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第五章 無計画な真実の愛
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「よくわかったよ、マリア。」
自分でも思った以上に冷たい声が出た。びくりとしたマリアは高笑いをやめて驚いた様にヨーゼフを見た。
「全部、私が悪いんだ。」
「ええ。もちろ…。」
「君に対して甘い対応をした私が悪いんだ。」
ヨーゼフはマリアを冷たい目で睨みつけるとペーターを振り返る。
「ペーター、マリアを罪人として鉱山へ送ってくれ。」
「かしこまりました。」
「こ、鉱山って…ヨーゼフ様?」
ヒューゲンでは終身刑を言い渡された犯罪者を国所有の金のとれる鉱山にある監獄に収容している。一度入れば二度と出てはこられず、劣悪な環境で採掘をし、夜は無法地帯となる。
ヒューゲンの民であれば、死刑よりもひどいと恐れる場所だ。
「う、嘘でしょう?ただ、真実を話しただけなのよ…?」
「君はそれを話さない、田舎から出ないという約束で支援金をもらっているはずだ。平民が貴族との約束を違えたんだ。相応の罰を受けてもらう。」
「私が平民になったのはあなたのせいよ!」
「その償いは十分にした。裏切ったのは君の方だ。連れていけ。」
「ま、待って!ヨーゼフ様にそんなひどいことできるはずがないわ!優しい人だもの!私、大人しく修道院に帰るから!鉱山だなんて…!」
「マリア。」
ヨーゼフは穏やかな表情をマリアに向ける。マリアは安心したように息を吐いた。
「私がひどい人になったのは君のせいだよ。連れていけ。」
マリアは絶望の表情で引きずられて行った。
そのすぐ後、無理を承知でキャサリンの部屋を訪問した。もう休憩されているからと渋る侍女に頼み込んで10分だけとキャサリンを呼んでもらった。
キャサリンは不機嫌を隠そうともしない素顔でヨーゼフの前に現れた。しかし、ヨーゼフの疲れ切った顔を見て怪訝そうな顔をする。
ヨーゼフはしゃべるよりも前にキャサリンを抱きしめていた。柔らかい体を抱きしめて、首のところに鼻をうめて匂いを嗅いだ。
キャサリンは困ったような呆れたようなため息を吐いてヨーゼフの背中をぽんぽんと叩いて慰めてくれた。
ーーーー
それから一週間後、調べ物を終えたヨーゼフはキャサリンに大事な話があると執務室に呼んだ。ペーターも侍女も下がってもらい、二人きりで向かい合う。
「マリアが王都まで来て大衆紙に私たちの情報を売っていた。」
「まあ。大変ですわね。」
「情報通の君のことだから、もちろんどんな情報が売られていたか知っているだろう?」
「ええ。旦那様との生活が赤裸々に語られておりました。」
ヨーゼフは苦笑して優雅に紅茶を飲むキャサリンを見る。一分の隙もない、いつものキャサリンだ。今日は少しでもこの完璧を剥いで、彼女を驚かせたい。
「私はマリアに私とのことを話さないこと、田舎の町から出ないことを条件に地元の男との婚姻を許した。相手は地元の牧場で働く三男で、王都に働きに出て放蕩したあげく金と仕事がなくなって実家に戻ってきたような男らしい。
マリアに定期的に金が入ることを嗅ぎつけ、打算で体の関係を持った。」
「…それは私が聞くべき話でしょうか?」
「ああ。聞いてほしい。」
ヨーゼフは前かがみになると太ももの上にひじをついて手を合わせた。
「ほどなくマリアは妊娠して二人は結婚したが、子供はすぐに流れてしまったらしい。マリアは長く避妊薬を飲んでいたからそのせいかもしれない。男はマリアへの金をあてにしてまた遊びに出るようになり、牛の世話をマリアに押し付けた。二人の関係は冷めきったころ、私とキャシーの視察を見たらしい。」
領地を視察したときに、確かに酪農の現場を見に行った。その中にマリアの嫁ぎ先もあったのだろう。ペーターはおそらく知っていたが、黙っていた。
「仲睦まじい私たちの様子を見たマリアは恨みを募らせ、金を持って王都へと出てきた。そして、私たちの情報を売ったわけだ。」
「あちら様の婚姻を許した旦那様の落ち度に聞こえますが。」
「そうだね。だから、今度は厳しく、罪人として牢に送ったよ。」
キャサリンはヨーゼフが何をしたのかもちろん知っていたらしい。驚くほど反応がなかった。
「君のことを侮辱されて頭にきたんだ。何かがぷつんと切れて、気づけばマリアを罪人にしていた。」
「貴族としては正しい措置だと思いますわ。」
「今回、マリアは君のことを貶めたかったようなんだ。それが叶わず、もう一度、今度は嘘の情報を大衆紙に売ろうとしていた。しかし、そちらは私が動く前に差し止めになっていたよ。出版社の方で記者がクビになってね。」
