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第二章 大国での失恋

大国の皇太后はお怒りです

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一方その王宮ではドラフォードの国王が執務室を珍しく訪れた母のアン皇太后に責められていた。

「ピーター、オーウェンの嫁を廷臣らに相談もせずに決めたって本当?」

「これはこれは母上。ご機嫌麗しう。」

「しらじらしい。全然機嫌は良くないわよ。」
むっとしてアンは言う。

ここ最近のドラフォードの繁栄は国王ピーターの治世でもたらされたといわれていたが、そのピーターをもってしても母は苦手だった。特に昔ながらの農耕に拘る母は守旧派の人脈の中心におり、新しい商人グループと親しいピーターとはそりが合わないことも多かった。
王妃も新しいもの好きで、古いものを愛する皇太后とはそりが合わない。
王族と言えども嫁姑の争いはどこにでもあることで、皇太子の嫁問題でも、皇太后と王妃はもめていた。そこへクリスがオーウェンの婚約者に決まったと聞いたから大変だ。

「一国の皇太子の婚約者を決めるのにあまりにも軽々しいのではなくて。
それも私は何も知らないわ。あまりにもひどくない?」

「母上をないがしろにしたと言うことは無く、まだ、正式には決まっておりませんよ。」

「本当に?今も、バーミンガム公爵が私のところに来てさんざん文句を言われたのだけど。」
厳しい顔でアンは言う。

「それもマーマレードの皇太子に婚約破棄をされたところの令嬢だとか」

「オーウェンはそれは政争に巻き込まれただけで、本人はとてもいい令嬢だと」

「そもそも公の場で婚約破棄をされるなど言語道断。
そんなことで1国の王妃が務まるとでも思っているの?」
皇太后が手厳しく言う。

「母上。今回はオーウェンのたっての願いなのです。
あまり、わがままを言った事がなかったオーウェンがどうしても隣国のミハイル侯爵令嬢が良いと電話でねだって来た次第でして」
ピーターとしてもこんなに急に決めていいのかという疑問もあったが、珍しい息子の希望をつい優先してしまいたいという思いもあった。
国内の景気も良く、海外も何故かここ3年は侵略国家のノルディンが静かで。
皇太子の相手が誰でも良いとは思っており、ノルディンの侵略の手を止めてくれたマーマレードの王家ともつながりの深い侯爵令嬢でもいいのではないかと思っていた。

王妃はミハイル譲の母親とは親しく、王妃の妹のやっていた王妃教育の成果もはっきり評価されると聞き及び、令嬢本人とも電話で話して好印象を持っていた。
側近連中の反応も悪くはなく、問題は守旧派がどう思うかだったが。
早速その代表格の母が怒鳴りこんで来たか。

「まあ、母上。ミハイル嬢も今は婚約破棄をされたところ。
すぐにというわけではなく、こちらの方にキャロラインが呼んでいるので一度本人に会ってご判断いただけますか。」

「判りました。今の王妃は商業国家のテレーゼの王女だったんだから、今度は是非とも国内から選んで欲しいものね。
もっとも私の話なんか誰も聞いてくれないけど」
皇太后は嫌味を言って出て行った。


「というわけで、皇太后様はご機嫌斜めだったぞ。
もう少しうまくやって欲しいんだが。」
ピーターはその夜に王妃のキャロルに苦笑いをした。

「皇太后さまのお勧めはナヴァール侯爵家のイザベル嬢なんですけど、オーウェンは学院時代から嫌っていて」

「オーウェンは小さい時からクリス嬢が好きなんだろう」

「それを知ったエリザベスがこちらが手を打つ前に、さっさと自分の息子の婚約者にしたのよ」
むっとしてキャロルが言う。
オーウェンがクリスが好きみたいッてエリザベスに匂わした翌月には婚約が調っていたのだ。まさかクリスを10歳で婚約させるなんて思わなかった。
その時に散々オーウェンに喚き散らされたが、それ以来8年間、13歳から18歳までの学園時代含めてオーウェンには浮いた話が無くて、心配していた矢先がマーマレードへの留学だ。

「まあ、諦めきれなくて、3ヶ月のマーマレード王国短期留学なんてするオーウェンもオーウェンだが」
呆れた表情の国王が言う。
「目の前でその婚約者が婚約破棄されて、歓喜に震えていたって。」

「なんか聞いてた話が違うぞ。」
国王が突っ込む。

「心の言葉はそうよ。だからこれを逃すと二度とないって必死になって電話してきたじゃない。」

「慌てるあまり何言っているか理解するのに30分くらいかかったが。」

「それ諦めさせるの無理じゃない?」
諦めた表情でキャロルは言った。

「どれだけ持ち出しても婚約話には絶対に頷かなかったオーウェンだしな。」

「申し訳ないけど、皇太后さまには諦めて頂かないと」

「でも、母上はオーウェンと同じで頑固だぞ」
「そうよね」
二人は見つめ合ってため息をついた。




翌日その国王が激怒してオーウェンに電話していてた。

「お前、なんで一国の皇太子殿下をほったらかしにしてマーマレードに行こうとしている」

「は?何言っているんですか父上。
あいつは私がミハイル嬢との仲を邪魔するためにこの地まで来たんですよ。」
馬上でオーウェンは叫ぶ。
「何をふざけたことを言っている。
一国の皇太子殿下がそんな暇な訳無いだろ。
お前が焦るのは判るが、一国の皇太子殿下の用も聞かずに飛び出したと聞いて
私は頭が桃色になるのもいい加減にしろと思ったぞ!

ノルディンの大使にも皇太子殿下は我がノルディンよりもその女性の方の方が
大切みたいですねと嫌味を言われるしな。」

ピーターはノルディンの大使にだけは嫌味は言われたくなかった。
今までどれだけノルディンには嫌な目にあわされてきたか。
それを邪魔するたびに嫌味を言ってきたのに。
今回はいつもと逆だ。

「ジェキンス」
電話で皇太子の護衛隊長を怒鳴る
「はい、真横におります」
「判ったな。今すぐその桃色皇太子を王都に帰して、ノルディン皇太子の用件を実行させよ」
「はっ」
馬上で礼をする。
「オーウェン。今回の件をきちんとしない限り、婚約は認めないからな」
ピーターは叫ぶだけ叫ぶと電話を切った。

「国王陛下。オーウェンはどちらに行こうとしていたのですか?
もう2、3日したらクリス嬢がこちらに着きますけど」
横で聞いていたキャロルが言った。

「えっそんなに早くか」
驚いて国王が聞いた。
「はい。今シャーロットから連絡が入りまして。こちらに来る船があったからそれに便乗したと」
「あいつは知らないのか」
「そうみたいですね。
すいません。伝えておりませんでした。
というかその暇もありませんでしたし、帰って来るからその時に言おうと思っていたのですが、
会う事も無くマーマレードに行こうとするとは想像だにしませんでした。
伝えましょうか?」

「いや良い。今伝えると何しでかすか判らん。
とりあえず、何しに来たか判らんが赤い死神の用件をきちんと終えさせた後だ」
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