぎて心臓が仕事を放棄しそうなのだけれど!?

「待って下さい。ちょっと待って。ほんとに」

 反射的に両手を胸の前に出してそう言うと、ようやくジェラルドの口が閉じられた。

 すきだ、ってあの恋愛感情の『好き』でいいのよね!?

 え? 神託の花嫁って、女性の側近が欲しかったからではなく!?

 カーラが呆然としているとジェラルドが諦めたように口を開く。

「そんなふうに思われていたのか」

「声に出してました!?」

 思わず聞くと深く頷かれた。

「すぐには信じられないかもしれないが、俺の気持ちに変わりはないから」

 そう告げるとジェラルドは応接間から出て行った。

 ――え?

 まだ頭の中が混沌としているカーラにリズがまさか、という感じで聞いて来た。

「カーラ様。気付いていらっしゃらなかったのですか?」

「だってその。一度会っただけの相手にそこまでの感情を向けられているなんて気付かな――あ」

 しまった。今の言い方だとカーラが思い出しているように聞こえてしまう。

「カーラ様?」

 リズの視線が怖い。

「……ごめんなさい」

 昔出会ったことを思い出した、と白状したカーラにリズはどこか呆れたように告げた。

「でしたら、先ほど第二王子殿下にお話しされてもよかったのでは?」

「言おうと思った時にはもう行ってしまったんだもの」

 子供ですか、と聞こえたような気がしたのは気のせいだろう。

 それにしても、とリズが考え込むように頬に手を当てた。

「昔出会ったお二人がこうして再会して惹かれ合うなんて、物語みたいですね」

「でも、まだジェラルド様に伝わってないわよ」

 カーラが冷静に指摘するとリズはそうですわ、と手を打った。

「いっそのこともっといい雰囲気を作ってしまいましょう!!」

「……はい?」



 その翌日、カーラはガゼボでジェラルドを待っていた。

 あの後、お茶の誘いを入れたがやはりジェラルドたちは忙しいとのことで当日には無理だった。

 茶器の配置を終えたリズが満足げに告げる。

「それでも翌日にはカーラ様の御予定に合わせるだなんて。やはりカーラ様は愛されているのですね」

 にこにこと上機嫌なリズに反してカーラの心は複雑だった。

 まさかジェラルドが自分を好きだなんて。

 思いもよらない告白に昨夜はほとんど眠れなかった。

 自分のような凡庸な者に告白する人がいるだなんて。

 てっきり、側近の代わりだと思っていたのに。

 昨日のジェラルドの告白を思い返していると、リズがにまにまとした顔で聞いてきた。

「もちろん承諾ですよね」

 ――聞くまでもないことですが。
 
 そう続けられた瞬間、頬が熱くなるのが分かった。

「リズッ!!」

「すみませんでした」

「何だか楽しそうだね」

 いつの間に来たのかジェラルドがすぐ近くまで来ていた。

 慌てて立ち上がろうとしたカーラをジェラルドが止める。

「そのままでいいよ」

 侍従が引いた椅子に腰を下ろしたジェラルドは落ち着いて見えた。

「それで話があるって?」

 どうして昨日の今日でこんなに落ち着いていられるの?

 釈然としないものを感じながらもカーラは話を進める。

「はい。でも、まずは王妃様から譲っていただいたお茶をどうぞ」

 リズが茶壷から細長い花の蕾のようなものを取り出し、そっとポットへ入れた。

 今回のものは中身が違う。

 リズによると王族や上位貴族ともなると花も意思疎通の道具となることから、当然第二王子であるジェラルドにも通じるはず、ということだった。

 この花は茶葉の中へ入れるのは難しいらしく、水気を抜いただけのような姿だが、まだこの時点では花の種類までは分からないはずだ。

 ちょっとどきどきするわね。

 ポットの中へ湯が注がれ、蕾が浮く。

「母上と仲良くなったんだね」

「ええ。とてもよくして下さいます」

 どうしよう。間が持たない。

 どんな話題を出そうかとか昨夜なんども脳内で練習したのに、かけらも出て来ない。

 カーラが焦っているとジェラルドが話を振って来た。

「工芸茶だったかな。前に母上のところで御馳走になったけれど、面白いお茶だよね」

「ええ」

 ふいに沈黙が訪れ、ジェラルドが呟くのが聞こえた。

「かわいい」

 ――は?

 かわいいって誰が!?

「こういった工夫を凝らしてあるお茶だときちんと咲くまで気が気じゃないよね。そんなふうに気もそぞろなカーラもかわいいな、って」

 笑みを含んだ言葉にカーラの脳内が更に混乱する。

「ジェラルド様?」

 ジェラルドの方を見たカーラの目に入ったのは赤面しているジェラルドの姿だった。

「だからもう、半分ヤケだから気にしなくていいよ。昨日の告白が一方通行だって分かってるしね」

 とっさにカーラは首を振った。

「……違います」

「カーラ?」

 訝し気なジェラルドの問いに、言葉が滑り落ちるように零れた。

「私もジェラルド様のことが好きです」






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