キャサリンはにっこりと笑う。その表情を見てヨーゼフは確信した。
「やっぱり、君だったんだね。」
自分でも思った以上に冷たい声が出た。びくりとしたマリアは高笑いをやめて驚いた様にヨーゼフを見た。
「全部、私が悪いんだ。」
「ええ。もちろ…。」
「君に対して甘い対応をした私が悪いんだ。」
ヨーゼフはマリアを冷たい目で睨みつけるとペーターを振り返る。
「ペーター、マリアを罪人として鉱山へ送ってくれ。」
「かしこまりました。」
「こ、鉱山って…ヨーゼフ様?」
ヒューゲンでは終身刑を言い渡された犯罪者を国所有の金のとれる鉱山にある監獄に収容している。一度入れば二度と出てはこられず、劣悪な環境で採掘をし、夜は無法地帯となる。
ヒューゲンの民であれば、死刑よりもひどいと恐れる場所だ。
「う、嘘でしょう?ただ、真実を話しただけなのよ…?」
「君はそれを話さない、田舎から出ないという約束で支援金をもらっているはずだ。平民が貴族との約束を違えたんだ。相応の罰を受けてもらう。」
「私が平民になったのはあなたのせいよ!」
「その償いは十分にした。裏切ったのは君の方だ。連れていけ。」
「ま、待って!ヨーゼフ様にそんなひどいことできるはずがないわ!優しい人だもの!私、大人しく修道院に帰るから!鉱山だなんて…!」
「マリア。」
ヨーゼフは穏やかな表情をマリアに向ける。マリアは安心したように息を吐いた。
「私がひどい人になったのは君のせいだよ。連れていけ。」
マリアは絶望の表情で引きずられて行った。
そのすぐ後、無理を承知でキャサリンの部屋を訪問した。もう休憩されているからと渋る侍女に頼み込んで10分だけとキャサリンを呼んでもらった。
キャサリンは不機嫌を隠そうともしない素顔でヨーゼフの前に現れた。しかし、ヨーゼフの疲れ切った顔を見て怪訝そうな顔をする。
ヨーゼフはしゃべるよりも前にキャサリンを抱きしめていた。柔らかい体を抱きしめて、首のところに鼻をうめて匂いを嗅いだ。
キャサリンは困ったような呆れたようなため息を吐いてヨーゼフの背中をぽんぽんと叩いて慰めてくれた。
ーーーー
それから一週間後、調べ物を終えたヨーゼフはキャサリンに大事な話があると執務室に呼んだ。ペーターも侍女も下がってもらい、二人きりで向かい合う。
「マリアが王都まで来て大衆紙に私たちの情報を売っていた。」
「まあ。大変ですわね。」
「情報通の君のことだから、もちろんどんな情報が売られていたか知っているだろう?」
「ええ。旦那様との生活が赤裸々に語られておりました。」
ヨーゼフは苦笑して優雅に紅茶を飲むキャサリンを見る。一分の隙もない、いつものキャサリンだ。今日は少しでもこの完璧を剥いで、彼女を驚かせたい。
「私はマリアに私とのことを話さないこと、田舎の町から出ないことを条件に地元の男との婚姻を許した。相手は地元の牧場で働く三男で、王都に働きに出て放蕩したあげく金と仕事がなくなって実家に戻ってきたような男らしい。
マリアに定期的に金が入ることを嗅ぎつけ、打算で体の関係を持った。」
「…それは私が聞くべき話でしょうか?」
「ああ。聞いてほしい。」
ヨーゼフは前かがみになると太ももの上にひじをついて手を合わせた。
「ほどなくマリアは妊娠して二人は結婚したが、子供はすぐに流れてしまったらしい。マリアは長く避妊薬を飲んでいたからそのせいかもしれない。男はマリアへの金をあてにしてまた遊びに出るようになり、牛の世話をマリアに押し付けた。二人の関係は冷めきったころ、私とキャシーの視察を見たらしい。」
領地を視察したときに、確かに酪農の現場を見に行った。その中にマリアの嫁ぎ先もあったのだろう。ペーターはおそらく知っていたが、黙っていた。
「仲睦まじい私たちの様子を見たマリアは恨みを募らせ、金を持って王都へと出てきた。そして、私たちの情報を売ったわけだ。」
「あちら様の婚姻を許した旦那様の落ち度に聞こえますが。」
「そうだね。だから、今度は厳しく、罪人として牢に送ったよ。」
キャサリンはヨーゼフが何をしたのかもちろん知っていたらしい。驚くほど反応がなかった。
「君のことを侮辱されて頭にきたんだ。何かがぷつんと切れて、気づけばマリアを罪人にしていた。」
「貴族としては正しい措置だと思いますわ。」
「今回、マリアは君のことを貶めたかったようなんだ。それが叶わず、もう一度、今度は嘘の情報を大衆紙に売ろうとしていた。しかし、そちらは私が動く前に差し止めになっていたよ。出版社の方で記者がクビになってね。」
キャサリンはにっこりと笑う。その表情を見てヨーゼフは確信した。
「やっぱり、君だったんだね。」
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