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第7章 ーノエル編ー
11 学園二年目
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新しい光魔法の講師は見つかりそうになかったので、しばらくはミネルバが光魔法の特別授業をしてくれることとなった。
ミネルバは授業に関してはとても厳しい先生だが、あの怪力を身につけられると思えば苦ではない。がんばろう。
特別講師の解任は影響を受ける学生が少なかったこともあり、あまり学園の話題にはならなかった。
そんな時に、今年最初の裏生徒会の集会は行われた。
「ノエル、聞いたわよ?ディアナ・カルベット。あなたに光魔法を教えるの拒否して特別講師を解任になったんですって?」
ティナはざまあみろといった顔をしている。
「彼女、出戻りでカルベット家で幅を利かせてて、しかも貴族至上主義の塊みたいな人でしょう?これでカルベット家の意識改革が少しは上手くいってくれるといいんだけど。」
第一王女の側近を務めているティナにとって、貴族至上主義が主要な貴族家にはびこっていることは大問題なのだそうだ。おばさんの失脚が意識改革までつながるとしたら、かなりすごいおばさんだったことになるな…。
「それで代わりの講師がミネルバ先生って…ノエル、彼女はすごい人なのよ?ミネルバ・カルベットといえば女だてらに魔法騎士団の隊長にまで登りつめて、ルクレツェンのオールディの国境警備を任されていたの。
ルクレツェンでは知る人は少ないけど、あの厄介な黒薔薇騎士団とやりやってきた人なんだから。」
「黒薔薇騎士団と?もちろん知ってるわ。私、オールディの出身だもの。」
そういえば辺境時代、厄介な魔法騎士がルクレツェンにいるという話を聞いたような気もする。…ミネルバ先生かっこよすぎる。
「あら、ノエルってオールディの出身なの?ご両親はオールディの方?」
「母さんの出身はオールディよ。父さんはルクレツェンの生まれだけど。」
ティナはちょっと考えるようなそぶりをみせたが、特に何も言わなかった。
「さて、今日の会議始めるよ。」
いつも通り、無口なマックスが司会進行を進める。
「今日の議題はまずこれだ。”ショーン・ロバートへのいじめ”。」
「ショーンって、私たちの同級生の?」
「そう。現在二年生のショーン・ロバートは一年時からその肌の色を理由に現在三年生のウォルター・コールマンをはじめとする男子学生たちからいじめを受けている。
最初は罵倒する程度だったが、水をかける、池に落とす、私物を捨てるなど、徐々にエスカレートしている。そのうち暴行に発展してもおかしくない。」
マックスは壁に調査記録を投影する。そこにはショーンがいじめをうけた具体的な日にちが記されていた。…どうやって調べたんだろう。
「彼のルームメイトも男子学生たちに絡まれたことをきっかけに、周囲に友人もいないようだ。」
「ザラはクラスメイトでしょ?ショーンはクラスでどんな感じなの?」
「…基本は一人でいるみたいだけど。よく知らないな。」
「これはまず、友人として彼に近づく必要があるわね。やっぱり周りに人の目があるとこういうことって起きにくいもの。特に彼をかばう人の目ね。ハロルドがそばに行くのも効果的だと思うわ。」
ティナが情報を眺めながら意見を述べる。
「コールマン家といえば典型的な日和見貴族よ。大貴族の子息がそばにいるとなったら変なことはしないんじゃないかしら。」
「貴族至上主義なの?私が仲良くするのは逆効果?」
「いえ、むしろハロルドとノエルがセットで仲良くなった方がいいわ。貴族と突然仲良くなって下手に嫉妬心をあおることになるかもしれないし。」
