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第7章 ーノエル編ー

13 学園三年目

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ノエルの魔法学園三年目は波乱のスタートだった。


「ついにやったわ!」

きっかけはルームメイトのダコタの発明品だった。ダコタは飛行クラブに所属しており、空を飛ぶ魔道具作りにこっている。クラブ活動で二年間、しっかり基礎を学び、ついに自作のアレンジを加えた飛行道具を作成したのだ。

ダコタが授業前の教室でノエルたちに披露してくれたのはよくファンタジーに出てくる魔女が乗るような箒だった。普通の箒とは異なり、持ち手の部分に緑色の石と座る部分に自転車のサドルのようなものがついている。


「箒で空を飛ぶのは正直風属性を持っていないと難しいんだけど、これは魔力さえあれば箒で空を飛ぶことができるのよ。持ち手についている魔石に魔力を流して箒の進行方向を操るの。
…ノエル、ちゃんとズボンはいてきてくれた?」

「うん。」

ノエルは制服のスカートをめくって短パンをみせる。

「よし!じゃあ乗ってみよう!実は結構な魔力が起動の時点で必要で、私じゃ乗れなかったの!」

ノエルは箒にまたがり、言われた通りに上がれという指示と共に箒に魔力を流す。…後からこの上がれという指示がいけなかったんだと反省した。

「むむ、もうちょっと魔力がいるのかな…。」

そう言って魔力量を増やした時だった。箒がふっと浮かび上がったかと思うと体感で魔法汽車並みのスピードで上昇し…、ノエルは天井に強かに全身をぶつけた。

落下しながら気絶する直前までクラスメイトたちの悲鳴が聞こえていた。



ー---



パチッと目を開くとそこは二年間の学園生活で一度だけ見た医務室だった。

「目が覚めましたか?」

声がする方に顔を向けようとすると激しい痛みに襲われた。うめき声をあげているとミネルバと同年代で、ミネルバと正反対に大分優しい印象の女性が困った顔でこちらを見下ろした。校医のポリー先生である。

「体が痛いでしょう?あなたは天井に体を強打して全身打撲しているの。頭からは流血していたわ。そちらは命にかかわりかねない大けがだったから先に治癒をしたわ。」

「うう…何が起きたんですか…?」

「飛行魔道具に魔力を注ぎすぎて、急激な起動にコントロールが間に合わず天井に激突したの。その場にいたハロルド・フィリウスが風魔法で落下をゆるめていなかったらさらにひどい怪我で一週間ほど入院してもらうことになっていたわ。
…これを飲んで。魔力回復用の薬よ。それを飲んだら自分の魔力での治癒ができるように魔法をかけるわ。」


ものすごく苦い薬をコップに3杯も飲まされた後、ポリー先生がノエルの魔力を使って打撲に治癒魔法をかけてくれた。

「ひとまず今日一日は入院よ。」

「そんな!授業初日なのに!」

「もう午後の授業も半分終わってるわ。あきらめなさい。」

しぶしぶとノエルはベッドに沈み込んだ。


授業終わりの時間になると友人たちがお見舞いに来てくれた。

「ノエル、本当にごめんなさい。外でやるべきだったわ。」

「気にしないで、ダコタ。それよりあの箒は改良できそうなの?」

「そうね。起動時に必要な魔力量を減らすことがネックね…。」

ダコタの創作意欲は衰えていないようでよかった。コレットがお見舞いと言って今日一緒に受けるはずだった授業のノートを置いて行ってくれた。
リアは侍女のジェニーの作ったお菓子を持ってきてくれたし、ショーンは水魔法の授業のノートを持ってきてくれた。…ハロルドは手ぶらできた。

ノエルの怪我を察知したのか、愛猫のオズマもやってきてベッドの下で丸くなっている。もちろん授業中はオズマと一緒にいられないので、基本は寮に置いているのだが、オズマは気まぐれな猫なのでふらりといなくなることも多い。
猫は魔法学園ではメジャーなペットなので放し飼い状態でも特に問題はない。


