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第3話 ークラスSNSの亡霊ー ③
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翌日の昼休み。
真白と恋は、教室の端の窓際で、できるだけ目立たないようにスマホを寄せた。
恋が早口で言う。
「梨央ちゃんね、今日も元気ない。あと、クラスの男子が“亡霊って誰だよ”って騒いでて、空気最悪」
「……うん」
真白は恋の情報を受け取って、頭の中で地図に落としていく。噂が走る場所、火が付きやすい場所。
恋は人の流れを読むのが速い。真白はデータの流れを読む。二人の視点が交差すると、見える範囲が広がる。
「ねえ、真白。昨日の“リンク”のやつ、誰かが投げてるってことだよね?」
「たぶん。匿名サービスには“受信箱”みたいなのがある。そこに来たメッセージを、亡霊が拾って投稿してる」
恋が顔をしかめる。
「じゃあさ、受信箱に投げたら、亡霊が拾う?」
真白は一瞬迷ってから、首を振った。
「試すなら、やり方を選ばないと危ない。……変なメッセージが増える可能性がある」
「だよね。ごめん、勢いで言った」
恋は素直に引っ込める。真白はその素直さに、少しだけ胸があたたかくなる。
「もし試すなら、害のない文章で、反応だけを見る。……でも、それは最後の手段」
恋が頷く。
「じゃ、今は“手動のほう”探す?」
「うん。……手動で投稿してる人は、亡霊を“操作できる”立場にいる。つまり、亡霊アカウントのログイン情報を知ってる」
「ログイン情報……パスワードとか」
「そう」
真白は、亡霊アカウントがクラスSNSに参加した日を思い出した。連休明け。
そのタイミングで、誰かが招待した。
招待できるのは、グループ管理者か、招待権限のある人。
恋が思い出したみたいに言う。
「あ、クラスSNSの招待って、委員がやってるよね。学級委員と……SNS係?」
「うん。……SNS係は、宮坂くんだったはず」
恋の口が一瞬止まる。
「みやさか……あの、いつもスマホいじってる?」
「うん。悪い人って感じじゃないけど……」
恋は、言葉を選びながら続けた。
「でも、前にさ。先生が来る直前に、クラスSNSの画像変えたりして、ちょっと“ウケ狙い”やってたの、宮坂だった」
真白はその情報を、心の中でそっと棚に置いた。
まだ決めつけない。
恋の情報は鋭いけれど、鋭いからこそ、刺さりやすい。
「可能性として、覚えておく」
「うん。あたしも、決めつけはしない」
恋がそう言ってくれるのが、ありがたい。
昼休みが終わりかけたころ、亡霊の通知が鳴った。
『昼休みの話、聞こえた』
恋がぞっとした顔をする。
「え、タイミング……」
「……偶然だよ」
真白はそう言いながら、手が少し震えるのを誤魔化すようにスマホを伏せた。
偶然。
偶然だと、言い切りたい。
でも、偶然は、怖いときほど意味を持つ。
真白は、自分の中で“次に見るべきもの”を決めた。
手動投稿が混じる時間帯。
それが、いつも“学校にいる時間”に偏っているなら。
(学校の中で、誰かが触ってる)
その“誰か”が、もし宮坂だとしても、まだ確定ではない。
ただ、宮坂が“招待できる立場”にいるなら、亡霊が参加した経路が説明できる。
真白は、心の中で小さく息を吸った。
平穏は、願うだけでは守れない。
でも、守るために走りすぎると、壊してしまう。
だから、ひとつずつ。
糸口を掴む。
放課後。
真白は恋に、短く言った。
「今日、もう一回だけ。投稿の時間帯、まとめたい。あと……招待履歴、見られるか確認する」
恋が頷いた。
「うん。あたし、宮坂のこと、今日さりげなく見とく。さりげなく、ね。さりげなく!」
「……それ、できる?」
「できるってば。たぶん!」
恋の“たぶん”に、真白は小さく笑ってしまった。
笑えるうちは、まだ大丈夫だ。
そして真白は、画面の奥に見えた“外部連携ON”の文字を、頭の中に焼き付けたまま、次の一手を考え始めた。
放課後。
真白は、廊下の端で立ち止まった。
人の流れが、ちょうど切れる場所。部活に向かう生徒と、帰宅する生徒の間にできる、ほんの数分の空白。
