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第7章 ーノエル編ー
27 オールディ訪問
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聖女の親族の多くは魔力を持つ人が多かったが、属性は一般的なもので未知の属性を持つ人はいなかった。つまり一般市民から採用された聖女の多くは血筋による属性の遺伝を受けた訳ではないようだ。
「親と違う属性を持って生まれてくることはあるけど…。ルクレツェンで属性判定が出なかったという話は聞いたことがないな…。複数属性持ちにはこれまでいたことがあるかもしれないけど…。」
シャーリーはこの結果に考えこんでいた。プレッシャーか顔色が悪い。
「もしかしたら、結界の中では未知の属性が…生まれやすいのかもしれない。」
ー---
こうしてノエルたちは王都へ戻ってきた。王都にたどり着いたのは建国祭の前日の午後のことだった。道中は指輪について勘づいたウィルに散々からかわれた。
「ノエル嬢、ついにその指輪をハロルドからもらったんだな?付き合い始めたのか?」
「ウィル、付き合ってないわ。押し付けられたのよ。」
ちょっと眉をひそめて指輪を見るノエルにウィルは眼帯に隠れていない片目でにやにやしていた。
「シャーリー様、提案されていたルロワ公爵家での魔力調査と属性調査ですが、当主様ご家族が受けてくださるそうです。その時に大聖女様もご一緒に、と。
建国祭の翌日となりますが、よろしいですか。」
セシルの言葉にシャーリーが大きく頷く。
「もちろんです。ありがとうございます。」
「では今日はお休みになってください。シャーリー様、顔色が悪いですよ。」
もはやおなじみになったセシルの無表情でずばっとシャーリーに宣告した。
「ノエル様、ハロルド様、それにウィル様はよろしければ黒薔薇騎士団の見学をされませんか?」
「黒薔薇騎士団ってあのルクレツェンの魔法騎士団と魔法なしで対等に戦うっていう、あの?」
「…よくご存じですね。ルクレツェンでの認知度はかなり低いと聞いていますが。」
セシルがハロルドの知識に珍しく驚いた顔をしている。なんかすごい情報が飛び込んできたが、ノエルは別の意味でドキドキしていた。かつてお世話になった黒薔薇騎士団のマッチョのお兄さんたちの顔を思い出す。今は少しうろ覚えだが。
「行きたいです!」
ノエルとハロルド、ウィルの三人で黒薔薇騎士団の本部を訪ねた。
「黒薔薇騎士団の本部と言いましても、黒薔薇騎士団は国境で結界の守護をしているので本部にはあまり多くの騎士はおりません。現在は30名ほどの騎士がおります。建国祭の時期ですので、団長もおりまして、ルクレツェンからのお客人にお会いしたいと。」
黒薔薇騎士団本部はノエルの記憶にある通り、多くの騎士が鍛錬をしていた。辺境と比べれば、マッチョ度が低いがそれは配属直後の新人を鍛えるのが本部の務めだからだ。
団長室へ向かって歩いていると前方から際立ってムキムキマッチョが足早に歩いてくる。
…あれはっ!
「ノエル!」
野太い声に呼ばれる。前方のムキムキマッチョはノエルに歩み寄りがっはっはと笑いながらノエルを抱き上げた。
「おう!重くなったな!ローズにそっくりじゃないか!このもしゃもしゃ髪はカイルそっくりだな!」
「隊長!」
50代も半ばとおぼしき男性はノエルが辺境でお世話になった『血の滴る魔獣ステーキ』が好物の隊長だった。
「今は俺も騎士団長さ!」
隊長、いや団長はまたがっはっはと笑った。
「騎士団長殿!ノエルを降ろしてください!」
声のする方を見ると、ハロルドが険しい顔をしている。ちなみにセシルは無表情だ。団長は背の高いハロルドよりもさらに頭一つ背が高い。きっとショーンよりも高いだろう。
「なんだ、小僧。」
団長も険しい顔だ。
「団長。彼はハロルド・フィリウス。私の魔法学園の同級生で今回の調査にインターンとして参加しているの。」
団長は品定めするような顔でハロルドを見ているし、ハロルドも相当いかつい団長に対して一歩も引かずににらみ合っている。団長がノエルを地面におろすとすかさずノエルを自分の方に引き寄せた。
「ハロルド。私が辺境で生まれた話はしたでしょう?団長は当時の辺境の黒薔薇騎士団で隊長をしていたの。家族でとてもお世話になったのよ。」
「…そうなんだ。」
目が良い団長はふとノエルとハロルドのお揃いの指輪に目を止めた。
「…ノエル、まさかこの軟弱そうなのがお前のボーイフレンドだなんて言わないよな?」
「違うわ。」
「そうだよな!そうだよな!」
団長は安心したように顔を緩めた。
「ノエルはちっさいころ、ずっと俺たちみたいなムキムキマッチョのお嫁さんになるって言ってたんだ。こんな骨骨なんて、眼中にないわな。」