ノエルとハロルドでショーンと仲良くなることが決まった。汚いことを平気でするところがあるノエルだが、善人に対してはただの人たらしだ。ショーンと仲良くなるのは何ら難しいことではない。
ー---
議題が一通り終わると、寮の門限の時間を過ぎていたため、門限破り学生のチェックを行う。裏生徒会には特別な学園の敷地図があり、学生の居場所が点になって示されるのだ。
「おや?久しぶりに門限破り学生がいるぞ?」
地図を開いたシャーリーは驚いて地図を広げて見せてくれた。
「男子寮の前?見回りに見つかっていないということは魔法を使っていないということよね?」
魔法学園の見張りシステムは特殊だ。魔力を検知する特殊な小型魔道具を敷地内に放っているそうだ。これの巡回ルートは常に同じであり、寮の周辺はルートでは2時間後ぐらいに小型魔道具がやってくる。
「俺が見に行ってくるよ。」
「あ、ザラ。私も行く。ザラだけだと、保護しなきゃいけないのに置いてきそうだもの。」
二人はドアの絵の一つをとり壁に貼り、設定した出口の中から一番寮に近いものを選び、外に出た。
男子寮の前では遠目にも明らかに薄ぎすぎる学生が眠っていた。まずはザラが話しかけに行きノエルが遠くから見守る。
何やら言い争っているが、あれは明らかに異常だろう。保護が必要に違いない。ノエルは小走りに二人に駆け寄った。
「ザラ?誰かいるの?」
そこにいたのは噂の人物だった。
「ショーン?どうしたの?ちょ!死んじゃうわよ!早くこっちに!ザラ、運んで。」
ザラはやれやれとため息をつくとショーンの体を軽々と担ぎ上げた。…さすがザラだ。筋肉があってかっこいい。
「こいつ、俺たちの集会に運ぶの?」
「もちろんよ!」
ショーンが首を巡らせてノエルの方を見た。
「ノエル?君も門限破り?」
「いつもやってるわけじゃないわよ、今日は月に一度の集会なの。」
ショーンは訳が分からないという顔だ。まあ、説明するより見た方が速いだろう。
「ノエル、ドア。」
「はーい。」
マジックアイテム”どこでも部屋”の入口を寮の壁に設置し、すぐに二人で中に入り扉を閉める。中で筋トレをしていたらしいハロルドもショーンを見てびっくりした様だ。
…ハロルドが筋トレを始めた理由はノエルもよく知らない。
ショーンは首を傾げてノエル、ハロルド、ザラの三人を見た。
「…意外な組み合わせだけど、友達なの?」
ノエルは大きく頷いたが、ハロルドとザラはお互いを見て嫌そうな顔をした。…天才のハロルドと超人スポーツマンのザラがセットになれば向かうところ敵なしだと私は思うのだけど、二人はなかなか仲良くならない。
やっぱり相いれないんだろうか。
「ここは?」
「裏生徒会の秘密基地よ。」
「…裏生徒会?」
「学園で起きるトラブルを秘密裏に解決する活動をしているの。今回あなたを見つけたのもその一環よ。」
「どうやって僕を見つけたの?」
「まあ、ちょっとね。ところで”黒い巨塔”はなぜ門限破りを?」
ハロルドが話を変えると、ショーンは苦い顔をした。
「破りたくて破ったわけじゃないよ。締め出されたんだ。」
ショーンが語った顛末は例のいじめ問題だった。
肌の色だけを理由にいじめをするなんて…馬鹿なのね。きっと世界の大半の人は有色だって知らないんだわ。
「肌の色が違う人なんて、首都にはいくらでもいるわ。田舎者なんじゃないの?その人たち?周りも一緒になってみて見ぬふりをしているなんて。」
「いや、それは仕方ないんだ。前に僕を助けてくれようとした同室の、平民の子が池に落とされる事件があって…。」
「ふーん。でもそのリーダー、貴族としては中の上って感じで、大した家の出じゃないよ。それより偉い家の…例えば僕とかがガツンと言ってやろうか?」
