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リベンジ!!クリスマス☆①
しおりを挟む「……来た来た。ついにこの日がな」
洗面台の鏡の前で髪を整えながら、俺は一人ほくそ笑んだ。
ようやく来た。待ち望んだぞ、この日を。
一年前の大失態を、あのトラウマの夜を、今日で挽回する。そして美晴のクリスマスの思い出を幸せなものに塗り替えてやるんだ。俺は何ヶ月も前から、今日この日をどう過ごすべきか真剣に考え抜いていた。
これが平日だったらな……。わざわざあの男の手を借りる必要もなかったんだがな……。しかし今日は日曜日。美晴が休みで家にいる以上、どうにかして午前中から外に出て行っててもらわないと、この俺が考え抜いた計画が実行できないんだ。だからまぁ、仕方ない。今回だけは特別だ。
本当に嫌だったが……、ここを避けては通れない。
幸いにもよく晴れて、寝室にも朝から気持ちの良い光が差し込んでいた。美晴はせっせと掃除機をかけてくれている。さっきまで美晴が用意してくれた朝食を二人で食べていたところだ。
「…おい、もういいって美晴。出かける準備しろよ」
そわそわした雰囲気を出さないように気を付けながら、俺はさり気なく美晴に声をかけた。
「あ、はい。……本当にいいんですか?響さん」
「いいっつってんだろ。どうせ夕方までには合流するんだからさ。せっかくのアイツの気遣いなんだから、楽しんでこいよ」
「……んー……。はい…」
まだ申し訳なさそうな顔をしている。そんなに気にしなくていいんだっつの。俺の差し金なんだから。
その時、タイミングよくインターホンが鳴った。
「ほら、来たぞ。準備しろ」
「はぁい」
まだ納得していないような顔だが、それでも大人しく俺に言われるがまま部屋に戻ってクローゼットからコートを取り出している。俺はそそくさと玄関の外に出てドアを閉め、ヤツを待ち構えた。
しばらくするとエレベーターホールの方から、アイツが歩いてきた。いつものように。
「おーーい!!」
「うるせぇな!!見えてるの俺しかいねぇだろうが!わざわざデカい声出すな!!」
「はっはっ!悪いな、つい癖でな!」
一ノ瀬大輝は朝から無駄に爽やかに笑いながら近付いてくる。第一声からつい大声を出してしまったが、今日はこっちがお願いした立場だ。しかもこのためだけにわざわざ一時帰国までしてくれたんだ。もっとしおらしくせねば。
「……今日は悪いな、朝から。助かるよ」
「ははは!お前たちの幸せなクリスマスイブに一役買えるなら喜んでこれぐらい手伝うさ!」
「……。」
(めっちゃいいヤツだな、こいつ…)
うるせぇな!!とか怒鳴ったことを反省し、素直に礼を言う。
「ありがとな。……くれぐれも、口を滑らすなよ」
「分かってる。任せといてくれ!」
「……。美晴に変な真似するなよ」
「あっははははは」
「あっははじゃねぇ!!ちゃんと返事をしろ!!いいな?!美晴に変な真似するんじゃねーぞ!!」
「分かってるって。お前は本当に面白いなぁ」
結局また怒鳴ってしまった。
その時、俺の後ろで玄関のドアが控えめに開いた。美晴がちょこんと顔を覗かせる。
「おー、おはよう美晴!」
美晴の顔を見た途端、大輝が爽やかに片手を上げて声をかけた。
「おはようございます、大輝さん。今日はありがとうございます」
「あぁ、気にするな!たまたま帰国したタイミングでチケットを2枚もらってな。たまたま響に声をかけたら午前中はたまたま仕事が入ってるって言うだろ?だからたまたま予定が空いてた俺が代わりに連れて行ってやろうって話になっただけだ。この美晴の連れ出しに深い意味はまったくない!」
「……………………。」
……ちょっと待て。こいつ……大丈夫か?
