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アルバート視線2 小国侍女が気になり始めました

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そのあと、ソニアが魔力を使いすぎて倒れたと聞いた。

やはりソニアはあわてんぼうでおっちょこちょいだ。

翌朝の朝礼ではクリス様の学園のお友達がどんな方か一応皆には紹介しておいた。紹介の中で、多少はおっちょこちょいで天然だと言ったけれど自分では決して馬鹿にしたつもりはない。

今日はそのソニアとクリス様が街をお忍びで歩かれるとのことで、俺ら護衛は後ろから隠れてついていくつもりだった。

そこへ、内務卿が私服に着替えてやってきた。

「何故、内務卿が」
クリス様が不審そうにつぶやくと

「クリスは冷たい。内務卿だなんて。私はオウだ!」
内務卿、いや皇太子が言う。俺は頭が痛くなった。オーウェン・ドラフォード、こいつは我が故国ドラフォードの皇太子だ。

「君たちが学園で遊んでいる間に私は仕事をしているんだから、たまの休みくらい、私にも付き合って欲しいんだけど」
オーウェンは寂しそうに言った。こいつはいつもそうだ。自国の皇太子だが、本当にわざとらしい。クリス様に付きまとって10年以上。未だにクリス様の婚約者になれていないのに諦めが悪い。今回も主要4ヶ国、すなわち、シャラザール3国のマーマレード、テレーゼ、ドラフォードとノルディン帝国の皇太子のうち自分一人だけ仕事をさせられていると言っているのだ。
テレーゼのアメリア皇太子殿下は学園長をしていたし、ジャンヌ・マーマレード皇太子とノルディンの皇太子のアレクは魔導クラスにいたのだ。

昔からクリス様に気があるのに、マーマレードの王妃の企みであっさりマーマレードの皇太子に先を越されて、それ以来、自分の両親とも折り合いが悪かった。
さっさと婚約を申し込まなかった本人が悪いと思うのだが、それを両親のせいにしていたのだ。

今はそのマーマレードの婚約者もいなくなり、周りに憚りもなく、強引にアプローチしているのだが、クリス様の反応はもう一つだ。

「オウ、でも今日はソニアと出かけることにしているの」
クリス様がそう冷たく言い放つが、

「知っているよ。クリスの友達でインダル王国の王女の侍女だろ。私もクリスの初めての平民の友達と会ってみたい」

「初めての平民の友達?」
オウの言葉にクリス様は固まっていた。

確かに、クリス様は施政者で今まで年の近い友達なんていなかった。それも平民なんているわけはない。マーマレードでも学園には通っていたが、その時は自国の皇太子の婚約者だったので、皆とは身分の差がはっきりあった。今回クリス様は身分を隠して学園に通っているからこその身分の差のない友達とも言えた。

「それに、彼女の主の王女の立場も今は大変だろう。私と知り合うことが彼女のプラスになることもあるだろう。ボフミエで役に立てなくてもドラフォードが役に立てることがあるかも知れないし」
さすが陰謀大魔王。父のドラフォード国王もそうだが、この息子も悪巧みは得意だ。戦力的には北のノルディン帝国が強くても、その悪巧みでノルディンの野望の数々を叩き潰してきただけのことはある。こういうときでも、クリス様が断れない話できちんと持ってくる。

「でも、私達にオウがおじゃま虫でついてくるの?」
クリス様が冷たく言うが、
「何言っているの。アルバートとその子は知り合いなんだろう。一緒に来させればいいじゃないか。それで2対2で釣り合うんじゃないか」
おいおい、こいつは絶対にクリス様とデートするつもり満々だ。二人の邪魔なソニアを俺に押し付けるつもりだ。

「そうね。アルバートももっとソニアと仲良くしてくれたら良いし」
「えっ、私がですか」
クリス様の言葉に俺は驚いた。というか、こうなることは目に見えていた。バカップルにおじゃま虫が2人になるに違いなかった。

ドジっ子娘のお守役か、まあ、今日も色々やってくれそうだし、見ている分には良いか。俺はなぜか少し楽しくなってきた。


しかし、ドジっ子娘は最初から機嫌が悪かった。
顎を突き出して俺を無視してさっさと歩き出す。

「おい、無視するなよ」
俺は慌てて声をかけた。

「人の知られたくないことペラペラ皆に話すなんて最低!」
ソニアは振り向いて俺に向けて睨み返してきた。

「えっ、どういう事?」
俺はよく判らなかった。何か言ったっけ?

