私が転生したのは腐女子に優しい世界でした

支倉りおと

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転生しても腐女子街道を爆走する

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 さて、皆さんは前世の記憶という物を信じるだろうか?
 私、佐々倉陽菜ささくらひなは5歳の誕生日にケーキのロウソクを吹き消した瞬間。
 前世の記憶を思い出した。

 死ぬ前に見ると言われる走馬灯のように前世の私だった人の記憶が蘇る。
 前世の私はアラサーのバリバリのキャリアウーマンだった。
 そんなバリキャリは擬態で、その裏の本当の彼女の姿はオタク。
 それも腐女子と言われるBL専門のオタクだった。
 リアルの恋愛よりBLと言われる、男性同士の恋愛に萌える性癖を抱えていた前世の私は、仕事をバリバリこなすのはBLの新刊を買い漁る為だった言っても過言ではない。
 
 腐女子街道爆走中だった前世の私。
 
 思い出した最後の記憶が30歳の誕生日に行きつけの本屋さんでBLの新刊を買い漁り、これまた行きつけのbarに向かうと、仲良しのバーテン兼オーナーのイケおじに誕生日酒をサービスされて上機嫌になり、いつもよりお酒が進んだあの日、ちょっとふらつく足元だったけれど気にせず最寄り駅まで行く途中の歩道橋で後ろから来た人にぶつかったのと、手に抱えていた本の重量、その上ふらつく足元と3つの悪い事が重なり伸ばした手が空を切り私は歩道橋の階段から転がり落ちた。

 

 それが思い出した前世の私の最後の記憶。
 
 
 その記憶を思い出した私は
 
 そうか……。

 前世の私は死んだのだ。

 そして佐々倉陽菜として転生したのだと理解した。
 

 この記憶を思い出した時、ずっと抱えていたモヤモヤの理由を私は息をするより簡単に納得した。
 

 前世の記憶を思い出した当時の私は、5歳の女の子だった。だから初恋の一つや二つ……いや初恋は一つだな。
 あってもおかしくはないのに、私は自分が対象となるような色恋事に、何それオイシイの?レベルで全く興味がなかった。
 それよりも身近に存在する自分の兄とその男の子の幼馴染が仲良く遊んでいる所を、影に隠れてニヤニヤを抑えながら傍観者の立場で眺めている方がとても楽しくて幸せを感じていた。
 なんで男の子同士が仲良くしてるのを見るのが楽しいのか、子供ながらに理由はわからないけれど、なによりも楽しかった。

 正直他の人が見ればなんと不気味な子供だっただろうと思う。

 だから、前世の記憶が蘇った時。私の中で燻っていたモヤモヤの理由、感情、思考や性癖。今まであった全ての謎がストンと腑に落ちた瞬間だった。

 

 私は前世から生粋の腐女子で、腐女子として英才教育サラブレッドだったと。


 記憶が蘇ってから実に7年。現在12歳になった私は皆さんの期待通り腐女子の道を爆走中。

 そして前世の頃と何よりも違うのが、この世界では恋愛に男女の縛りがないフリー恋愛の世界だった。
 男性同士、女性同士の恋愛も何の障害もない。結婚だってもちろん可能だ。

 その現実を知った当時私は歓喜した。
 
 だって、ここはBLが普通に認められる世界だ!異性間恋愛だけが多数派じゃない。
 だからもしかしたらと思って、前世で流行っていたジャンルのオメガバースとか番制度とかあるんじゃないかと調べたけれど、この世界にオメガバースの概念はなかった。だから同性同士の妊娠とか夢のような話はさすがに存在しなかった……残念だけどまぁそれはいい。
 
 でも、番制度に似たようなカップルの運命の絆?みたいなものはあるらしい。
 
 それにしてもなんて腐女子に優しい世界なんだ!コソコソと密やかに楽しむ事しか出来なかったBLの世界が、誰にも遠慮せず堂々と楽しめるなんて腐女子万歳!そして心の中では盛大にリオのカーニバルが開催される程喜んだ。

 なんて腐女子の私に都合の良い世界なんだ。
 幸せすぎる。

 前世では腐女子である事を公に公言することは憚られたけれど、世界が認める愛のカタチだから私の性癖をおかしいと言う人がいないのが最大の救いだ。

 前世の私の記憶を思い出した時は混乱したけれど、実に私に都合の良すぎる世界すぎて多少不安もあったけれど、ご都合主義の私はすべてを受け入れた。
 何も世界が認めている事を私が否定する必要はない!
 だから私は自分が幸せだと思う世界で生きる事が不幸なわけがない。

 よしっ私はツイてる。

 そう納得した5歳の私。
 
 あれから7年後の12歳の私がこの世界がおかしい事に気が付くのは中学生になったあの日だった。

 

 
 
 
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