ハロルドが衝撃を受けたという顔をしていたそうだがノエルは全く気付かなかった。
「おう、ウィリアム殿も来ていたのか!久しいな!」
「どうも、ヴィクトー団長。」
「知り合いだったの?」
「仕事の関係でな。」
ウィルは何でもないようににかっと笑っているが…、黒薔薇騎士団と親しくなる仕事とは何だろう。
ー---
「そうか…。カイルは小説家として上手くやってるんだな。最近はオールディでもカイルの本が売られているんだよ。」
カイルとはノエルの父の名前である。
団長はノエルたちを団長室に呼び込み、お茶をごちそうしてくれた。そこで最近のノエルの生活について話をしたのだ。
「にしても、あの時の猫はノエルのところにいるのか…。とても信じられないが…。」
オズマはノエルたちが出発してすぐいなくなってしまっていたらしい。本当に、オズマは不思議な猫だ。
「もう大聖女様にはお会いしたのか?」
「まだよ。」
「大聖女様はローズの姉だというのはカイルから聞いているかな?彼女はきっとノエルの助けになってくださる。」
…やはり、大聖女様はノエルに対して悪感情はないのだろうか。オールディ滞在もそこまで心配しなくていいのかもしれない。
「しかし、なるべく一人では行動するな。」
「え?」
「神官長殿は最近代替わりしたんだが、今回のルクレツェンの調査団の受け入れに反対していたのを、参加メンバーの連絡を受けて態度を変えたと聞いている。」
「ノエルが来ると知って歓迎モードに切り替えたということですか?」
ハロルドが険しい顔で団長を見る。ちなみにウィルは黒薔薇騎士団内の別の場所に行ってしまい不在で、セシルはその場にいて安定の無表情だ。セシルがいる場でこんな話をしてしまってもいいのかと思ったが、団長曰く問題がないそうだ。
「可能性がある。頼りない騎士ではあるが、お前はしっかりノエルに張り付いていろ。」
翌日、建国祭が始まり、大聖女様が結界を張る儀式が執り行われた。響く歌声に波打つ空、震えるような力を感じながら結界の形成を見守った。
「親と違う属性を持って生まれてくることはあるけど…。ルクレツェンで属性判定が出なかったという話は聞いたことがないな…。複数属性持ちにはこれまでいたことがあるかもしれないけど…。」
シャーリーはこの結果に考えこんでいた。プレッシャーか顔色が悪い。
「もしかしたら、結界の中では未知の属性が…生まれやすいのかもしれない。」
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こうしてノエルたちは王都へ戻ってきた。王都にたどり着いたのは建国祭の前日の午後のことだった。道中は指輪について勘づいたウィルに散々からかわれた。
「ノエル嬢、ついにその指輪をハロルドからもらったんだな?付き合い始めたのか?」
「ウィル、付き合ってないわ。押し付けられたのよ。」
ちょっと眉をひそめて指輪を見るノエルにウィルは眼帯に隠れていない片目でにやにやしていた。
「シャーリー様、提案されていたルロワ公爵家での魔力調査と属性調査ですが、当主様ご家族が受けてくださるそうです。その時に大聖女様もご一緒に、と。
建国祭の翌日となりますが、よろしいですか。」
セシルの言葉にシャーリーが大きく頷く。
「もちろんです。ありがとうございます。」
「では今日はお休みになってください。シャーリー様、顔色が悪いですよ。」
もはやおなじみになったセシルの無表情でずばっとシャーリーに宣告した。
「ノエル様、ハロルド様、それにウィル様はよろしければ黒薔薇騎士団の見学をされませんか?」
「黒薔薇騎士団ってあのルクレツェンの魔法騎士団と魔法なしで対等に戦うっていう、あの?」
「…よくご存じですね。ルクレツェンでの認知度はかなり低いと聞いていますが。」
セシルがハロルドの知識に珍しく驚いた顔をしている。なんかすごい情報が飛び込んできたが、ノエルは別の意味でドキドキしていた。かつてお世話になった黒薔薇騎士団のマッチョのお兄さんたちの顔を思い出す。今は少しうろ覚えだが。
「行きたいです!」
ノエルとハロルド、ウィルの三人で黒薔薇騎士団の本部を訪ねた。
「黒薔薇騎士団の本部と言いましても、黒薔薇騎士団は国境で結界の守護をしているので本部にはあまり多くの騎士はおりません。現在は30名ほどの騎士がおります。建国祭の時期ですので、団長もおりまして、ルクレツェンからのお客人にお会いしたいと。」
黒薔薇騎士団本部はノエルの記憶にある通り、多くの騎士が鍛錬をしていた。辺境と比べれば、マッチョ度が低いがそれは配属直後の新人を鍛えるのが本部の務めだからだ。
団長室へ向かって歩いていると前方から際立ってムキムキマッチョが足早に歩いてくる。
…あれはっ!
