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二章 新しい自分
10-1 バトル開始!
しおりを挟む朝陽の案内で某娯楽施設に来た俺は、第一にそのぼろさに驚いた。
(なんだ、ここ!? ホラーハウス!?)
壁紙は剥げ、床は欠けているところが多い。
扉は全て薄いのか、人の声があちこちから聞こえてくる。
備品も少なく、至る所が補強された痕があるのが余計に味を出していた。
「す、すごいな……」
いや、いろんな意味で。
つい零した声を拾う人間は、ここにはいなかった。
「すごい……! こんなところがあったなんて、知らなかった!」
「兄貴、足元」
ガッと蜜希さんの足が欠けたタイルに引っかかる。
慌てて支えようとして出した手は、朝陽の方が早かった。
「あ、ありがとう」と蜜希さんが笑う。
その笑顔を見て、朝陽はどや顔でこちらを見た。
(わざわざこっちを見るな)
俺は舌を打ちたい気分になる。
そんな顔をしなくても、今の自分が朝陽に勝てないことは理解している。
俺たちは受付を済ませると、まずはボーリングをすることにした。
借りた靴が思った以上にぼろくて一瞬躊躇ったが、普通に履いている二人を見て思い切って足を突っ込む。
ボールを選ぶ時も、思った以上に少ないボールの中から選ばなくてはいけなかった。
(備品が少なすぎないか?)
ボールも靴も、ほとんどが親子向け、子供向けの物ばかりだ。
それだけ、この施設に足を運ぶ人間が少ないのだろう。
そんな推察をしながら、俺たちは準備を終える。
ボーリングは思った以上に楽しかった。
蜜希さんの変な投げ方も面白かったし、朝陽の見た目に寄らない綺麗なフォームも意外性があった。
(蜜希さん、あんな投げ方なのに結構ピン倒してたし)
なんであれで倒せるのか。
俺はずっと疑問に思っていた。結論は出なかったけど。
「アンタ、スペアとか。それでもアルファ?」
「は?」
そんな中、朝陽が俺を煽って来たのはもはや予想通りだった。
(こいつ……自分が一発でストライク取ったからって)
俺はこめかみに青筋を立てる。
今まではこういうところに来ても、ゲームに参加することはなかった。
理由は単純だ。
――『やったら勝ってしまうから』。
もちろん、参加したことはある。
しかし、その度に勝利を収め、『アルファに勝てるわけなかった』と言われるのは、正直うんざりしていた。
(勝てるまで練習してくればいいだろ、って何度か言いかけたな)
やがて、勝負ごとに手を出すのは人間関係を築くには悪手だと知り、それからは手を抜くか、傍観者になることが増えた。
(だからと言って、出来ないとは言ってねぇけど)
俺はボールを手に取って、レーンの前に出る。
蜜希さんの「がんばれー」という声を聞きながら、俺はさっきの朝陽の言葉を頭の中で反芻していた。
やっぱり、言われっぱなしは性に合わない。
俺はボールを投げた。
真っすぐ走る球体は、ピンのど真ん中に直撃する。
『ストライク!』と機械の声が聞こえた。
「誰がスペアしか取れないって?」
「はっ。できるなら最初からやりゃあいいだろうが」
朝陽を振り返り、俺は鼻を鳴らす。
バチバチと俺たちの間に火花が散った。
遠くでゴングが鳴り響く。――楽しい遊びはその瞬間、勝負となった。
「まあまあ、二人とも。元気出して?」
「……横から掻っ攫ってったやつに言われたくねぇ」
「今回ばかりは同感……」
俺と朝陽はがっくりと項垂れていた。
落としていた肩を蜜希さんの手が軽く叩く。
蜜希さんは「僕は運が良かったからねぇ」と笑った。
ボーリング対決の結果。
一位をもぎ取ったのは、まさかの蜜希さんだった。
俺と朝陽はお互いを意識するがあまり、静かに忍び寄ってくる蜜希さんに気が付かなかったのだ。
(運っていうか……)
完全に油断していた。
知っていたらどうにか対策を打てたのに。
きっと朝陽も同じことを思っているのだろう。
しきりに悔しそうに呟く彼は、ぶつぶつと悪態を吐いている。
直情的な彼は、そうして感情を抑えているようだった。
「よし! 次はカラオケに行こう!」
