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第7話
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突然のことに、グラキエス様は剣を抜くことができませんでした。彼の護衛も生徒達の波に流されてしまい、遠くで慌てています。こうなったら、自分自身で身を守るしかありません。
わたくしは妖精へ向けて叫びました。
「妖精達よ! 助けてちょうだい!」
『はいっ! 姫様っ!』
「きゃあああああああああッ!? 痛い! 痛い! 顔が痛いいいいいいッ……!」
ロサは悲鳴を上げると、鞄を落して地面に転がりました。
彼女には見えていないでしょうが、無数の妖精が群がってその顔をつねっているのです。しかしロサは痛みに耐えてこちらを睨むと、わたくしの足首を掴もうと手を伸ばしたのです。
「この馬鹿リリウム――ギャアッ!?」
その時、グラキエス様がロサの手を踏みつけました。彼は氷のように冷たい表情を浮かべ、彼女を見下ろしています。
「貴様、やはり斬って捨てる」
「グ、グラキエス様ッ……! それだけはやめて下さいッ……!」
わたくしの制止も聞かず、グラキエス様は剣を抜きます。
そして銀色の抜身が一閃しました。
「……ヒッ! ヒイイイィッ!?」
はらり、とロサの前髪が舞い散ります。
「本来なら斬り捨てたところだが……リリウム様に免じてこれで許してやる」
グラキエス様はそう告げると、剣を鞘へ仕舞います。一方、ロサは斬られて落ちた自分の前髪を見ると、青ざめて失神してしまいました。わたくしも足の力が抜け、その場に座り込んでしまいます。
「リリウム様、無事ですか?」
「はい……妖精達が守ってくれたので……」
「本当に申し訳ありません。俺が守れなかったばかりに、あなたの正体が生徒達にバレてしまって――」
「え?」
ふと顔を上げると、周囲の生徒達がこちらを見詰めていました。
「よ、妖精姫だ……!」
「リリウムさんは妖精姫だったんだ……!」
「素敵! 憧れのリリウム様が妖精姫だったなんて!」
「リリウム様、最高です! かっこいい!」
ワアアアと歓声が上がり、生徒達が興奮します。誰もが目を輝かせて、嬉しそうにしていました。わたくしはどうしていいのか分からずに、ただ座り込むばかりです。
「……リリウム様、今日は帰りましょう」
グラキエス様に、わたくしは頷きます。
「え、ええ……随分迷惑をかけてしまったし、帰りましょう……」
わたくしは皆に頭を下げると、グラキエス様と共に馬車に乗り込みました。しかし生徒達の興奮は収まることなく、いつまでもいつまでも歓声が続いているのです。
「あのう、妖精姫って嫌われ者ではないのですか……?」
わたくしはずっと妖精姫は人間に嫌われていると思っていました。なぜなら養女になったばかりの頃、リジューレ伯爵夫妻の目の前で妖精の力を使ったら、「気味が悪いから、妙な力を使うな」と言われたからです。
しかしグラキエス様は首を横に振って答えました。
「まさか。王族は過度に恐れていますが、それ以外の国民からは愛されていますよ。恐れ多いので、普段はその思いを口にしないみたいですけどね」
「あ、愛されているのですか……!?」
「ええ、妖精達の大切な姫ですから、人間達も敬愛しているのです」
その事実に、大きな衝撃を受けます。
「今後、リリウム様は学園で崇められることになりますよ」
グラキエス様の言葉に、わたくしは絶句していました。
わたくしは妖精へ向けて叫びました。
「妖精達よ! 助けてちょうだい!」
『はいっ! 姫様っ!』
「きゃあああああああああッ!? 痛い! 痛い! 顔が痛いいいいいいッ……!」
ロサは悲鳴を上げると、鞄を落して地面に転がりました。
彼女には見えていないでしょうが、無数の妖精が群がってその顔をつねっているのです。しかしロサは痛みに耐えてこちらを睨むと、わたくしの足首を掴もうと手を伸ばしたのです。
「この馬鹿リリウム――ギャアッ!?」
その時、グラキエス様がロサの手を踏みつけました。彼は氷のように冷たい表情を浮かべ、彼女を見下ろしています。
「貴様、やはり斬って捨てる」
「グ、グラキエス様ッ……! それだけはやめて下さいッ……!」
わたくしの制止も聞かず、グラキエス様は剣を抜きます。
そして銀色の抜身が一閃しました。
「……ヒッ! ヒイイイィッ!?」
はらり、とロサの前髪が舞い散ります。
「本来なら斬り捨てたところだが……リリウム様に免じてこれで許してやる」
グラキエス様はそう告げると、剣を鞘へ仕舞います。一方、ロサは斬られて落ちた自分の前髪を見ると、青ざめて失神してしまいました。わたくしも足の力が抜け、その場に座り込んでしまいます。
「リリウム様、無事ですか?」
「はい……妖精達が守ってくれたので……」
「本当に申し訳ありません。俺が守れなかったばかりに、あなたの正体が生徒達にバレてしまって――」
「え?」
ふと顔を上げると、周囲の生徒達がこちらを見詰めていました。
「よ、妖精姫だ……!」
「リリウムさんは妖精姫だったんだ……!」
「素敵! 憧れのリリウム様が妖精姫だったなんて!」
「リリウム様、最高です! かっこいい!」
ワアアアと歓声が上がり、生徒達が興奮します。誰もが目を輝かせて、嬉しそうにしていました。わたくしはどうしていいのか分からずに、ただ座り込むばかりです。
「……リリウム様、今日は帰りましょう」
グラキエス様に、わたくしは頷きます。
「え、ええ……随分迷惑をかけてしまったし、帰りましょう……」
わたくしは皆に頭を下げると、グラキエス様と共に馬車に乗り込みました。しかし生徒達の興奮は収まることなく、いつまでもいつまでも歓声が続いているのです。
「あのう、妖精姫って嫌われ者ではないのですか……?」
わたくしはずっと妖精姫は人間に嫌われていると思っていました。なぜなら養女になったばかりの頃、リジューレ伯爵夫妻の目の前で妖精の力を使ったら、「気味が悪いから、妙な力を使うな」と言われたからです。
しかしグラキエス様は首を横に振って答えました。
「まさか。王族は過度に恐れていますが、それ以外の国民からは愛されていますよ。恐れ多いので、普段はその思いを口にしないみたいですけどね」
「あ、愛されているのですか……!?」
「ええ、妖精達の大切な姫ですから、人間達も敬愛しているのです」
その事実に、大きな衝撃を受けます。
「今後、リリウム様は学園で崇められることになりますよ」
グラキエス様の言葉に、わたくしは絶句していました。
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