「ノエル!」
野太い声に呼ばれる。前方のムキムキマッチョはノエルに歩み寄りがっはっはと笑いながらノエルを抱き上げた。
「おう!重くなったな!ローズにそっくりじゃないか!このもしゃもしゃ髪はカイルそっくりだな!」
「隊長!」
50代も半ばとおぼしき男性はノエルが辺境でお世話になった『血の滴る魔獣ステーキ』が好物の隊長だった。
「今は俺も騎士団長さ!」
隊長、いや団長はまたがっはっはと笑った。
「騎士団長殿!ノエルを降ろしてください!」
声のする方を見ると、ハロルドが険しい顔をしている。ちなみにセシルは無表情だ。団長は背の高いハロルドよりもさらに頭一つ背が高い。きっとショーンよりも高いだろう。
「なんだ、小僧。」
団長も険しい顔だ。
「団長。彼はハロルド・フィリウス。私の魔法学園の同級生で今回の調査にインターンとして参加しているの。」
団長は品定めするような顔でハロルドを見ているし、ハロルドも相当いかつい団長に対して一歩も引かずににらみ合っている。団長がノエルを地面におろすとすかさずノエルを自分の方に引き寄せた。
「ハロルド。私が辺境で生まれた話はしたでしょう?団長は当時の辺境の黒薔薇騎士団で隊長をしていたの。家族でとてもお世話になったのよ。」
「…そうなんだ。」
目が良い団長はふとノエルとハロルドのお揃いの指輪に目を止めた。
「…ノエル、まさかこの軟弱そうなのがお前のボーイフレンドだなんて言わないよな?」
「違うわ。」
「そうだよな!そうだよな!」
団長は安心したように顔を緩めた。
「ノエルはちっさいころ、ずっと俺たちみたいなムキムキマッチョのお嫁さんになるって言ってたんだ。こんな骨骨なんて、眼中にないわな。」
ハロルドが衝撃を受けたという顔をしていたそうだがノエルは全く気付かなかった。
「おう、ウィリアム殿も来ていたのか!久しいな!」
「どうも、ヴィクトー団長。」
「知り合いだったの?」
「仕事の関係でな。」
ウィルは何でもないようににかっと笑っているが…、黒薔薇騎士団と親しくなる仕事とは何だろう。
ー---
「そうか…。カイルは小説家として上手くやってるんだな。最近はオールディでもカイルの本が売られているんだよ。」
カイルとはノエルの父の名前である。
団長はノエルたちを団長室に呼び込み、お茶をごちそうしてくれた。そこで最近のノエルの生活について話をしたのだ。
「にしても、あの時の猫はノエルのところにいるのか…。とても信じられないが…。」
オズマはノエルたちが出発してすぐいなくなってしまっていたらしい。本当に、オズマは不思議な猫だ。
「もう大聖女様にはお会いしたのか?」
「まだよ。」
「大聖女様はローズの姉だというのはカイルから聞いているかな?彼女はきっとノエルの助けになってくださる。」
…やはり、大聖女様はノエルに対して悪感情はないのだろうか。オールディ滞在もそこまで心配しなくていいのかもしれない。
「しかし、なるべく一人では行動するな。」
「え?」
「神官長殿は最近代替わりしたんだが、今回のルクレツェンの調査団の受け入れに反対していたのを、参加メンバーの連絡を受けて態度を変えたと聞いている。」
「ノエルが来ると知って歓迎モードに切り替えたということですか?」
ハロルドが険しい顔で団長を見る。ちなみにウィルは黒薔薇騎士団内の別の場所に行ってしまい不在で、セシルはその場にいて安定の無表情だ。セシルがいる場でこんな話をしてしまってもいいのかと思ったが、団長曰く問題がないそうだ。
「可能性がある。頼りない騎士ではあるが、お前はしっかりノエルに張り付いていろ。」
翌日、建国祭が始まり、大聖女様が結界を張る儀式が執り行われた。響く歌声に波打つ空、震えるような力を感じながら結界の形成を見守った。
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