「「はっ!?」」
「もやもやした気持ちは、発散するに限るでしょ?」
蜜希さんの言葉に俺たちはぐっと眉を寄せる。
そのモヤモヤの原因を作ったのは、紛れもない蜜希さんなのだが。
(本人は気にしてないんだろうな)
わかってたけど。
テンションの上がった蜜希さんに連れられ、俺たちはカラオケボックスに入った。
最初の一曲目。
誰も入れようとしないのを見かねた蜜希さんが「それじゃあ、じゃんけんをして、負けた人から時計回りに入れていこう」と提案した。
全員が頷き、じゃんけんをする。
負けたのは、言い出した蜜希さんだった。
「こういうのは暁月くんあたりが負けるのが普通じゃない?」
「いや。一番目はさすがに……」
「んだよ。ひよってんの?」
朝陽が煽る。
しかし、俺は取り合わなかった。
蜜希さんは文句を言いながらも一曲目を入れる。
そのあとは朝陽、俺の順番だった。
オーソドックスな曲を入れる蜜希さん。
BPMの高いロックな曲を入れる朝陽。
二人とも思った以上に歌が上手く、俺は少し驚いた。
どちらも難しい曲だから余計に。
「はい、次は暁月くんの番。好きな曲入れていいよ」
蜜希さんがリモコンを手渡してくる。
俺はそれを受け取りながら、この場にふさわしいであろう曲目を考えていた。
「暁月くんって、歌も上手かったんだねぇ」
「あ、ありがとうございます」
「いやほんと。びっくりしちゃった」
蜜希さんのキラキラした視線が俺を見つめる。
べた褒めしてくる彼に、俺はつい気分が良くなっていた。
俺が選んだのは、誰もが一度は聞いたことのある曲だった。
アップテンポな曲調で、半分が英語の歌詞であるのが特徴的な曲でもある。
これなら朝陽も退屈せず、曲をあまり知らなさそうな蜜希さんでもわかるんじゃないかと思ったのだ。
「ねえねえ、次これ歌ってみてくれない?」
「ああ、これですか」
「英語の部分が難しくてなかなか歌えなくて……」
「結構早いですもんね」
「そうなんだよね」と蜜希さんが肩を落とす。
「最近の曲は早かったり、いろんな言語が混じっててホント難しい……歌える人を無条件に尊敬したくなるよ」
「そうでもないですよ。慣れれば簡単です」
「二十代後半に足突っ込んだおじさんでも?」
「まだまだ若いでしょう」
「そうかなぁ」と蜜希さんが口を尖らせる。
(ていうか、蜜希さんの年齢のこと、すっかり忘れてた)
ぱっと見、高校生と言っても通用しそうなほど、蜜希さんは若々しく見える。
もちろん、悪い意味ではない。
次の曲を選びながらも、俺に歌って欲しいという曲ばかりを見つける蜜希さん。
そのどれもがかなり難易度の高い曲だったが、それだけ蜜希さんに自分の歌声が刺さったのかと思うと、嬉しくもある。
「おい」
ガンッと机が音を立てる。
俺と蜜希さんは同時に肩を跳ね上げた。
振り返れば、苛立ちを全面に出した朝陽がこちらを睨んでいる。
厳つい靴底が机越しに顔を出している。
机を蹴ったらしい。
「いちゃついてねぇでさっさと次の入れろ」
「こら、朝陽」
「フン」
朝陽はそっぽを向く。
蜜希さんは「足を退けなさい」と朝陽の足を叩いた。
素直に下ろされる足。
(こいつ、もしかして蜜希さんの気を引きたくて机を蹴ったのか?)
もしそうなのだとしたら、なんて幼稚なのか。
懇々と説教をする蜜希さんの言葉を、朝陽はただ聞き流している。
その姿に、俺は自分の仮説が正しかったのだと理解した。
同時に、傍若無人な振る舞いが頭に来た。
「朝陽くん」
「あ? んだよ。勝手に名前呼ぶんじゃねぇ」
朝陽の鋭い視線が俺を見る。
その反応にまるでナイフみたいな子だな、と思った。
俺は蜜希さんからリモコンを受け取り、採点を入れる。
特徴的な音が響き、朝陽がハッとした顔をした。
「勝負、しようか」
再び響く、ゴングの音。
朝陽は少しの間驚いたように目を見開くと、にやりと口元を引き上げた。
「いいぜ」と彼の口が動く。
予想通りの言葉に、俺も口角を引き上げた。
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