「ミアに聞いたの。私のドジしたこと皆に面白おかしく言いふらしていたって」
「えっ、言いふらしてなんていないぞ」
ソニアの言葉に俺は慌てて言った。そう、あくまでも事実しか言っていない。

「あっ、それ俺も聞いたよ。インダルから留学できた子がドジッ子過ぎて面白いって」
ここで皇太子が余計なことを言ってきた。こいつは本当にムカつく。

「ほら、あなたが広めたんでしょ。最低。行きましょ。クリス」
ソニアは怒ってクリス様を引っ張って歩き出した。

「えっ、ちょっと待ってよ」
俺たちは慌てて追っかけた。

しかし、怒ったソニアはクリス様を連れてドンドン歩いていく。おいっ、そんなに急いだらぶつかるぞ、俺がいいそうになった時だ。

ソニアは横道から出て来た大男にもろにぶつかりそうになった。

「気をつけろ」
男の怒声にソニアはビビっていた。

「ほおおお、可愛い姉ちゃんだな」
男がソニアの顔を見てニヤリと笑う。男がソニアの顔をにやけて見ているのをみて、何故か俺は腹が立った。

「私の連れが何かしたか」
俺は気づいた時には男に向けて凄まじい殺気を放っていた。

「ヒィィィぃ」
男は慌てて逃げて行った。

「本当に君は人にぶつかるのが好きだな」
俺は不機嫌にソニアに言った。

「いつもぶつかってないし」
ソニアはぶすっとして反論する。

「まあまあ二人共怒らない」
クリス様が間に入ってこられた。

「ソニアも、せっかくアルと話せる機会なんだから」
クリス様が言う。それってバーミンガム公爵家の令息と仲良くなればインダル王女の後ろ盾になってくれるというやつか。そんなの親父が許すわけ無いと思うんですけど。

「別に頼んでないし」
せっかくのクリス様の話にソニアは言いやがった。こいつ、我が主のクリス様になんてことを。
「まあ、でも助けてくれたんだから」
しかし、クリス様は友達との会話を楽しんでいるみたいだった。

「助けて頂いてありがとうございました。アルバート様」
それを見て逡巡したソニアが頭を下げてきた。

「ふんっ」
俺は後ろ盾にはならないぞ。そう思いながら

「俺はアルだ!アルって呼んでくれ」
何故かそう言っていた。まあ、俺もニックネーム呼びで行動する予定だったが今言うことでもないような。

「判った。アル。皆に私のドジ話したのは許さないけれど今のは感謝するわ」
ソニアが仕方がないから許してやるといった上から目線で言う。

「いや、ひどい話をした覚えは無いぞ」
「だって皆、私を見たらあああのドジなって納得してくれるのよ」
俺の言い訳にソニアがぶすっとして言う。

「まあ、ソニア、アルも不注意に広めたのは悪いかもしれないけれど、皆に名前が売れたんだから、良しとしたらどうかな。外交の基本はまず名前を売り込むことだから」
皇太子が訳知り顔に言ってくれる。

「そうよ。ソニア、それに、いざとなったらアルが何とかしてくれるわよ」
クリスが言うが、

「えっ、本当ですか。アル様」
ソニアが喜んで私の顔を見た。

「そんな事、出来るわけ無いだろう」
俺は思わず否定したが、

「そうですよね。私平民ですし、インダルなんて小国、超大国ドラフォードの公爵家の方からしたらクズみたいなものですし、笑い者にするくらいしか出来ませんよね」
ソニアのがっかりした様子を見て、心が少し傷んだ。

「えっ、いや、そんな事は思っていないぞ」

「でも皆で笑い者にしてくましたし」

「してないって」
俺は必死に言い訳を始めた。

「まあまあ、ソニア。アル様はいざという時は助けてくれるから」
「そう、アルは心が広いから」
クリス様と皇太子が無責任に言う。

「いや、私よりもあなた方のほうが・・・・」
俺は思わずバラしそうになった。

たかだか一公爵家の令息それも嫡子じゃないから力もそんなに無いよりも、ボフミエ魔導国のトップの筆頭魔道士様と大国ドラフォード王国の次期国王陛下のほうが余程後ろ盾としては最適だろう。
心の中で俺は盛大に叫んでいた。
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