門限前の遅い時間にはザラが来てくれた。手には小さな花束がある。

「ノエルは変わらずにお転婆だな…。でも気をつけろよ?死んでしまったら治癒魔法じゃ治せないんだから。」

「わかってるよ。心配してくれてありがとう、ザラ。」

「…本当に心配したんだ。本当はすぐにここに来たかった。」

「従兄弟が見張ってるんでしょ。遅くなっても来てくれただけで嬉しいよ。」

ザラなりの気遣いに胸が温かくなるのを感じた。



ー---



「今年は!少なくとも2人!冒険クラブに新入生を入れるわ!」

ノエルが立ち上げた冒険クラブは昨年度にショーンの加入により5人の部員を集め正式にクラブ活動に認められた。今年初めて新歓に参加する。

「といっても無名のクラブに新人を招き寄せるのは大変だわ。だから知り合いに総当たり作戦で行こうと思うの。」

部員のシャーリー、ハロルド、リア、ショーンはノエルの意見に頷く。

「私、一人、興味のありそうな子に心当たりがあるわ。」

リアが早速手をあげる。

「なんとか捕まえて、話をしてみる。」



そうして、捕まったのがアレックス・ドーリンである。

アレックスはノエルのクラスメイトのネイトの弟であるそうだ。確かに黒髪黒目で雰囲気は似ているが、兄ほどのイケメンではない。雰囲気の問題な気もするが。ちょっと自信なさげなのだ。
実はノエルとアレックスは行きの魔法汽車で出会っており、初対面ではないことも勧誘の勝機とみて、新聞部見学の場でがっつりと冒険クラブへの勧誘を行った。


ノエルの熱い話が良かったのか、その場にいた一年生のアリソン・ワグナーも興味を持ってくれて、二人で一度見学に来てくれることになった。めでたい。


そんな新聞部からの帰り道のことだった。

「アレックス?」

「あ、兄さん。」

ネイト、ハロルドそしてもう一人の三人で歩いてくるところに出会ったのだ。

「あら、ネイト。」

一緒にいたリアの挨拶はネイト自身によって遮られた。ネイトはイケメンなのに女子があまり好きではないのか、ちょっと態度が悪い。特にリアに対しては露骨に無視することも多く、よくノエルは憤慨しているのだが、リアは「仕方ない」とスルーすることがほとんどだ。

「アレックス、どこに行ってたんだ?」

「新聞部の見学だよ。リアが案内してくれて。」

アレックスとリアが幼馴染ということは、もちろんネイトも幼馴染ということだろう。
ネイトはふとノエルを見た。

「ノエル?」

「やっほー。ネイト。ハロルド、ベンも。」

「アレックス!ノエルは非魔法族生まれなんだぞ?母上が知ったら怒られるぞ!」

…急に何言ってんだ、こいつ。そういえばドーリン家は貴族至上主義の家らしい。今までそんな絡まれ方はしたことがなかったけれど。

「あ、そうだったんだ。珍しいね。」

アレックスも全く気にも留めていない。ネイトはどうしたいのか、アレックスを貴族至上主義だと主張するような発言を続けていく。

「新聞部に入るのか?新聞部は平民も多いんだ。お前は絶対に入りたくないだろう?」

「新聞部には入らないから、安心して、兄さん。」

「そうよ。アレックスは冒険クラブに入るものね。私と一緒だから、安心して、ネイト。おばさまもわかってくださるわ。」

そこで目に見えてネイトの様子が変わった。大きく目を見開いてぷるぷると震えだす。
ははーん、これはあれだな。てっきりリアのことが嫌いなのだと思っていたけど、すごく好きでひどいことを言ってしまうまるで幼児のような…。

「冒険クラブって、冒険者になりたいのか?お前の魔力量で冒険者なんてなれるわけないだろう!」

そう吐き捨ててネイトは走って行ってしまった。

「ネイト!なんてこと言うの!アレックスに謝って!」

リアは自分がどんなに冷たくされても怒らないのに、この時ばかりは憤慨した。

「リア、僕、大丈夫だから。そんなに怒らないで。兄さん、僕にはいつもああだから。ノエルもごめんね。」

「私も大丈夫。でもびっくりしたわ。ネイトってあんなこと言うのね。」

「一応、僕からも、普段はあんなんじゃないって、言っておくよ。虫の居所でも悪かったのかな?」

一緒にいたハロルドのフォローもむなしく、リアの怒りは収まらない。ちょっと落ち込んでいるようなアレックスにリアが慰めの言葉をかけている。

魔力が少ないことはアレックスがずっと気に病んでいた問題だったのだろう。


しかし、アレックスのこの暗い雰囲気もハロルドが魔力量は増やせると発言することで明るいものに変わるのだった。




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