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側にいられた3年間が終わったあとは、なかなか会う時間が作れずにもどかしい思いをする4年間が始まった。俺は慣れない社会人生活、というか芸能生活に馴染むのに必死だったし、最初の2年くらいは心の余裕が全然なかった。なかなか連絡できない時でも颯太は文句も言わずラインや電話で俺を励ましてくれていた。颯太は颯太で、大学で絵の勉強を真面目に頑張っていたみたいだ。時間を見つけては電話したり、数ヶ月に一度のペースで会ったりしながら互いに励まし合って過ごした。
3年目あたりからだいぶ状況が良くなってきた。我ながら信じられないが、ドラマやCMの仕事までバンバン入るようになり一気に収入も増えた。今やすっかり有名人だ。そろそろ颯太と一緒に広い部屋に暮らせるな、と鼻の下を伸ばし始めた頃だった。
『……今日もね、大学の女の子たちが樹の話してたよ。カッコいいよねって。大ファンなんだって…。ふふ…。すごいね』
「そうかよ。ありがてーな。まぁ俺はお前にだけモテてれば充分なんだけどな」
『……ふふ……』
「……颯太?……眠い?」
『……ん、大丈夫……』
「……ごめんな、夜中に電話して。最近全然話せてなかったらからさ…」
『ううん、……嬉しいよ。……ねぇ、樹』
「……ん?」
『……俺もね、樹の声、聞けたら、……ほんとに嬉しいんだ。……だから、かけてね……。じかん、……あるとき、は……』
「……ん、分かった。…今日はそろそろ切るな。…また、かけるから」
『…………ん』
「ゆっくり寝ろよ。……おやすみ、颯太」
『…………。…ん……おやすみ……』
眠そうな声が可愛いけど、キツそうでかわいそうになってそのままそっと通話を切った。10日ぶりに声を聞いた。こっちがごくたまに時間が空いても颯太が講義中だったりで、全然会えないし話せない。寂しくて、つい、かけてしまった…夜中の2時に……。ごめんな、颯太。
今が頑張り時だと分かっていても、颯太に会えない辛さだけは耐えがたい。……早く一緒に暮らしたいな。寝ててもいい。疲れて帰ってきたときに颯太の寝顔を見られたら、どんなに満たされるだろう。
颯太は実家から大学に通っていた。あと2年。2年経ってあいつが卒業して社会人になったら、ようやく一緒にいられるようになるんだ。俺はもう一緒に暮らしてもいいと思うんだけど、収入もないのに家を出るのは颯太の親が心配するのと、颯太自身も自分で金を稼ぎ出してからじゃないと一緒には暮らせないと頑なに言い張る。…それに関してはもう何も心配ねーんだけどな…。むしろ俺が養いたいぐらいなのに。…一生。
「……はーぁ……」
ベッドにゴロンと横になって溜息をつく。
……会いたい。
「新しいドラマ、立本樹が主演のやつ始まるよね」
「えーほんと?!また?すごい出るよね」
「早く見たいなー。ほんとカッコいいよね、立本樹」
「ねー。一度肉眼で見てみたいわ」
「なんかA高出身らしいよ」
「そうそう!結構身近にいたってことだよね?あんなイケメンが!」
「あー私もA高通いたかったわー」
「………………。」
ふふ。すごい人気だ。俺の恋人だなんて、皆が知ったら度肝を抜かれるだろうな。もちろん誰にも言わないけど。樹のイメージのためにも、そこは大事だ。やっぱり恋人がいるのといないのとでは若手俳優さんは人気が大きく違ってくるだろうし。しかも男の恋人っていうね。
俺は次の講義を受けるために教室の移動中だった。
大学での美術の講義は本当に楽しかった。入学当初は、卒業したら美術の教師になりたいと思っていたけれど、数年大学で学んでいるうちに、もっと知識を増やしたいし、技術もレベルアップしたいという思いが強くなっていった。
大きく羽ばたいた樹のことを考える。……樹はすごいな。幼なじみで、物理的な距離は離れた時期もあったけど、でも気持ちはずっと隣にいて、これからもずっと一緒に成長していくものだと思っていたのに。高校を出るやいなや、一人だけあっという間に手の届かないところに行ってしまったみたいだ。もちろん樹は今でも俺を恋人として特別に想ってくれているし、その気持ちを疑うことはないけれど。
樹の側にいたい。大学を卒業したら一緒に暮らそうって、樹も言ってくれてる。そうできたら幸せだろうな。こんな風に、会いたくて会いたくて寂しい思いを募らせることももうなくなるかもしれない。お互いが忙しい時期でも、同じ部屋に住んでいれば顔は見られるし、ほんの少しの時間でも触れ合うことができる。それって本当に満たされた生活だと思う。俺にとっての一番も、もちろん樹なのだから。
……でも、本当にそれでいいのかな……。
普通に大学を卒業して、普通に就職して、好きな人の帰りを家で待って、毎日同じベッドで眠る。充分幸せな人生だし、別に俺が樹のヒモになるってわけじゃない。俺だって社会人としてちゃんと仕事をするわけだから、何も引け目なんて感じなくていいんだと思う。
だけど、それだけでいいのかな。樹はこの数年、本当に頑張ってた。あんなに颯太颯太って俺にベッタリしたがる樹が、忙しすぎてほとんど連絡もとれない時期だってあった。その努力が実って、こんな有名人になって第一線でバリバリ仕事をしているんだ。
