百戦錬磨は好きすぎて押せない

紗々

文字の大きさ
10 / 46

10.

しおりを挟む
「………………はぁ」

 バスタブの中でもう何度目になるか分からない溜息をつく。大人気ない態度のままで帰ってきてしまった。だって……本当にびっくりしたんだもん。すごい怖かったんだ。そりゃ響さんにとっては、ああいう流れは日常茶飯事なんだろうけど、ぼ、僕は…………

「………………はぁーーー…」

 でもさすがに申し訳なかったかな。響さんはあんなに一生懸命謝ってくれていたのに。もう二度と絶対にしないって約束してくれたのに。僕は最後まで「もういいですよ」の一言も言わずに帰ってきた。なんて子どもっぽいんだ。

(…あんな響さん、初めて見たな)

 や、いきなり男の顔で迫ってこられたのもそうだけど。
 あんなに取り乱して、必死になって謝ってくれて。驚いたし傷付いたけど、…あの謝罪には、誠意を感じた。

(……今度会う時には、ちゃんといつもどおりでいよう。もうさすがにこれ以上引っ張っちゃダメだ)

 僕は温かいお風呂に長く浸かり、心も体もゆっくりとほぐしながら、そう思っていた。……でもそれにしても、落ち着いて思い返すとなんかすごいドキドキするな……。一方的ではあったけど、僕あんなカッコいい人とキスしちゃったんだ。…なんかすごい。

(……ねぇ、大輝さん。僕ついにしちゃったよ、ファーストキス)


 もう彼にはきっと、何も関係ないけれど。





「あぁぁぁぁぁ……………う゛ぅぅぅぅ……」

 ヨロヨロと部屋に戻るやいなや俺は床のラグの上に倒れ込んだ。

(…………やって……しまった…………)

 人生最大の大失敗だ。かつてこれほどの過ちを犯したことがあっただろうか。俺はそこそこ順風満帆に生きてきた。そこそこ恵まれた家庭環境で育ち、勉強もスポーツもできたし、人間関係も女関係も問題なくやってきた。昔から本当に要領が良かった。上手いこと業界最大手の会社に就職した後も、高いコミュ力と頭の回転の速さで同期たちを一気に出し抜いた。

 そんな俺が。

 あろうことか、美晴に溺れるあまりに空気を読み間違えて襲ってしまった。
 いや、きっちり分かっていたはずだ。頭の一部分では絶対に行ってはダメだと警報が鳴っていたのに、それでも一縷の望みにかけて、案外イケるんじゃね?みたいな…………美晴のことが好きすぎて、触りたくてたまらなくて、一瞬の空気感を自分に都合の良いように解釈した……まるで恋愛経験に乏しいこじらせた童貞のオッサンのように…………ほんのちょっとした間を、…………都合良く……

「あぁぁぁぁ!!止めろ!!馬鹿だ俺は!!」

 脳内一人反省会に耐えきれずのたうち回る。ちくしょう。最悪だ。せっかくこんなに仲良くなってきていたのに。ゼロからのスタートどころか、一気にマイナスラインに急降下しちまった。

(……しかも…………何より最悪なのは……)

 許してほしいあまりに、俺は美晴に言ってしまったんだ。


『美晴、本当に、本当に、マジでごめん。ごめんなさい。もう二度と、絶対にこんなことしねぇから。約束するから』

『もう絶対に、一生、何があっても、手は出しません』

『酒も性欲も絡まない、清く正しい関係だ。な?』


「~~~~~~~っ!!クッソォォォッ!!」

 何を言ってるんだ俺は!!何を!!言ってるんだ馬鹿野郎!!もうこれ絶対ダメじゃねーか!もうこれで完全に進めなくなっちまったじゃねーか!!なんだよこれ!!
 俺は頭を抱えて呻きながら転がりまわった。あぁぁ……マジでやり直したい……。時間を戻してくれ、誰か…………金ならいくらでも払うから…………!



 こうして苦しみのたうち回り、週末いっぱいかけてたっぷり落ち込んだ俺は、月曜の朝どうにか気持ちを切り替えた。
 もうしょうがねぇ。やっちまったもんはなかったことにはできない。とにかく、これからできるだけ早くいつもの話しやすい優しいお兄さんポジションに戻り(あいつにとって俺がそんなポジションなのかどうかは分からんが)、そして長い時間をかけつつ徐々に徐々に、焦らずゆっくり関係を進めていくしかねぇ。…俺の我慢がどこまで持つのか不安なところだが、美晴を失うよりは欲求不満に悶えている方がまだマシだ。

「はーーー……。……よし、行くか」

 身支度を整え、部屋を出る。仕事は仕事だ。集中しろ。



 午前中いっぱい仕事に没頭し、昼の休憩中に食事をした店の中からおそるおそる美晴にラインを送ってみる。

(あくまで何気なく、さり気なく……、下心は一切なく……)


『お疲れー。土曜はごめんな。今日飯行ける?』


 心臓がバクバクする。判決を言い渡されるのを待つ気分だ。……落ち着け、俺。
 スマホを握りしめたまま、返信を待つ。

 ピロ…

 音が鳴った瞬間バッと画面を見ると、


『お疲れさまです。今日は無理です。ごめんなさい』


「~~~~~っ!!」

 バタン!とテーブルの上に突っ伏し、呻き声を堪える。

 え…………?!これ、どっちだ……?!本当に用事があるのか?それとも、や、やっぱり、……俺と会うのが嫌なのか…………

「どっちだよもう…………泣きそう…」

 外なのに、周りに人がたくさんいるのに、俺はテーブルに突っ伏したまま大きく溜息をつき頭を抱えた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが… *オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ *『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

【本編完結】黒歴史の初恋から逃げられない

ゆきりんご
BL
同性の幼馴染である美也に「僕とケッコンしよう」と告げた過去を持つ志悠。しかし小学生の時に「男が男を好きになるなんておかしい」と言われ、いじめにあう。美也に迷惑をかけないように距離を置くことにした。高校は別々になるように家から離れたところを選んだが、同じ高校に進学してしまった。それでもどうにか距離を置こうとする志悠だったが、美也の所属するバレーボール部のマネージャーになってしまう。 部員とマネージャーの、すれ違いじれじれラブ。

男同士で番だなんてあってたまるかよ

だいたい石田
BL
石堂徹は、大学の授業中に居眠りをしていた。目覚めたら見知らぬ場所で、隣に寝ていた男にキスをされる。茫然とする徹に男は告げる。「お前は俺の番だ。」と。 ――男同士で番だなんてあってたまるかよ!!! ※R描写がメインのお話となります。 この作品は、ムーンライト、ピクシブにて別HNにて投稿しています。 毎日21時に更新されます。8話で完結します。 2019年12月18日追記 カテゴリを「恋愛」から「BL」に変更いたしました。 カテゴリを間違えてすみませんでした。 ご指摘ありがとうございました。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...