「だめよ。陰で深刻化する可能性があるわ。まあ、ここは私に考えがあるわ。ショーンはいつも通りにしていて。」
馬鹿に正攻法は必要ないわ…!ノエルの頭の中には汚い計画が描かれ始めていた。
ミネルバは授業に関してはとても厳しい先生だが、あの怪力を身につけられると思えば苦ではない。がんばろう。
特別講師の解任は影響を受ける学生が少なかったこともあり、あまり学園の話題にはならなかった。
そんな時に、今年最初の裏生徒会の集会は行われた。
「ノエル、聞いたわよ?ディアナ・カルベット。あなたに光魔法を教えるの拒否して特別講師を解任になったんですって?」
ティナはざまあみろといった顔をしている。
「彼女、出戻りでカルベット家で幅を利かせてて、しかも貴族至上主義の塊みたいな人でしょう?これでカルベット家の意識改革が少しは上手くいってくれるといいんだけど。」
第一王女の側近を務めているティナにとって、貴族至上主義が主要な貴族家にはびこっていることは大問題なのだそうだ。おばさんの失脚が意識改革までつながるとしたら、かなりすごいおばさんだったことになるな…。
「それで代わりの講師がミネルバ先生って…ノエル、彼女はすごい人なのよ?ミネルバ・カルベットといえば女だてらに魔法騎士団の隊長にまで登りつめて、ルクレツェンのオールディの国境警備を任されていたの。
ルクレツェンでは知る人は少ないけど、あの厄介な黒薔薇騎士団とやりやってきた人なんだから。」
「黒薔薇騎士団と?もちろん知ってるわ。私、オールディの出身だもの。」
そういえば辺境時代、厄介な魔法騎士がルクレツェンにいるという話を聞いたような気もする。…ミネルバ先生かっこよすぎる。
「あら、ノエルってオールディの出身なの?ご両親はオールディの方?」
「母さんの出身はオールディよ。父さんはルクレツェンの生まれだけど。」
ティナはちょっと考えるようなそぶりをみせたが、特に何も言わなかった。
「さて、今日の会議始めるよ。」
いつも通り、無口なマックスが司会進行を進める。
「今日の議題はまずこれだ。”ショーン・ロバートへのいじめ”。」
「ショーンって、私たちの同級生の?」
「そう。現在二年生のショーン・ロバートは一年時からその肌の色を理由に現在三年生のウォルター・コールマンをはじめとする男子学生たちからいじめを受けている。
最初は罵倒する程度だったが、水をかける、池に落とす、私物を捨てるなど、徐々にエスカレートしている。そのうち暴行に発展してもおかしくない。」
マックスは壁に調査記録を投影する。そこにはショーンがいじめをうけた具体的な日にちが記されていた。…どうやって調べたんだろう。
「彼のルームメイトも男子学生たちに絡まれたことをきっかけに、周囲に友人もいないようだ。」
「ザラはクラスメイトでしょ?ショーンはクラスでどんな感じなの?」
「…基本は一人でいるみたいだけど。よく知らないな。」
「これはまず、友人として彼に近づく必要があるわね。やっぱり周りに人の目があるとこういうことって起きにくいもの。特に彼をかばう人の目ね。ハロルドがそばに行くのも効果的だと思うわ。」
ティナが情報を眺めながら意見を述べる。
「コールマン家といえば典型的な日和見貴族よ。大貴族の子息がそばにいるとなったら変なことはしないんじゃないかしら。」
「貴族至上主義なの?私が仲良くするのは逆効果?」
「いえ、むしろハロルドとノエルがセットで仲良くなった方がいいわ。貴族と突然仲良くなって下手に嫉妬心をあおることになるかもしれないし。」
ノエルとハロルドでショーンと仲良くなることが決まった。汚いことを平気でするところがあるノエルだが、善人に対してはただの人たらしだ。ショーンと仲良くなるのは何ら難しいことではない。
ー---
