百戦錬磨は好きすぎて押せない

紗々

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「うわぁ…………っ!!き、きれーーーい……」

 美晴の目がいつも以上にキラキラと輝き潤んでいる。

 高床式の水上ヴィラからは見渡す限りの美しい碧のグラデーション。たしかになかなかお目にかかれない光景だ。別世界だな。美晴は呆然としたようにいつまでもその青く広がった海を見つめている。

「………………信じられない…………こんな景色があるなんて…………。…すごいですね!響さん!見てください!」
「見てるっつーの。すげぇな。もう帰りたくなくなるわ」

 ついにやって来た大型連休。俺たちは予定通りにタヒチのボラボラ島に上陸した。十数時間のフライトの後、ようやく辿り着いた水上ヴィラの何もかもに美晴は感嘆の声を上げている。

「プッ!プールだ!すごいっ!!ここプールついてますよ響さん!!はっ、入ります?入っときます?とりあえず…」
「落ち着け。プールは逃げねぇ。ひとまず荷物解こうぜ」
「プールに入りながらこの海を眺められるなんて!!すごい!!」
「分かったから」

 子どものようにはしゃぎまわる美晴。いつでもどこでも全力で喜んでくれて本当に可愛いヤツだ。連れて来た甲斐がある。

 カシャッ。

「っ?!……な、何を撮ってるんですか?響さん…」
「お前に決まってんだろ。ヴィラではしゃぎまくる可愛すぎるお前を撮ってんだよ。ほら、あの名物の山をバックに立て、美晴」
「えっ……えぇ……」

 海と空となんか名物の山をバックにはにかんで立つ美晴。やべぇ。可愛すぎるわ。

 カシャッ、カシャッ、……カシャカシャカシャカシャカシャカシャ…

「ち、ちょっともう……もういいでしょ、響さん…。僕ばっかり撮らないで、せっかくですからツーショット撮ってくださいよ」

 あぁ、それもそうだな。

 俺は美晴の隣に立って肩を抱き寄せると自分たちにスマホを向けた。

 カシャッ。

「……ん、いい感じに撮れたぞ。ほら」
「……。」
「なんでそんな真っ赤になってんだよお前」
「だ、だって、なんか、……急にくっついてきたから……ビックリして……」
「……。」

 なんだこいつ。可愛すぎか。
 俺はスマホをポケットにしまうと美晴の顎を持ち上げてキスをした。

「……っ、」

 あぁ…………離れがたい。こうして触れ合っているとつい今夜のことを期待してムラムラしてしまう。

「…………んっ……!」

 美晴の体をしっかりと抱き寄せて何度もキスを繰り返していると、美晴が俺の胸をトントンと叩いて抵抗する。

「……なんだよ」
「だっ、ダメですよ響さん!」
「何がだよ」
「なんかしようとしてるでしょ!」
「………………してねぇよ」
「何ですかその間は!!出かけましょうよ!早く!せっかく来たんですから」

 せっかく来たからこそいつも以上にいちゃいちゃしてぇんじゃねぇか。分かってないなぁこいつは。
 だが美晴の気持ちもよく分かるので、俺は続きを諦めて出かける準備をした。




「きゃーっ!!すっごい綺麗!!どうしよう!!響さん見て!!ほら、ハート型の島ですよ!本当に見える!!」
「……おお」

 カシャカシャカシャカシャ…

 まずはセスナ機での遊覧飛行。美晴は頬を紅潮させて窓から下を見下ろし絶叫している。可愛い。最高だ。せっかくだからタヒチでしか見られない貴重な美晴の写真をめちゃくちゃ撮って撮って撮りまくってやる。ハネムーナーの聖地と呼ばれるこの島で、俺は俺なりにこの旅を最高に楽しんでいた。


 遊覧飛行が終わると、一旦ビーチのそばにあるレストランで食事をする。新鮮な魚貝や野菜のプレートやデザートにはしゃぐ美晴をまたパシャパシャ撮りまくり、その後ようやく海に入った。

「わぁっ!見て!響さん!魚がたくさんついてきますよ!!可愛いっ!!」
「おお」

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

「んもー、響さんっ!ちゃんと見てます?」
「ずっと見てるわ。すげぇ可愛い、水着姿の美晴も。カラフルな魚にはしゃぐ美晴も。最高だなタヒチ」
「…ま、またそんなことを…」

 天使のような笑顔で魚と戯れる美晴。あぁ、来てよかった……。山ほど写真撮って帰ってマンションの部屋という部屋に美晴の写真を貼りまくりたい。デカいサイズでびっしりと。どこ見ても美晴、みたいな。……だけど美晴が見たらドン引きするだろうな。ちっ。止めとくべきか。




 そうやって一日中たっぷり遊んで満喫した後、高台に用意してもらった席からサンセットを眺めた。二人でシャンパンで乾杯する。

「…………すごく綺麗……。息が止まりそう……」
「……そうだな」

 濃く暮れていく島の風景に、神々しいほどの存在感を放ちながらゆっくりと沈んでいく夕日。美晴の目が潤んでいる。

「……連れて来てくれてありがとう、響さん。……僕今、すっごく幸せです」
「……俺もだよ、美晴。…何度でも連れて来てやるよ。お前がそんなに喜んでくれるなら」
「ひっ、……ひびきさん……」
「俺たちの初旅行の思い出の地だからな、ここ。忘れるなよ」
「ふふ。はい。……まだ初日なのに、そんなこと言われるとなんだかしんみりしちゃいます。……ところで、」

 美晴は今気付いたかのように俺の手元をじっと見る。

「……お酒」
「ん?」
「……僕の前ではもうお酒飲まないんじゃなかったっけ?」
 
 美晴がからかうように首を傾けて笑いながら言う。

「ばか。もういいんだよ。……だって俺、もうお前に手ぇ出していいんだからよ」
「…………っ!」
「……そうだろ?」
「………………あ、……あの、…………まぁ、……はい…………」

 美晴はもじもじしながら俯いた。夕日に照らされて赤い頬がますます色づく。伏し目がちのその顔がすごく綺麗で、急にどうしようもなく美晴への愛おしさが胸に溢れてきた。

「……部屋に戻ろう、美晴」

 俺が促すと、美晴は一瞬ピクッと肩を震わせ、そのままコクリと頷いた。






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