あまりにも演技が下手すぎて一気に不安になる。これが三十路の男のごまかし方かよ。明らかに不自然だろ。
「ええ、そうみたいですね。響さんから聞きました。お昼まで大輝さんが遊んでくれるって。ふふ」
「ああ!いろいろな偶然が本当にたまたま重なったからな!せっかくだから映画の後に美晴の好きなものでも食べに行こう」
「はいっ!ありがとうございます」
「……………………。」
……よかった。美晴が鈍感で。
いってきまぁーす響さーん、と可愛らしく手を振りながら大輝と共にエレベーターホールに消えていった美晴を見送った後、俺はすぐさまスマホを取り出した。
「……あ、もしもし、俺。…うん、今出た。頼むわ」
******************
「仕事はどうだ?順調か?」
「あ、はい、まぁ。普通に…。大輝さんはどうですか?今日って前に街で会った時以来の帰国なんですよね?」
「ああ、そうなんだ。しかも1泊だけな。俺の方も順調にやってるよ。今度アメリカの企業2社と流通契約するんだ」
「へぇ」
大輝さんに連れて来てもらって映画を見た後、カジュアルなカフェでランチを食べることになった。お互いの近況報告をしながら、僕はぼんやりと響さんのことを考えていた。
(日曜日に仕事が入るのって珍しいな。まぁ響さんはいつも忙しそうだけど…、電話もしょっちゅうかかってきてるし。……早く会いたいなぁ)
一緒に暮らしてて、毎晩同じベッドで一緒に眠っているというのに、少しの間離れているだけでも僕はすぐに響さんに会いたくなる。しかも、今日はクリスマスイブ。特別な日はなおさら、響さんと一緒に過ごしたい…。
(響さんと過ごせる時間までせっかく大輝さんが相手をしてくれてるっていうのに。僕ってば薄情だな……)
あまりにも失礼なことを考えてしまって申し訳なくて、慌てて大輝さんとの会話に集中しようとする。
(……それにしても……、ふふ、僕は目の前のこの人のことが大好きだった時期もあるはずなのに……。なんだか今となっては信じられないな)
もちろん、大輝さんのことは今でも素敵でいい人だと思ってるけど。
今はもう響さん以外の人なんて考えられない。
(人の気持ちって不思議だな……)
あの頃は大輝さんとの別れを引きずって、響さんに慰められながらあんなに泣いたこともあったのに。
今ではその響さんが僕の人生の全てになった。
(……会いたい)
「……美晴?」
「っ!」
し、しまった。また響さんのこと考えてた。
僕は慌てて返事をする。
「すっ、すみません……、ボーッとしちゃった」
「ははっ!早く来たらいいな、響」
「…………すみません」
お見通しだ。気まずいやら恥ずかしいやらで頬が火照る。ごまかすようにクリームパスタをフォークにクルクルする僕を見つめて、大輝さんが言った。
「……幸せそうだな、美晴」
「へっ?!……あ、は、はい…………おかげさまで……」
な、何を言ってるんだ僕は。
大輝さんは心底楽しそうにケラケラと笑っていた。
ランチを食べ終わっても響さんから連絡がないから、大輝さんがデザートまでご馳走してくれた。美味しいクレープシュゼットに舌鼓を打ちながら僕たちは楽しくお喋りした。
「あ、そうだ、大事なものを忘れてたよ。美晴、これ」
「えっ」
大輝さんはバッグから取り出したものを僕に差し出した。
「クリスマスプレゼント代わりの土産だ。響と二人で食べてくれ」
「えぇっ!す、すみません!僕何も用意してない…」
「ははは!いいんだそんなことは。急だったしな。こっちも別に大したものじゃない」
受け取った袋を覗いてみると、中にはいくつかの箱が入っていた。お菓子かな……?
「デーツとかチョコレートだ。美晴チョコレート好きだろ?」
「わぁ!ありがとうございます!はい、大好きです。ありがたくいただきます」
すごーい!ドバイのチョコだ。大輝さんは頬杖をついて僕を見ながら、
「もう手元に残るものを贈るわけにもいかないしな…」
とポツリと呟き、少し笑っていた。
その後少ししてようやく響さんから連絡が来た。僕は一気に浮き足立って大輝さんと一緒にカフェを出たのだった。
******************
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