「……今」
恋が小さく言う。
視線の先に、宮坂がいた。
スマホを片手に、壁にもたれかかっている。いつもと変わらない姿。イヤホンを片耳だけ外し、画面をスクロールしている。
真白の胸が、静かに速くなる。
(決めつけない)
何度も自分に言い聞かせる。
可能性があるだけ。証拠はまだない。
だから、声のかけ方を間違えない。
恋が一歩前に出た。
「宮坂」
宮坂が顔を上げる。少し驚いたような表情。でも、すぐにいつもの軽い笑みに戻る。
「木下? 柏加も。なに、どうした?」
恋は、いつも通りの調子で言った。
「ねえ、ちょっと聞きたいことあるんだけど。今、いい?」
「別にいいけど」
宮坂はスマホをポケットに入れた。その動作を、真白は見逃さない。
画面を伏せる癖。ロックをかける速度。慣れている。
「亡霊アカウントのこと」
恋がそう言うと、宮坂の眉が、ほんの一瞬だけ動いた。
「……ああ、あれ? まだやってんの?」
「やってる。しかもさ、内容、ちょっとシャレにならなくなってきてる」
恋の声は軽いまま。でも、語尾が逃げない。
宮坂は肩をすくめた。
「まあ、匿名だし。誰かが面白がってるんでしょ」
真白は、その言い方に小さな違和感を覚えた。
“誰かが”。
距離を置く言い方。
「宮坂くん」
真白が名前を呼ぶ。
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
「クラスSNSの招待、宮坂くんがやってるよね」
宮坂は一瞬、言葉に詰まった。
「……ああ。SNS係だし」
「亡霊アカウントが入った日、連休明け。招待ログ、残ってると思う」
それは事実だった。クラスSNSには、管理者側だけが見られる履歴がある。
真白は、あえてそれ以上は言わない。
宮坂は、目を逸らした。
「それが、なに?」
恋が、少しだけ一歩近づく。
「亡霊アカウント、外部連携してる。匿名投稿サービス」
宮坂の喉が、わずかに動いた。
真白は、その反応を確信に変えないよう、慎重に続ける。
「匿名サービス自体は、珍しくない。でも……連携設定、普通の生徒は使わない」
沈黙が落ちる。
廊下の向こうから、部活の掛け声が聞こえる。世界は動いているのに、この三人の間だけ、時間が止まったみたいだった。
「……待って」
宮坂が、低い声で言った。
「別に、悪気はなかったんだ」
恋が眉をひそめる。
「悪気ないやつが、あんな投稿する?」
「最初は、本当に軽いノリだった」
宮坂は、視線を床に落としたまま続ける。
「匿名サービス、前から知っててさ。質問箱みたいなやつ。連携すれば、自動で投稿されるの、面白そうだなって」
真白は、息を止めたまま聞いていた。
予想していた答え。でも、実際に聞くと、胸の奥が冷える。
「連携したのは、亡霊アカウント?」
「うん。名前も適当。黒アイコンも、ただのテンプレ」
恋が噛みしめるように言う。
「それで、人の気持ちもテンプレ扱い?」
宮坂が顔を上げる。
「最初は、給食とか、体育とか。誰も傷つかないやつだけだった」
「……でも、途中から変わった」
真白が静かに言う。
宮坂は、しばらく黙ってから、頷いた。
「匿名サービスにさ、いろいろ来るんだよ。ネタ。愚痴。名前伏せた告発みたいなの」
「それを、全部流した?」
「……最初は、面白そうなのだけ」
恋の拳が、ぎゅっと握られる。
「“面白そう”で、人は壊れる」
宮坂は、何も言い返せなかった。
真白は、ここで一歩、踏み込んだ。
「宮坂くん。亡霊の投稿は、二種類ある」
宮坂の目が揺れる。
「匿名サービス経由の自動投稿と、手動投稿」
「……」
「手動のほう、学校にいる時間帯に多い。Wandroidから」
宮坂は、反射的にポケットに手を入れた。
スマホが、そこにある。
「自動投稿だけなら、あんなズレは出ない。……誰かが、追加で触ってる」
恋が言葉を継ぐ。
「それ、宮坂でしょ」
宮坂は、唇を噛んだ。
「……ちょっとだけ」
その一言で、空気が決定的に変わった。
「匿名の投稿だけだと、弱いと思って」
宮坂の声は震えている。
「だから、タイミング見て、補足みたいに書いた。名前は出してない。全部、ぼかしてた」