……俺も、もっと自分の力を伸ばしたい。一人の人間として、もっと大きくなりたい。
まだ漠然とだけれど、そんな風に考えるようになっていた。
3年目あたりからだいぶ状況が良くなってきた。我ながら信じられないが、ドラマやCMの仕事までバンバン入るようになり一気に収入も増えた。今やすっかり有名人だ。そろそろ颯太と一緒に広い部屋に暮らせるな、と鼻の下を伸ばし始めた頃だった。
『……今日もね、大学の女の子たちが樹の話してたよ。カッコいいよねって。大ファンなんだって…。ふふ…。すごいね』
「そうかよ。ありがてーな。まぁ俺はお前にだけモテてれば充分なんだけどな」
『……ふふ……』
「……颯太?……眠い?」
『……ん、大丈夫……』
「……ごめんな、夜中に電話して。最近全然話せてなかったらからさ…」
『ううん、……嬉しいよ。……ねぇ、樹』
「……ん?」
『……俺もね、樹の声、聞けたら、……ほんとに嬉しいんだ。……だから、かけてね……。じかん、……あるとき、は……』
「……ん、分かった。…今日はそろそろ切るな。…また、かけるから」
『…………ん』
「ゆっくり寝ろよ。……おやすみ、颯太」
『…………。…ん……おやすみ……』
眠そうな声が可愛いけど、キツそうでかわいそうになってそのままそっと通話を切った。10日ぶりに声を聞いた。こっちがごくたまに時間が空いても颯太が講義中だったりで、全然会えないし話せない。寂しくて、つい、かけてしまった…夜中の2時に……。ごめんな、颯太。
今が頑張り時だと分かっていても、颯太に会えない辛さだけは耐えがたい。……早く一緒に暮らしたいな。寝ててもいい。疲れて帰ってきたときに颯太の寝顔を見られたら、どんなに満たされるだろう。
颯太は実家から大学に通っていた。あと2年。2年経ってあいつが卒業して社会人になったら、ようやく一緒にいられるようになるんだ。俺はもう一緒に暮らしてもいいと思うんだけど、収入もないのに家を出るのは颯太の親が心配するのと、颯太自身も自分で金を稼ぎ出してからじゃないと一緒には暮らせないと頑なに言い張る。…それに関してはもう何も心配ねーんだけどな…。むしろ俺が養いたいぐらいなのに。…一生。
「……はーぁ……」
ベッドにゴロンと横になって溜息をつく。
……会いたい。
「新しいドラマ、立本樹が主演のやつ始まるよね」
「えーほんと?!また?すごい出るよね」
「早く見たいなー。ほんとカッコいいよね、立本樹」
「ねー。一度肉眼で見てみたいわ」
「なんかA高出身らしいよ」
「そうそう!結構身近にいたってことだよね?あんなイケメンが!」
「あー私もA高通いたかったわー」
「………………。」
ふふ。すごい人気だ。俺の恋人だなんて、皆が知ったら度肝を抜かれるだろうな。もちろん誰にも言わないけど。樹のイメージのためにも、そこは大事だ。やっぱり恋人がいるのといないのとでは若手俳優さんは人気が大きく違ってくるだろうし。しかも男の恋人っていうね。
俺は次の講義を受けるために教室の移動中だった。
大学での美術の講義は本当に楽しかった。入学当初は、卒業したら美術の教師になりたいと思っていたけれど、数年大学で学んでいるうちに、もっと知識を増やしたいし、技術もレベルアップしたいという思いが強くなっていった。
大きく羽ばたいた樹のことを考える。……樹はすごいな。幼なじみで、物理的な距離は離れた時期もあったけど、でも気持ちはずっと隣にいて、これからもずっと一緒に成長していくものだと思っていたのに。高校を出るやいなや、一人だけあっという間に手の届かないところに行ってしまったみたいだ。もちろん樹は今でも俺を恋人として特別に想ってくれているし、その気持ちを疑うことはないけれど。
樹の側にいたい。大学を卒業したら一緒に暮らそうって、樹も言ってくれてる。そうできたら幸せだろうな。こんな風に、会いたくて会いたくて寂しい思いを募らせることももうなくなるかもしれない。お互いが忙しい時期でも、同じ部屋に住んでいれば顔は見られるし、ほんの少しの時間でも触れ合うことができる。それって本当に満たされた生活だと思う。俺にとっての一番も、もちろん樹なのだから。
……でも、本当にそれでいいのかな……。
普通に大学を卒業して、普通に就職して、好きな人の帰りを家で待って、毎日同じベッドで眠る。充分幸せな人生だし、別に俺が樹のヒモになるってわけじゃない。俺だって社会人としてちゃんと仕事をするわけだから、何も引け目なんて感じなくていいんだと思う。
だけど、それだけでいいのかな。樹はこの数年、本当に頑張ってた。あんなに颯太颯太って俺にベッタリしたがる樹が、忙しすぎてほとんど連絡もとれない時期だってあった。その努力が実って、こんな有名人になって第一線でバリバリ仕事をしているんだ。
……俺も、もっと自分の力を伸ばしたい。一人の人間として、もっと大きくなりたい。
まだ漠然とだけれど、そんな風に考えるようになっていた。
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