百戦錬磨は好きすぎて押せない

紗々

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「今夜は楽しかった!ありがとな響。会えてよかったよ、美晴。…元気な顔が見られて、安心した」
「…………こっ、……こちらこそ……」
「じゃーな」

(早く帰れよ)

 バーの外に出て、別れの挨拶をしようとする大輝を俺はさっさと追い払おうとする。

「……ごめんな、美晴。疲れただろう?無神経だったな、俺。すまなかった。また会えて、嬉しくてつい、な」
「…………っ、」

(だから早く行けって!!)

「……元気にしてるんだぞ、美晴。…あの時も今も、俺はお前の幸せを願ってるから」
「……………………。」

  優しげに美晴を見つめる大輝。泣きそうな顔で俯く美晴。

(そしてマジで面白くない俺。とっとと行け!!)

「……。…何か言うことあるか?」
「………………。」

(ねぇよ!!美晴はてめぇに言いたいことなんか何もねぇ!!消えろデカ男!!)

 だけど、美晴の唇が少し震えるように開いた。

「……ん?どした?」
「…………い、…………言いたいこと、あります」
「?……うん。何だ?」
「…………だ、大輝さんは、……言いましたよね、あの時、僕に」

 美晴の目から涙がボロボロと零れ落ちる。俺もデカ男もピタリと固まり、声を絞り出す美晴を見つめた。

「ほっ…………本気になる前に、別れよう、って…………。ぼっ、僕はっ、…………あ、あの時、言いたかった…………!………………っ、」
「…………美晴…」
「……っく、………………ぼ、……僕は!…とっくにあなたに本気でした!!」
「……っ!」

(…………っ!)

 今にも崩れ落ちそうなほどにか細く震えながらそれだけ叫ぶと、美晴は大輝から目を逸らして駆けだした。

「美晴っ!!」
「てめぇは来るんじゃねぇっ!!」
「──っ!」

 俺は後を追おうとした大輝の胸の辺りを拳でドンッと殴ると、そのまま猛ダッシュで美晴を追いかけた。こんな時に独りになんてできない。

「…………っ!美晴っ!」

 案の定すぐに追いついた。道行く人々が驚いたようにこちらを見ている。よろめきながら顔中をびしょびしょにして泣きながら歩く美晴と、それを追いかけ抱き寄せる俺。

「……美晴」
「…………ふっ…………ぅ、……うぅぅっ……」

 涙は止まることなく零れ落ちる。今にも消えてなくなりそうに儚い美晴。…よかった、車で連れて来ておいて。こいつの前ではもう酒は飲まないと決めていたから今日も俺がアパートまで車で迎えに行ったんだ。幸い駐車した場所までは遠くなかった。




「……ほら、美晴。飲めよ」
「…………。ずっ、…………ずびばぜ……」

(……“すみません”、かな)

 車まで支えて連れて来て助手席に座らせると、俺は自販機で温かいココアを買ってきて美晴に渡した。美晴は大事そうにココアを両手で握りしめるとチビチビ飲み始める。

「…………。」

 俺は黙って美晴の気持ちが落ち着くのを待つ。……なんとなく、勝手にこいつはいろいろ未経験なんだろうと決めつけていたけど、……こんなに心を乱されるほどの恋愛をしたことがあるんだな。
 
「……ごめんなさい、響さん。…ご迷惑かけました」

 美晴がしょんぼりした顔で謝る。

「何がだよ。別に何も迷惑じゃねーよ。そんなこと気にすんな」
「…………。」
「……そんなに好きだったのか」

 あいつのことを。

「……。」

 誰かに吐き出したかったのか。美晴はあの男のことをぽつりぽつりと話し始めた。

「……大学の講義の後、話しかけた時は本当に、深い意味はなかったんです。講義の内容について、少し質問したくて…。大輝さんは博識で、世界が広くて、誰に対しても公平で、…優しくて…」
「……。」
「会話の中の何がきっかけだったか、休日に食事に行くことになったんです。そこでいろんな話をして……。大輝さんは人生経験が豊富で、話を聞くのが楽しかった。そのうち、…一緒に旅行にも連れて行ってくれるようになって…知らない世界をたくさん見せてくれた」
「……。」
「気付いたらもう、…………どうしようもないくらい、大好きになってしまってた……」
「……。」

 ズキ。

 確かな痛みを伴って、心が軋んだ。聞きたくない言葉だったけれど、…これはまごうことなき美晴の過去なんだ。

「僕の勘違いだったのかな。……分からない。大輝さんもきっと同じ気持ちだと、僕は信じていたのに……。ある日突然、……本当に、突然……。………………ほ…………本気になる前に…………わ、別れよう……って……」
「………………。」
「ふ…………っ」

 両手でココアを強く握りしめたまま、その手を震わせて、美晴はまた泣きだした。

「……ぁ……あんなに、可愛いって…………お前が、大切だ……って…………言ってくれていたのに……どうして、なんだろう…………」
「……。」
「……ふっ…………ぼ、…僕は、もう、い、……一生…………こっ、…この人、と、……いっしょに、……いる、んだって…………う……うぅぅっ……」

 全身で悲しみを訴えながら震える美晴はあまりにも儚げで可哀相で、見ていられなくて。

 俺は美晴を腕の中に抱きしめた。




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