「ぼかしてれば、セーフ?」
恋の声が、鋭くなる。
「当てさせる構造だった」
真白は、宮坂をまっすぐ見た。
「それ、意図してたよね」
宮坂は、とうとう顔を覆った。
「……ちょっと、スリルあって」
その言葉が、真白の中で、氷みたいに落ちた。
スリル。
誰かの心を材料にした、スリル。
「でもさ」
宮坂は、急に顔を上げた。
「俺だけじゃない。匿名サービスに投げてきたやつ、他にもあった」
真白の背筋が、ひやりとする。
「他って?」
「よく分からないけど……俺が投稿した以外にも亡霊アカウントの投稿が混じってた」
恋が息を呑む。
「それ、いつ?」
「昨日と、一昨日。夜」
真白の中で、ピースがはまる音がした。
「……校内のアクセスポイント」
宮坂が驚いたように真白を見る。
「え?」
「匿名サービスが拾った投稿の中に、校内ネットワークの名前が含まれてた。場所を知ってないと、書けない」
真白は、静かに続ける。
「宮坂くんのアカウントが、踏み台に使われた可能性がある。外部から、校内の情報を引き出すために」
宮坂の顔色が変わった。
「ちょ、待って。それ、俺、知らない」
「知ってたかどうかは、今は関係ない」
真白は、はっきり言った。
「亡霊アカウントは、もう個人の悪戯じゃない」
恋が、真白の隣に並ぶ。
「ねえ宮坂。これ、先生に言う。隠せる話じゃない」
宮坂は、しばらく黙ってから、力なく頷いた。
「……分かった」
放課後の廊下に、また人の声が戻ってきた。
誰かが笑い、誰かが走る。
その日常の中で、三人だけが、違う重さを背負っていた。
真白は、胸の奥に残った違和感を、はっきり言葉にできずにいた。
外部。
外からの手。
亡霊は、まだ完全には消えていない。
「恋」
「なに?」
「……今日は、ここまで」
恋はすぐに頷いた。
「うん。十分すぎる」
宮坂は、二人に頭を下げた。
「……ごめん」
真白は、何も言わなかった。
許すとか、責めるとか、その前にやることがある。
平穏を取り戻すには、まだ一手、必要だった。
事実だけを、静かに、はっきりさせる。
そして、亡霊の影を、教室から追い出す。
真白は、そう決めて、恋と並んで校舎を出た。
真白と恋は、教室の端の窓際で、できるだけ目立たないようにスマホを寄せた。
恋が早口で言う。
「梨央ちゃんね、今日も元気ない。あと、クラスの男子が“亡霊って誰だよ”って騒いでて、空気最悪」
「……うん」
真白は恋の情報を受け取って、頭の中で地図に落としていく。噂が走る場所、火が付きやすい場所。
恋は人の流れを読むのが速い。真白はデータの流れを読む。二人の視点が交差すると、見える範囲が広がる。
「ねえ、真白。昨日の“リンク”のやつ、誰かが投げてるってことだよね?」
「たぶん。匿名サービスには“受信箱”みたいなのがある。そこに来たメッセージを、亡霊が拾って投稿してる」
恋が顔をしかめる。
「じゃあさ、受信箱に投げたら、亡霊が拾う?」
真白は一瞬迷ってから、首を振った。
「試すなら、やり方を選ばないと危ない。……変なメッセージが増える可能性がある」
「だよね。ごめん、勢いで言った」
恋は素直に引っ込める。真白はその素直さに、少しだけ胸があたたかくなる。
「もし試すなら、害のない文章で、反応だけを見る。……でも、それは最後の手段」
恋が頷く。
「じゃ、今は“手動のほう”探す?」
「うん。……手動で投稿してる人は、亡霊を“操作できる”立場にいる。つまり、亡霊アカウントのログイン情報を知ってる」
「ログイン情報……パスワードとか」
「そう」
真白は、亡霊アカウントがクラスSNSに参加した日を思い出した。連休明け。
そのタイミングで、誰かが招待した。
招待できるのは、グループ管理者か、招待権限のある人。
恋が思い出したみたいに言う。
「あ、クラスSNSの招待って、委員がやってるよね。学級委員と……SNS係?」
「うん。……SNS係は、宮坂くんだったはず」
恋の口が一瞬止まる。
「みやさか……あの、いつもスマホいじってる?」
「うん。悪い人って感じじゃないけど……」
恋は、言葉を選びながら続けた。
「でも、前にさ。先生が来る直前に、クラスSNSの画像変えたりして、ちょっと“ウケ狙い”やってたの、宮坂だった」
