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第十話 グレン・トリスタン side ②
第一騎士団団長であるギャンゴー侯爵は言うまでもなくダクソンの父親であり、昔から俺に剣の稽古を付けてくれた。
現在五十代半ばだが、その剣の腕は少しも衰えを見せていない。
父上と同世代ということもあってか、俺に対しては息子のように思っているらしい。
そのギャンゴー侯爵だが俺の言葉を聞くと何故か苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「それは本気でおっしゃっておられるのですか?」
「無論本気だ」
そう返すとギャンゴー侯爵は更に厳しい顔になった。
「なげかわしい。次代の国王ともあられる御方が何と浅慮なことか。ルーベンス公爵家は長年この王国に忠義を捧げて来た家柄ですぞ。その当主と令息令嬢の捕縛など、一体何を考えておられるのですか」
このままいくと説教される一択しかないので、慌ててその言葉の先を遮る。
「うるさい。大体何が忠義だ。あの家はとんだ逆臣だ」
そう言ってこれまで溜まっていた鬱憤を晴らすようにあの女が学園でマリーにしてきた悪行を説明してやる。
これだけ言えば納得するだろう。
「……という訳で婚約破棄の宣言をした」
話を聞き終わるとギャンゴー侯爵はがっくりと項垂れた。
あの大広間にはギャンゴー侯爵はいなかったらしい。
まああんまり舞踏会には顔を出さない方だからな。
そんなことをのんびりと思っていると低い声がした。
「何ということを」
予想と違うな。
ここは俺の言葉に激しく同意して『そのような者は我が剣の錆にしてくれましょうぞ!!』とか叫ぶところじゃないのか?
「何故そのような結論になるのですか。ルーベンス公爵令嬢の評判は聞き及んでおりますが、令嬢としての作法は一級品だと聞いております」
――学園での行為は本当にルーベンス公爵令嬢の仕業ですかな。
強い眼差しで射抜かれて、一瞬気圧されたがすぐに立ち直る。
あのマリーが嘘を言うはずなんてないじゃないか。
「ああ。そうだ。学園でユーフィリアはマリーを苛めていたんだ」
間違いない、と付け加えるとギャンゴー侯爵は考え込むように顎に手を当てた。
「それはどなたの調査によるものでしょうか?」
「調査も何もマリーがそう言っているんだ。間違いなどないだろう」
胸を張って言うとギャンゴー侯爵はため息をついた。
「……教育係、いや教師達は何をしていたのか。とにかくこのギャンゴー侯爵、第一騎士団団長としてお答えいたします。先ほどの有り得ないご命令には従えません」
――では失礼させていただきます。
きびきびとした動作で退室して行くギャンゴー侯爵を呼び止めようとしたがすでに遅く、ただ扉の閉まる音だけが室内に響いた。
何故だ!! 俺は正しい命令を下したはずなのに!!