議題が一通り終わると、寮の門限の時間を過ぎていたため、門限破り学生のチェックを行う。裏生徒会には特別な学園の敷地図があり、学生の居場所が点になって示されるのだ。
「おや?久しぶりに門限破り学生がいるぞ?」
地図を開いたシャーリーは驚いて地図を広げて見せてくれた。
「男子寮の前?見回りに見つかっていないということは魔法を使っていないということよね?」
魔法学園の見張りシステムは特殊だ。魔力を検知する特殊な小型魔道具を敷地内に放っているそうだ。これの巡回ルートは常に同じであり、寮の周辺はルートでは2時間後ぐらいに小型魔道具がやってくる。
「俺が見に行ってくるよ。」
「あ、ザラ。私も行く。ザラだけだと、保護しなきゃいけないのに置いてきそうだもの。」
二人はドアの絵の一つをとり壁に貼り、設定した出口の中から一番寮に近いものを選び、外に出た。
男子寮の前では遠目にも明らかに薄ぎすぎる学生が眠っていた。まずはザラが話しかけに行きノエルが遠くから見守る。
何やら言い争っているが、あれは明らかに異常だろう。保護が必要に違いない。ノエルは小走りに二人に駆け寄った。
「ザラ?誰かいるの?」
そこにいたのは噂の人物だった。
「ショーン?どうしたの?ちょ!死んじゃうわよ!早くこっちに!ザラ、運んで。」
ザラはやれやれとため息をつくとショーンの体を軽々と担ぎ上げた。…さすがザラだ。筋肉があってかっこいい。
「こいつ、俺たちの集会に運ぶの?」
「もちろんよ!」
ショーンが首を巡らせてノエルの方を見た。
「ノエル?君も門限破り?」
「いつもやってるわけじゃないわよ、今日は月に一度の集会なの。」
ショーンは訳が分からないという顔だ。まあ、説明するより見た方が速いだろう。
「ノエル、ドア。」
「はーい。」
マジックアイテム”どこでも部屋”の入口を寮の壁に設置し、すぐに二人で中に入り扉を閉める。中で筋トレをしていたらしいハロルドもショーンを見てびっくりした様だ。
…ハロルドが筋トレを始めた理由はノエルもよく知らない。
ショーンは首を傾げてノエル、ハロルド、ザラの三人を見た。
「…意外な組み合わせだけど、友達なの?」
ノエルは大きく頷いたが、ハロルドとザラはお互いを見て嫌そうな顔をした。…天才のハロルドと超人スポーツマンのザラがセットになれば向かうところ敵なしだと私は思うのだけど、二人はなかなか仲良くならない。
やっぱり相いれないんだろうか。
「ここは?」
「裏生徒会の秘密基地よ。」
「…裏生徒会?」
「学園で起きるトラブルを秘密裏に解決する活動をしているの。今回あなたを見つけたのもその一環よ。」
「どうやって僕を見つけたの?」
「まあ、ちょっとね。ところで”黒い巨塔”はなぜ門限破りを?」
ハロルドが話を変えると、ショーンは苦い顔をした。
「破りたくて破ったわけじゃないよ。締め出されたんだ。」
ショーンが語った顛末は例のいじめ問題だった。
肌の色だけを理由にいじめをするなんて…馬鹿なのね。きっと世界の大半の人は有色だって知らないんだわ。
「肌の色が違う人なんて、首都にはいくらでもいるわ。田舎者なんじゃないの?その人たち?周りも一緒になってみて見ぬふりをしているなんて。」
「いや、それは仕方ないんだ。前に僕を助けてくれようとした同室の、平民の子が池に落とされる事件があって…。」
「ふーん。でもそのリーダー、貴族としては中の上って感じで、大した家の出じゃないよ。それより偉い家の…例えば僕とかがガツンと言ってやろうか?」
「だめよ。陰で深刻化する可能性があるわ。まあ、ここは私に考えがあるわ。ショーンはいつも通りにしていて。」
馬鹿に正攻法は必要ないわ…!ノエルの頭の中には汚い計画が描かれ始めていた。
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