真白はその情報を、心の中でそっと棚に置いた。
まだ決めつけない。
恋の情報は鋭いけれど、鋭いからこそ、刺さりやすい。
「可能性として、覚えておく」
「うん。あたしも、決めつけはしない」
恋がそう言ってくれるのが、ありがたい。
昼休みが終わりかけたころ、亡霊の通知が鳴った。
『昼休みの話、聞こえた』
恋がぞっとした顔をする。
「え、タイミング……」
「……偶然だよ」
真白はそう言いながら、手が少し震えるのを誤魔化すようにスマホを伏せた。
偶然。
偶然だと、言い切りたい。
でも、偶然は、怖いときほど意味を持つ。
真白は、自分の中で“次に見るべきもの”を決めた。
手動投稿が混じる時間帯。
それが、いつも“学校にいる時間”に偏っているなら。
(学校の中で、誰かが触ってる)
その“誰か”が、もし宮坂だとしても、まだ確定ではない。
ただ、宮坂が“招待できる立場”にいるなら、亡霊が参加した経路が説明できる。
真白は、心の中で小さく息を吸った。
平穏は、願うだけでは守れない。
でも、守るために走りすぎると、壊してしまう。
だから、ひとつずつ。
糸口を掴む。
放課後。
真白は恋に、短く言った。
「今日、もう一回だけ。投稿の時間帯、まとめたい。あと……招待履歴、見られるか確認する」
恋が頷いた。
「うん。あたし、宮坂のこと、今日さりげなく見とく。さりげなく、ね。さりげなく!」
「……それ、できる?」
「できるってば。たぶん!」
恋の“たぶん”に、真白は小さく笑ってしまった。
笑えるうちは、まだ大丈夫だ。
そして真白は、画面の奥に見えた“外部連携ON”の文字を、頭の中に焼き付けたまま、次の一手を考え始めた。
放課後。
真白は、廊下の端で立ち止まった。
人の流れが、ちょうど切れる場所。部活に向かう生徒と、帰宅する生徒の間にできる、ほんの数分の空白。
「……今」
恋が小さく言う。
視線の先に、宮坂がいた。
スマホを片手に、壁にもたれかかっている。いつもと変わらない姿。イヤホンを片耳だけ外し、画面をスクロールしている。
真白の胸が、静かに速くなる。
(決めつけない)
何度も自分に言い聞かせる。
可能性があるだけ。証拠はまだない。
だから、声のかけ方を間違えない。
恋が一歩前に出た。
「宮坂」
宮坂が顔を上げる。少し驚いたような表情。でも、すぐにいつもの軽い笑みに戻る。
「木下? 柏加も。なに、どうした?」
恋は、いつも通りの調子で言った。
「ねえ、ちょっと聞きたいことあるんだけど。今、いい?」
「別にいいけど」
宮坂はスマホをポケットに入れた。その動作を、真白は見逃さない。
画面を伏せる癖。ロックをかける速度。慣れている。
「亡霊アカウントのこと」
恋がそう言うと、宮坂の眉が、ほんの一瞬だけ動いた。
「……ああ、あれ? まだやってんの?」
「やってる。しかもさ、内容、ちょっとシャレにならなくなってきてる」
恋の声は軽いまま。でも、語尾が逃げない。
宮坂は肩をすくめた。
「まあ、匿名だし。誰かが面白がってるんでしょ」
真白は、その言い方に小さな違和感を覚えた。
“誰かが”。
距離を置く言い方。
「宮坂くん」
真白が名前を呼ぶ。
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
「クラスSNSの招待、宮坂くんがやってるよね」
宮坂は一瞬、言葉に詰まった。
「……ああ。SNS係だし」
「亡霊アカウントが入った日、連休明け。招待ログ、残ってると思う」
それは事実だった。クラスSNSには、管理者側だけが見られる履歴がある。
真白は、あえてそれ以上は言わない。
宮坂は、目を逸らした。
「それが、なに?」
恋が、少しだけ一歩近づく。
「亡霊アカウント、外部連携してる。匿名投稿サービス」
宮坂の喉が、わずかに動いた。
真白は、その反応を確信に変えないよう、慎重に続ける。
「匿名サービス自体は、珍しくない。でも……連携設定、普通の生徒は使わない」
沈黙が落ちる。
廊下の向こうから、部活の掛け声が聞こえる。世界は動いているのに、この三人の間だけ、時間が止まったみたいだった。
