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第五章 無計画な真実の愛
裏/マリア
どうしてこんなことに…!
マリアは囚人を移送する馬車に揺られていた。乗っているのはマリアの他は数名の男だけだ。男たちはマリアを見て眉を顰めたり、下品な笑いを向けてきたり、不快極まりなかった。
マリアは膝を抱えて顔を伏せる。
まさか、ヨーゼフがこのような残酷なことをするだなんて、マリアは思いもしなかった。マリアが何をしたって、どうせ困った顔をしつつ甘い罰を与えて終わりだと思っていたのだ。
ヨーゼフとの契約を忘れていたわけではない。ただ、大した罰は受けないと信じていた。
マリアがバッツドルフ公爵邸を出る時、家令であるペーターが一枚の契約書を出してきた。そこには、『ヨーゼフとの話を誰にもしないこと』、『修道院から出ないこと』の二点を守れば修道院にて寝食を保証すると言う契約内容が書かれていた。
契約にのっとり訪れた修道院はつまらない場所だった。寝食が保証されているだけでは、今までヨーゼフのお金で贅沢に怠惰に暮らしてきたマリアにとっては刺激のない修道院は到底満足できる場所ではなかったのだ。
そんな時に出会ったのが、カールだった。
カールはたくましい体つきをした田舎ではあまり見かけないイケメンで、修道院に乳製品を運んでくれる牧場主の息子だった。王都で出稼ぎをしていたことがあるらしく、田舎にいて一人、洗練されて見えた。
皆が憧れた王子様であるヨーゼフを見慣れていたマリアだったが、離れてしばらくたつとその美しさも記憶の中では薄れていき、カールがとてもかっこよく見えたのだ。
カールは最初こそマリアを面倒そうにあしらっていたが、尊い人の愛人であったこと、沈黙を守ることを理由に寝食を保証されていることを話すと、マリアに興味を持った様だった。
やがて二人の間には愛が芽生えて体を重ねた。人目を盗んだおざなりな行為だったが、マリアは満たされ、そして子供を身ごもった。
別に子供に興味はなかったが、カールに修道院を出て夫婦になろうと言われたのは嬉しかった。甘いヨーゼフのことだから簡単に許してくれると思ったし、実際にそうだった。
契約書の内容を『修道院から出ないこと』から『田舎町から出ないこと』に変えて、マリアはカールと結婚した。
夢いっぱいで訪れたカールの家は…、修道院に負けず劣らずの小さいものだった。いや、清潔なだけ修道院の方がマシだった。
「ああ。掃除をよろしく頼むな。」
嫁いだ最初の日からカールはマリアを家政婦か何かのように扱った。家事に始まり、子供が流れてしまった後は牧場の仕事も手伝わさせられた。文句を言えば「こんな年増を娶ってやったんだから感謝しろ」と暴言を吐かれた。
そこにあったはずの愛はすぐにわからなくなり、カールはマリアに定期的にヨーゼフから送られてくる金をあてにして働かなくなった。あげくはその金で女を買うようになった。
そんな生活をしていたころ、ヨーゼフがあの女を伴って領地を視察しているところを偶然目撃したのだ。
シンプルながらも上品に着飾ったあの女はヨーゼフの隣で笑顔を振りまき、子供たちから花をもらっていた。隣にはヨーゼフが寄り添い、仲睦まじげに歩いていく。
そして、久しぶりに見るヨーゼフのかっこいいこと。カールなんて、全く比ではなかった。
マリアの中に忘れていた怒りがメラッと燃え上がった。
私をこんな状況に追いやっておいて幸せそうに…!
あんな女、ヨーゼフ様に愛されていないのに大きな顔をして…!
本来であれば美しいヨーゼフ様の隣にいるのは私だったはずなのに…!
思えばあの日。バッツドルフ家の本邸に怒鳴り込んだあの日。マリアは確かに夫婦の寝室に灯りがついているのを見た。そこからすべてが悪い方に向かってしまった。
ヨーゼフとあの女は夜を共に過ごしてはいなかったが、夫婦の寝室に灯りがついていた事実。しかし、本当にあの部屋は夫婦の寝室だったのだろうか?
離れについていた侍女に言われたので信じてしまったが、もしかして、あれは私を屋敷から追い出すためにあの女がしくんだ嘘だったのでは?
愛され、敬われるはずだった私の立場を奪ったあの女が憎い…!