父上達が帰国したらギャンゴー侯爵には厳罰を下すように告げておかなければ。
第二騎士団の団長はギャンゴー侯爵を慕っていると聞くし、こうなると――
俺は壁際に控えていた侍従に命じた。
「第三騎士団長ガールシャ侯爵を呼べ」
ガールシャ侯爵はギャンゴー侯爵とは違って俺の命令であれば何でも聞く男だ。
そう間を置かずにガールシャ侯爵が入室してきた。
「第三騎士団団長セイン・ガールシャ、お召しにより罷り越しましてございます」
ガールシャ侯爵はギャンゴー侯爵より若く、三十代半ばだと聞く。
武芸はギャンゴー侯爵よりやや劣るが、統率の高さは第一騎士団にも勝るとも劣らないという噂だ。
やっと使えそうな駒が来たな。
「来たか。命令だ。ルーベンス公爵家の当主と令息令嬢を拘束しろ」
生死は問わない。
そう付け加えるとガールシャ侯爵は少し眉を上げたが特に反論はしなかった。
そうだよな。家臣というものはこうでなくては。
「畏まりまして」
ガールシャ侯爵が退室すると俺はほっとして背もたれに凭れた。
全く。命令を下すだけでこんなに疲れるとはな。
後でマリーを呼んで茶会にでもするか。
現在五十代半ばだが、その剣の腕は少しも衰えを見せていない。
父上と同世代ということもあってか、俺に対しては息子のように思っているらしい。
そのギャンゴー侯爵だが俺の言葉を聞くと何故か苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「それは本気でおっしゃっておられるのですか?」
「無論本気だ」
そう返すとギャンゴー侯爵は更に厳しい顔になった。
「なげかわしい。次代の国王ともあられる御方が何と浅慮なことか。ルーベンス公爵家は長年この王国に忠義を捧げて来た家柄ですぞ。その当主と令息令嬢の捕縛など、一体何を考えておられるのですか」
このままいくと説教される一択しかないので、慌ててその言葉の先を遮る。
「うるさい。大体何が忠義だ。あの家はとんだ逆臣だ」
そう言ってこれまで溜まっていた鬱憤を晴らすようにあの女が学園でマリーにしてきた悪行を説明してやる。
これだけ言えば納得するだろう。
「……という訳で婚約破棄の宣言をした」
話を聞き終わるとギャンゴー侯爵はがっくりと項垂れた。
あの大広間にはギャンゴー侯爵はいなかったらしい。
まああんまり舞踏会には顔を出さない方だからな。
そんなことをのんびりと思っていると低い声がした。
「何ということを」
予想と違うな。
ここは俺の言葉に激しく同意して『そのような者は我が剣の錆にしてくれましょうぞ!!』とか叫ぶところじゃないのか?
「何故そのような結論になるのですか。ルーベンス公爵令嬢の評判は聞き及んでおりますが、令嬢としての作法は一級品だと聞いております」
――学園での行為は本当にルーベンス公爵令嬢の仕業ですかな。
強い眼差しで射抜かれて、一瞬気圧されたがすぐに立ち直る。
あのマリーが嘘を言うはずなんてないじゃないか。
「ああ。そうだ。学園でユーフィリアはマリーを苛めていたんだ」
間違いない、と付け加えるとギャンゴー侯爵は考え込むように顎に手を当てた。
「それはどなたの調査によるものでしょうか?」
「調査も何もマリーがそう言っているんだ。間違いなどないだろう」
胸を張って言うとギャンゴー侯爵はため息をついた。
「……教育係、いや教師達は何をしていたのか。とにかくこのギャンゴー侯爵、第一騎士団団長としてお答えいたします。先ほどの有り得ないご命令には従えません」
――では失礼させていただきます。
きびきびとした動作で退室して行くギャンゴー侯爵を呼び止めようとしたがすでに遅く、ただ扉の閉まる音だけが室内に響いた。
何故だ!! 俺は正しい命令を下したはずなのに!!
父上達が帰国したらギャンゴー侯爵には厳罰を下すように告げておかなければ。
第二騎士団の団長はギャンゴー侯爵を慕っていると聞くし、こうなると――
俺は壁際に控えていた侍従に命じた。
「第三騎士団長ガールシャ侯爵を呼べ」
ガールシャ侯爵はギャンゴー侯爵とは違って俺の命令であれば何でも聞く男だ。
そう間を置かずにガールシャ侯爵が入室してきた。
「第三騎士団団長セイン・ガールシャ、お召しにより罷り越しましてございます」
ガールシャ侯爵はギャンゴー侯爵より若く、三十代半ばだと聞く。
武芸はギャンゴー侯爵よりやや劣るが、統率の高さは第一騎士団にも勝るとも劣らないという噂だ。
やっと使えそうな駒が来たな。
「来たか。命令だ。ルーベンス公爵家の当主と令息令嬢を拘束しろ」
生死は問わない。
そう付け加えるとガールシャ侯爵は少し眉を上げたが特に反論はしなかった。
そうだよな。家臣というものはこうでなくては。
「畏まりまして」
ガールシャ侯爵が退室すると俺はほっとして背もたれに凭れた。
全く。命令を下すだけでこんなに疲れるとはな。
後でマリーを呼んで茶会にでもするか。
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