「……待って」
宮坂が、低い声で言った。
「別に、悪気はなかったんだ」
恋が眉をひそめる。
「悪気ないやつが、あんな投稿する?」
「最初は、本当に軽いノリだった」
宮坂は、視線を床に落としたまま続ける。
「匿名サービス、前から知っててさ。質問箱みたいなやつ。連携すれば、自動で投稿されるの、面白そうだなって」
真白は、息を止めたまま聞いていた。
予想していた答え。でも、実際に聞くと、胸の奥が冷える。
「連携したのは、亡霊アカウント?」
「うん。名前も適当。黒アイコンも、ただのテンプレ」
恋が噛みしめるように言う。
「それで、人の気持ちもテンプレ扱い?」
宮坂が顔を上げる。
「最初は、給食とか、体育とか。誰も傷つかないやつだけだった」
「……でも、途中から変わった」
真白が静かに言う。
宮坂は、しばらく黙ってから、頷いた。
「匿名サービスにさ、いろいろ来るんだよ。ネタ。愚痴。名前伏せた告発みたいなの」
「それを、全部流した?」
「……最初は、面白そうなのだけ」
恋の拳が、ぎゅっと握られる。
「“面白そう”で、人は壊れる」
宮坂は、何も言い返せなかった。
真白は、ここで一歩、踏み込んだ。
「宮坂くん。亡霊の投稿は、二種類ある」
宮坂の目が揺れる。
「匿名サービス経由の自動投稿と、手動投稿」
「……」
「手動のほう、学校にいる時間帯に多い。Wandroidから」
宮坂は、反射的にポケットに手を入れた。
スマホが、そこにある。
「自動投稿だけなら、あんなズレは出ない。……誰かが、追加で触ってる」
恋が言葉を継ぐ。
「それ、宮坂でしょ」
宮坂は、唇を噛んだ。
「……ちょっとだけ」
その一言で、空気が決定的に変わった。
「匿名の投稿だけだと、弱いと思って」
宮坂の声は震えている。
「だから、タイミング見て、補足みたいに書いた。名前は出してない。全部、ぼかしてた」
「ぼかしてれば、セーフ?」
恋の声が、鋭くなる。
「当てさせる構造だった」
真白は、宮坂をまっすぐ見た。
「それ、意図してたよね」
宮坂は、とうとう顔を覆った。
「……ちょっと、スリルあって」
その言葉が、真白の中で、氷みたいに落ちた。
スリル。
誰かの心を材料にした、スリル。
「でもさ」
宮坂は、急に顔を上げた。
「俺だけじゃない。匿名サービスに投げてきたやつ、他にもあった」
真白の背筋が、ひやりとする。
「他って?」
「よく分からないけど……俺が投稿した以外にも亡霊アカウントの投稿が混じってた」
恋が息を呑む。
「それ、いつ?」
「昨日と、一昨日。夜」
真白の中で、ピースがはまる音がした。
「……校内のアクセスポイント」
宮坂が驚いたように真白を見る。
「え?」
「匿名サービスが拾った投稿の中に、校内ネットワークの名前が含まれてた。場所を知ってないと、書けない」
真白は、静かに続ける。
「宮坂くんのアカウントが、踏み台に使われた可能性がある。外部から、校内の情報を引き出すために」
宮坂の顔色が変わった。
「ちょ、待って。それ、俺、知らない」
「知ってたかどうかは、今は関係ない」
真白は、はっきり言った。
「亡霊アカウントは、もう個人の悪戯じゃない」
恋が、真白の隣に並ぶ。
「ねえ宮坂。これ、先生に言う。隠せる話じゃない」
宮坂は、しばらく黙ってから、力なく頷いた。
「……分かった」
放課後の廊下に、また人の声が戻ってきた。
誰かが笑い、誰かが走る。
その日常の中で、三人だけが、違う重さを背負っていた。
真白は、胸の奥に残った違和感を、はっきり言葉にできずにいた。
外部。
外からの手。
亡霊は、まだ完全には消えていない。
「恋」
「なに?」
「……今日は、ここまで」
恋はすぐに頷いた。
「うん。十分すぎる」
宮坂は、二人に頭を下げた。
「……ごめん」
真白は、何も言わなかった。
許すとか、責めるとか、その前にやることがある。
平穏を取り戻すには、まだ一手、必要だった。
事実だけを、静かに、はっきりさせる。
そして、亡霊の影を、教室から追い出す。
真白は、そう決めて、恋と並んで校舎を出た。
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