そこからはマリアはあの女の悪評を立てるべく、家の金を全部持って王都へと向かった。カールのことなどどうでもよくなっていた。
そしてかつてよく読んでいた大衆紙にヨーゼフとの過去をたれこんだ。
あの女について悪し様に語ったのに、記事で強調されていたのはヨーゼフが不能だと言う話だった。記者に文句を言ったが、「キャサリン夫人に悪いところがあるようには思えない」と新しい記事を書こうとはしなかった。
それならばとさらにゴシップを好むような低俗な新聞紙に嘘も交えてあの女の悪行をたれこんだ。
それが記事になればマリアの鬱憤も晴れるはずだった。
結果はこれだ。
今、マリアはさらなる地獄へと向かう馬車に揺られている。あの女のせいでヨーゼフは変わってしまった。こんなことをする人じゃなかった。あの女のせいだ。
結局、マリアが自分の行いを反省することは最後までなかった。
マリアは囚人を移送する馬車に揺られていた。乗っているのはマリアの他は数名の男だけだ。男たちはマリアを見て眉を顰めたり、下品な笑いを向けてきたり、不快極まりなかった。
マリアは膝を抱えて顔を伏せる。
まさか、ヨーゼフがこのような残酷なことをするだなんて、マリアは思いもしなかった。マリアが何をしたって、どうせ困った顔をしつつ甘い罰を与えて終わりだと思っていたのだ。
ヨーゼフとの契約を忘れていたわけではない。ただ、大した罰は受けないと信じていた。
マリアがバッツドルフ公爵邸を出る時、家令であるペーターが一枚の契約書を出してきた。そこには、『ヨーゼフとの話を誰にもしないこと』、『修道院から出ないこと』の二点を守れば修道院にて寝食を保証すると言う契約内容が書かれていた。
契約にのっとり訪れた修道院はつまらない場所だった。寝食が保証されているだけでは、今までヨーゼフのお金で贅沢に怠惰に暮らしてきたマリアにとっては刺激のない修道院は到底満足できる場所ではなかったのだ。
そんな時に出会ったのが、カールだった。
カールはたくましい体つきをした田舎ではあまり見かけないイケメンで、修道院に乳製品を運んでくれる牧場主の息子だった。王都で出稼ぎをしていたことがあるらしく、田舎にいて一人、洗練されて見えた。
皆が憧れた王子様であるヨーゼフを見慣れていたマリアだったが、離れてしばらくたつとその美しさも記憶の中では薄れていき、カールがとてもかっこよく見えたのだ。
カールは最初こそマリアを面倒そうにあしらっていたが、尊い人の愛人であったこと、沈黙を守ることを理由に寝食を保証されていることを話すと、マリアに興味を持った様だった。
やがて二人の間には愛が芽生えて体を重ねた。人目を盗んだおざなりな行為だったが、マリアは満たされ、そして子供を身ごもった。
別に子供に興味はなかったが、カールに修道院を出て夫婦になろうと言われたのは嬉しかった。甘いヨーゼフのことだから簡単に許してくれると思ったし、実際にそうだった。
契約書の内容を『修道院から出ないこと』から『田舎町から出ないこと』に変えて、マリアはカールと結婚した。
夢いっぱいで訪れたカールの家は…、修道院に負けず劣らずの小さいものだった。いや、清潔なだけ修道院の方がマシだった。
「ああ。掃除をよろしく頼むな。」
嫁いだ最初の日からカールはマリアを家政婦か何かのように扱った。家事に始まり、子供が流れてしまった後は牧場の仕事も手伝わさせられた。文句を言えば「こんな年増を娶ってやったんだから感謝しろ」と暴言を吐かれた。
そこにあったはずの愛はすぐにわからなくなり、カールはマリアに定期的にヨーゼフから送られてくる金をあてにして働かなくなった。あげくはその金で女を買うようになった。
そんな生活をしていたころ、ヨーゼフがあの女を伴って領地を視察しているところを偶然目撃したのだ。
シンプルながらも上品に着飾ったあの女はヨーゼフの隣で笑顔を振りまき、子供たちから花をもらっていた。隣にはヨーゼフが寄り添い、仲睦まじげに歩いていく。
そして、久しぶりに見るヨーゼフのかっこいいこと。カールなんて、全く比ではなかった。
マリアの中に忘れていた怒りがメラッと燃え上がった。
私をこんな状況に追いやっておいて幸せそうに…!
あんな女、ヨーゼフ様に愛されていないのに大きな顔をして…!
本来であれば美しいヨーゼフ様の隣にいるのは私だったはずなのに…!
思えばあの日。バッツドルフ家の本邸に怒鳴り込んだあの日。マリアは確かに夫婦の寝室に灯りがついているのを見た。そこからすべてが悪い方に向かってしまった。
ヨーゼフとあの女は夜を共に過ごしてはいなかったが、夫婦の寝室に灯りがついていた事実。しかし、本当にあの部屋は夫婦の寝室だったのだろうか?
離れについていた侍女に言われたので信じてしまったが、もしかして、あれは私を屋敷から追い出すためにあの女がしくんだ嘘だったのでは?
愛され、敬われるはずだった私の立場を奪ったあの女が憎い…!
そこからはマリアはあの女の悪評を立てるべく、家の金を全部持って王都へと向かった。カールのことなどどうでもよくなっていた。
そしてかつてよく読んでいた大衆紙にヨーゼフとの過去をたれこんだ。
あの女について悪し様に語ったのに、記事で強調されていたのはヨーゼフが不能だと言う話だった。記者に文句を言ったが、「キャサリン夫人に悪いところがあるようには思えない」と新しい記事を書こうとはしなかった。
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それが記事になればマリアの鬱憤も晴れるはずだった。
結果はこれだ。
今、マリアはさらなる地獄へと向かう馬車に揺られている。あの女のせいでヨーゼフは変わってしまった。こんなことをする人じゃなかった。あの女のせいだ。
結局、マリアが自分の行いを反省することは最後までなかった。
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