百戦錬磨は好きすぎて押せない

紗々

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 それからしばらくは多忙な日々が続き、なかなか美晴と会う時間がとれなかった。平日は帰りが遅くなり、週末には会社の先輩の披露宴があった。

(クソ、こんな時に限ってこうやって時間がとれないんだよなぁ……)

 律儀に二次会まで出席し、何人もの女に連絡先を聞かれては意地でも教えず、タクシーでようやくマンション前まで帰ってきた時にはすでに外は真っ暗だった。

(さて、と…。そろそろゆっくりあいつの誕生日祝いの計画を練るか…)

 そんなことを考えながら、エントランスに向かっていた、その時。

「響クン!」

 ……ん?
 ふいに名前を呼ばれて顔を上げると、女がこっちに向かって走ってくる。

(……?……あー、あいつか…)

 暗いトーンの茶色のサラサラの髪。ピンク色のスプリングコートをヒラヒラさせながら嬉しそうな顔で駆け寄ってくるのは、あの受付嬢の穂香だ。

(……こういうことをする女が嫌いなんだよなぁ俺は…)

 一気に嫌な気分になる。自分のペースで会う会わないを決めたい俺は、突然アポなしで相手から家に押しかけられるというのが心底不愉快だった。もちろんこれが美晴なら話は別だ。むしろ24時間365日いつでも押しかけてきてほしい。

(……まぁ来た以上は仕方ねぇ。できるだけ穏便に帰ってもら…)

「────っ!」

 目の前まで来た穂香はそのまま俺に抱きつくといきなり唇を重ねてきた。ドンッ、と衝撃がきて後ろに少しよろけ、咄嗟に足を踏ん張る。

「…………。」
「……っん、……」

(……ウザ。とっとと離れろよ、この女……)

 自分から離れるのを待ってみたが、俺の首にしっかりと両腕を回していて強く抱きしめたままだ。唇も胸も俺にグイグイ押し付けてくる。揉めるのは面倒で好きじゃないが、離れる気がないなら仕方ない。俺は穂香の腕をそっと掴んで、ゆっくり力を込めてどうにか引き剥がした。

「あん……っ、もー」

(……なんだよこいつ。欲求不満かよ)

 俺の方がよっぽど欲求不満だわ。でもお前とはもうヤらねーよ。

「……何?急に。びっくりするじゃん」

 できるだけ穏便に、と思ってはいたが予想以上に冷たい声が出た。

「そんな冷たい言い方しないで。響クン、何度ラインしても全然返事ないんだもん。寂しくってつい会いに来ちゃったよ」

 穂香は困ったように眉を下げ、ちょこんと小首をかしげるようにしながら上目遣いでそう言った。

(なんだそのあざとい目は。全然可愛くねーよ)

 それなりに可愛く見えていた時期もあった。整った顔立ちでグイグイアピールされて何度も寝たが、美晴を知った今この女に少しも魅力を感じない。

「……ね、上がってもいい?お部屋。久しぶりに響クンといちゃいちゃしたいなぁ」
「……。」

 正直に、本当に正直に言えば、たしかに溜まりに溜まっているのでヤるだけならヤりたい。本当は。でもこの女はもうダメだ。家まで押しかけてくるような女は、のめり込まれたら後が面倒だ。
 ……そもそも、他の女とヤるのは美晴に対してものすごく後ろめたい。……付き合ってないけど。全然恋人ではないけど。
 でもなんか、俺に対して全く何の感情もないわけではなさそうな美晴を裏切るようなことはしたくない。

「悪いけど帰ってくれ。忙しいし、そんな気分になれない。じゃあな」
「っ!え、…えぇ!そんなぁ」

 俺は穂香を放置してエントランスに向かう。穂香は諦めずに後ろからカツカツカツカツ音を鳴らしながら追ってくる。

「なんでぇ?響クン!せっかく久々に会えたのにぃ~」
「……好きなヤツができたんだよ。もう会わねぇから、お前とは」
「えっ!……そ、……そんなぁ……」

 振り返りもせずにマンションの前の段差をスタスタ上がる。エントランスの自動ドアが開いた時、穂香が大きな声で言った。

「そんなのひどいよー!せめて最後にエッチしようよぉー」

 露骨に誘惑してくんじゃねーよ!!


 
 だがあの女のおかげなのか、その夜は美晴がマンションまで押しかけてきて、玄関を開けると俺に抱きついてくるという最高に幸せな夢を見た。




『みっ!……美晴っ……!……どうしたんだよ、急に』
『……急じゃダメ?響さん。…急に会いに来たら、僕のこと、嫌いになる?』

 ……ムラッ。

『……なるわけねーだろ、バカ。嬉しいよ、お前の顔が見れるのは、いつでも』
『……響、さん……』

 玄関先で熱い口づけを交わす俺たち。美晴は両腕をギュッと俺の首に巻き付けて離そうとしない。くちゅっ、ちゅっ…、と、舌が絡まり合いいやらしい音がする。俺の頭は一瞬で滾り、美晴の体を両手でしっかりと引き寄せながらさらに深くを求める。

『んっ……!…ふ、…………っ、はぁっ、はぁっ、…………あっ!ひ、……ひびき、さん……っ』

 しばらくして唇が離れると、俺は欲望まま美晴の首筋に唇を押し当て、噛みつくような激しい愛撫を繰り返す。

『あっ!……あ、……あぁんっ!…………はぁっ、はぁっ……』

 ガクガクと足を震わせながら力が抜けていく美晴の腰をグイッとさらに引き寄せ、固くなった自分のモノを美晴にグリグリと押し付ける。美晴は縋り付くように必死に俺の背中に手を回している。

『ひっ…………ひびき、さぁ…ん…』
『……美晴……、お前のも固くなってんじゃねぇか…。……ベッド行こうぜ』
『うんっ……、うんっ……!いっぱい……いっぱい…気持ちよくして、響さん……!』

 あぁ…………美晴…………っ!!





「……………………。…………ここで目が覚めんのかよ……嘘だろ…………」

 起きてしまった俺は夢であったことに気付き朝からガックリと肩を落とした。しっかり勃ち上がってしまったモノを処理するために、俺はヨロヨロと起き上がりバスルームに向かったのだった。




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