気が付いたら断罪中でおまけに斬首寸前の公爵令嬢にinしていた完全犯罪主義者ですが何か?

神崎 ルナ

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第八話 婚約破棄はサクサクと

「アルベルトから来た連絡で大体のことは聞いたが、お前が一方的にあの……ごほん、婚約破棄されたというのは本当か?」

 珍しく三人揃っての朝食後(ちなみにルーベンス公爵夫人は大分前から領地で静養中である)執務室へ促され、椅子に腰かけるなりこれである。

 今確実に『あのバカ』と言い掛けたわよね。

 私が頷くと隣に腰かけていたアルベルトお兄様が忌々しいとでも言いたげに口を開いた。

「ええ。本当です。昨夜魔道具で報告したとおり、あの暗愚はよりにもよって大広間でユーフィリアに向かって婚約破棄を告げ、暴力を振るったんです。そう言えばお早いですね父上」

 アルベルトお兄様の問いにお父様が何でもないことのように答える。

「緊急用の転移の魔道具を使ったからな。残りの者たちも午後には顔を見せるだろう。それよりも私はユーフィリアに聞いているのだが」

 言葉だけ聞いていると冷たい父親の印象を受けるが、これもまた愛情の裏返しみたいだった。

 というか緊急用の魔道具って。

 それって天災とか戦争クラスの大事が起きた時に使う物では?

 愛されてるわね。ユーフィリア。

 そう心の内で告げても何の答えもなかったが、きっとユーフィリアに届いているはず。

 そんなことを思いながら言葉を紡ぐ。

「今お兄様がおっしゃったとおりですわ。お父様。どうやら王太子殿下には他に想う方がいらっしゃるようです。ルーベンス公爵令嬢としての役割を果たせなくて申し訳ありません」

 貴族に生まれた女性の役割は主に良家との婚姻が主である。

 ましてやユーフィリアは政の中枢である王家に嫁ぐはずだった。

 幾ら事情が事情でも小言のひとつくらいは来るかな、と思っているとため息を付かれた。

「そういう意味で聞いた訳ではない。もう少し状況が違ったのであればお前の力不足を責めたかもしれないが、今回は今回だからな。せっかく向こうから婚約破棄を告げてきたのだ。さっさと手続きを済ませてしまおう」

 あっさりとした答えに、これはもしかしてかなり前からあのお坊ちゃん王太子を見限っていたのだろうな、と思った。

 その後を続けるようにアルベルトお兄様が口を開いた。

「それではさっさとやってしまいましょう。国王夫妻が戻る前に」

 何かもの凄いやる気を感じるのだけど。そんなに不満だったのかな。

 そんなことを考えているとアルベルトお兄様がこちらを見た。

「元々そんなに乗り気ではなかったからね。わざわざ王家と縁付けなくても我がルーベンス公爵家はそうそうゆるぐものではないから」

 それを聞いたお父様も重々しく頷く。

「ああ。これは陛下が是非に、とほとんど勅命で押し切った縁組だったからな。こうして向こうから婚約破棄を宣言してくれるのは非常に有り難い」

 それに、とアルベルトお兄様が笑みを作って告げた。

「あの大広間にはダヴィンチ公爵も顔を出していましたからね。撤回などできませんよ」

 思いがけない超有名芸術家の名前に咳き込みそうになるのを堪える。

 と同時にユーフィリアの記憶からダヴィンチ公爵の情報を取り出した。

 なになに、ダヴィンチ公爵家はこのルーベンス公爵家と双璧とも言える名門で、軍事力はやや劣るものの、優れた文官を何人も輩出しており、先々代までは宰相は必ずダヴィンチ公爵家から選出していたらしい。

 いや、先々代までって、ああ、先々代の国王はどちらかと言えば軍を動かす方が好きだったから。

 とまあそういう訳で華やかな表舞台からは姿を消したように思えたダヴィンチ公爵家だったけれど、現在でもその影響力は侮れない。

 そのダヴィンチ公爵が大広間でのアレを見ていた、とくれば。

 幾ら『これは即興のお芝居』といっても必ず後から追及してくるだろう。

 それにあのお坊ちゃん王太子が折角作って上げた逃げ道(婚約破棄はお芝居でした)を有効利用できるとは思えないんだよね。

「成程。ダヴィンチ公爵の耳に入ったとなればすぐに動いた方がいいな」

 呼び鈴を鳴らしてロイドを呼ぶと、重々しい声でお父様が告げた。

「例の書類の準備をしておいけ。すぐに行く」

 畏まりまして、とロイドが隣室の小部屋に行った。

「父上」

 アルベルトお兄様の問いかけにお父様が軽く頷いて答えた。

「婚約破棄の書類だ。出来次第王宮へ送る。まあ、ほとんど出来上がっていてあとは署名する位だが」

 通常の婚約破棄であれば、当事者の縁を結んだ親や仲介者が同席して密室で行うが、今回のような例はない。

 なのでこちらも慣例に従わなくていいだろう、ととてもいい笑みでお父様が告げた。

「それにわざわざ私が王宮へ持って行くこともないだろう。出来上がった書類は王宮へ転移陣で送る」

 転移陣は先ほど述べた魔道具の一種で人や物を送ることができるがそんなに簡単に使用していいのだろうか。

 興味深そうに聞いていたアルベルトお兄様が頷く。

「成程。転移陣を使えば記録が残りますね。これなら向こうで隠滅もできないな」

 何か物騒なワード出てきた。

「ああ。これならなかったことになどできないからな。さて後は陛下への報告だが」

 ――ご帰国されてからでよろしいだろう。

 そう続けられた言葉を聞いて、椅子からずっこけそうになったのは永遠の秘密にしてほしい。

 え、とそれってありなの!? 相手は国王陛下!! この王国の頂点では!?

 驚いてお父様の方を見ているとアルベルトお兄様が替わりとでもいうように質問してくれた。

「よろしいのですか? 陛下へのご報告を後回しにして」

「陛下には以前から……王太子殿下のユーフィリアへ対する態度についてそれとなく報告していた。それで少しは王太子殿下へ具現を呈されていたようなのだが、ほとんど効果はなかったようだな」

 現王は穏やかな気質と言われている。

 ようするに気が弱いというか、政策も全てが無難なところでまとめようとしている。

 今のところはそれで大事になったりはしてなかったから、よかったのだけれど、あのお坊ちゃん王太子に対してもそれだとねぇ。

「国王夫妻には大事な外交がある。それからしたらこのような些事など後回しでよいだろう」

 いや些事って。

「それでは私は書類を仕上げてくる。アルベルト。お前もだろう」

「ああ、そうでしたね」
 
 アルベルトお兄様は大広間の一件でローランサン公爵令嬢を見限ったんだっけ。

 あれ、でもそうすると兄妹ふたりして婚約破棄!? いいの、これ。

「心配するな。ユーフィリア。ローランサン公爵家の方もあちらから是非に、と押し切るように婚約させられたようなものだ」

 うわ、ルーベンス公爵家って人気なんですね。

 白目になっている私を余所にお父様たちはいい笑みを浮かべていた。

「我がルーベンス公爵家は何があろうとゆるがないから大船に乗ったつもりでいなさい」



 そのわずか二日後、王都にあるルーベンス公爵邸が第三騎士団に包囲されるだなんて誰が予想するだろう。





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